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始まり
神様の我儘と全ての始まり4
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「……え、?」
「お前、死んでんだよ。心臓が限界迎えてそんままだ」
錫杖を持ったまま腕を組み何でもないことかのように告げる男の言葉に呆然と目を見開くしかない。嘘だ、と思おうにも死という存在は常に自分と隣り合わせだった。だから、否定なんて出来ないし、何より記憶がそれを事実だと突き付けて来る。
急激に動きを弱くする心臓、苦しくなる呼吸、命の終わりを残酷なほど冷静に告げて来る電子音、泣き叫ぶ母と、姉の声。それと、
『ジュン!!逝くな、ジュン!!』
滅多に感情を出さない父の声。
「……ぁ…、」
頭の中で電子音が鳴り響く中、まるでVTRのようなその記憶はプツリと途切れた。
がくっと膝から力が抜けてその場に座り込むと男と目線が合う。
「…僕は、死んだ?」
そろそろと自分の顔や首に手をやって首筋に指を当てて脈を確かめる。これは癖みたいなものだった。この指先に血管の脈動が触れる内は大丈夫、今日も生きていると安心出来た。
けれど、今、指で触れるその箇所には何もない。
体温はあるのに、指先にその流れは触れない。
理解度を越える出来事の筈なのに息も上がらないし苦しくもない。それは自分の心臓が動いていないことを否が応でもわからせるものだった。
「………、そっか、僕は死んだんだ」
すとんと腕を下に下ろして、殆ど息のような声で呟いた。
不思議と涙は出てこない。
嗚呼、死ぬってこんな感じなのか。という感覚だけが今は身体の中を巡っていた。
「…最後、笑えてたかな」
記憶にあるのは家族の泣き顔だけで、生憎自分のことはわからない。
ありがとうは、声を出せなかったから伝えることは出来なかったけど、それは今までこれでもかと言うほど伝えて来た。生まれた時から心臓が悪かった。だから遅かれ早かれ、こんな時が来るのはわかっていた。嗚呼、死んだのか。
「…泣かねえんだな」
何の感情も読み取れない声で呟かれた言葉に力無い笑みを返す。もう二度と家族と会えない、言葉を交わせない、それがどうしようもなく悲しいのに、安心している自分がいた。
「…僕は、おかしいんでしょうか」
何もない、床も天井も広さもわからない真っ白な空間に不思議と声はよく響いた。
痩せている身体に、青白い肌。パジャマの袖に隠れている腕には数多の注射跡があるだろう。細い自分の身体を抱き締めるように腕を回して口を開いた。
「…安心してるんです。もう、苦しまなくて良い、痛みを感じなくて済むって。あんなに、あんなに僕のことを心配してくれた人達がいるのに、それなのに、僕は、」
──こんなにも安心してる。
色々な感情が混ざり合ったその言葉は、最早無感情な音にさえ聞こえる。けれど神と名乗ったその男は特に何をするでもなく緩く首を傾けた。
「そんなもんだろうよ、大抵のやつは」
低く、地鳴りがするような声で呟かれた言葉に目を瞬いた。
「死ねば痛みも苦しみも無い。生きている間に感じていた様々を感じなくて済む。お前みたいな身体で生きてきた奴がそう思うのは当然だろう」
全てを見透かすような目で見られて動いていない筈の心臓がぎゅっと締まった気がした。
「それが普通だ、ジュン。」
真っ白な空間に男の声が響く。
は、と息が漏れたと同時にパタパタと涙がこぼれ落ちた。
声を出そうとすれば喉が引き攣り、涙を拭こうにも何故だか腕が上がらない。くしゃくしゃに顔を歪めて泣く自分はきっと見るに耐えない程不細工だろう。
けれど男は何も言わずにそんな自分をじっと見ていた。
これが何の涙かはわからない。
死んで安心したからか、もっと生きたかったからか、家族を想ってからか、その全てなのか。ただ、内から湧き上がる複雑過ぎる思いを泣くことでしか昇華できないことは確かだった。
「お前、死んでんだよ。心臓が限界迎えてそんままだ」
錫杖を持ったまま腕を組み何でもないことかのように告げる男の言葉に呆然と目を見開くしかない。嘘だ、と思おうにも死という存在は常に自分と隣り合わせだった。だから、否定なんて出来ないし、何より記憶がそれを事実だと突き付けて来る。
急激に動きを弱くする心臓、苦しくなる呼吸、命の終わりを残酷なほど冷静に告げて来る電子音、泣き叫ぶ母と、姉の声。それと、
『ジュン!!逝くな、ジュン!!』
滅多に感情を出さない父の声。
「……ぁ…、」
頭の中で電子音が鳴り響く中、まるでVTRのようなその記憶はプツリと途切れた。
がくっと膝から力が抜けてその場に座り込むと男と目線が合う。
「…僕は、死んだ?」
そろそろと自分の顔や首に手をやって首筋に指を当てて脈を確かめる。これは癖みたいなものだった。この指先に血管の脈動が触れる内は大丈夫、今日も生きていると安心出来た。
けれど、今、指で触れるその箇所には何もない。
体温はあるのに、指先にその流れは触れない。
理解度を越える出来事の筈なのに息も上がらないし苦しくもない。それは自分の心臓が動いていないことを否が応でもわからせるものだった。
「………、そっか、僕は死んだんだ」
すとんと腕を下に下ろして、殆ど息のような声で呟いた。
不思議と涙は出てこない。
嗚呼、死ぬってこんな感じなのか。という感覚だけが今は身体の中を巡っていた。
「…最後、笑えてたかな」
記憶にあるのは家族の泣き顔だけで、生憎自分のことはわからない。
ありがとうは、声を出せなかったから伝えることは出来なかったけど、それは今までこれでもかと言うほど伝えて来た。生まれた時から心臓が悪かった。だから遅かれ早かれ、こんな時が来るのはわかっていた。嗚呼、死んだのか。
「…泣かねえんだな」
何の感情も読み取れない声で呟かれた言葉に力無い笑みを返す。もう二度と家族と会えない、言葉を交わせない、それがどうしようもなく悲しいのに、安心している自分がいた。
「…僕は、おかしいんでしょうか」
何もない、床も天井も広さもわからない真っ白な空間に不思議と声はよく響いた。
痩せている身体に、青白い肌。パジャマの袖に隠れている腕には数多の注射跡があるだろう。細い自分の身体を抱き締めるように腕を回して口を開いた。
「…安心してるんです。もう、苦しまなくて良い、痛みを感じなくて済むって。あんなに、あんなに僕のことを心配してくれた人達がいるのに、それなのに、僕は、」
──こんなにも安心してる。
色々な感情が混ざり合ったその言葉は、最早無感情な音にさえ聞こえる。けれど神と名乗ったその男は特に何をするでもなく緩く首を傾けた。
「そんなもんだろうよ、大抵のやつは」
低く、地鳴りがするような声で呟かれた言葉に目を瞬いた。
「死ねば痛みも苦しみも無い。生きている間に感じていた様々を感じなくて済む。お前みたいな身体で生きてきた奴がそう思うのは当然だろう」
全てを見透かすような目で見られて動いていない筈の心臓がぎゅっと締まった気がした。
「それが普通だ、ジュン。」
真っ白な空間に男の声が響く。
は、と息が漏れたと同時にパタパタと涙がこぼれ落ちた。
声を出そうとすれば喉が引き攣り、涙を拭こうにも何故だか腕が上がらない。くしゃくしゃに顔を歪めて泣く自分はきっと見るに耐えない程不細工だろう。
けれど男は何も言わずにそんな自分をじっと見ていた。
これが何の涙かはわからない。
死んで安心したからか、もっと生きたかったからか、家族を想ってからか、その全てなのか。ただ、内から湧き上がる複雑過ぎる思いを泣くことでしか昇華できないことは確かだった。
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