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第二章 ヒノデの国(下)
かつての面影
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「こんにちはー」
「いらっしゃいませ、あらラファエルさん!こんにちは。黒眼鏡に変えられたんですね?」
活気のある昼過ぎ、時間にして十五時が近い頃だろうか。ラファエルは散歩してくるとアルフレッドに伝えて町に来ていた。その足に迷いはなく、真っ先に訪れたのは団吉が営む団子屋で、今日も店先に並んだ様々な団子に心を躍らせながら視線を上げると売り場って立っていたのはおみつでラファエルは瞬きをした。
「あれ、今日は団吉さんは?」
「今丁度配達に行っているんですよ。うちの団子を好きだって言ってくださる方がたくさんいらっしゃって、でも足が悪くて来られない方もご老人だと多いからたまに団吉さんが届けに行ってるんです」
なるほど、と頷いて再び団子を眺めていたラファエルだが視線を感じて目線を上げるとおみつと目があった。
「…顔に何かついてますか?」
「いえ違うんですごめんなさい。この前はわからなかったけど、ラファエルさんの目はとっても綺麗なんですね」
ああ、と今掛けている眼鏡に手をやる。マヅラとの勝負で使えなくなってしまったゴーグルはサングラスになってラファエルの顔に掛かっていた。黒いレンズは丸型で、中々レトロな作りをしているがそれがお洒落な気がしてラファエルは気に入っていた
ゴーグルのように全方位囲われている訳ではない為、見る角度によってはラファエルの青い目を微かに見ることが出来る。今は団子を見るために前傾姿勢になっていたからおみつからでも見ることが出来たのだろう。
「あはは、ありがとうございます。ゴーグル壊れちゃったんですよね、マヅラと喧嘩しちゃって」
「あああそうですよっ!大丈夫でしたか?お二人が無事にお宿に泊まれるようになったっていうのは町の噂で聞いてるし喧嘩のことも聞いてはいたんですが、あの双子に勝てる人がいるだなんて私とても信じられなくて…」
「なんとか勝てましたよ。マヅ、じゃないや。マロンさん拳が重いのなんのって」
「まろん…?」
「はい、なんか名前で呼ばれるの嫌みたいで」
「はあ……。…ぇ、待ってくださいマヅラさんと戦ったのってラファエルさんだったんですか?」
「そうですよ?」
「え、えええ?」
ただでさえ大きな目をこれ以上ない程開いて驚くおみつの姿にラファエルは布の下で楽しげに笑った。ラファエルはこの国に来てからほぼ毎日この団子屋に通っている。だから宿屋に泊まれるようになった次の日にも訪れたのだが、話を聞いた団吉も今のおみつと全く同じ反応をしていた。二人して同じ顔をするからおかしくて笑ってしまったのだ。
「まあ驚きますよね、体格から見たら僕の方が明らかに不利だし。あ、今日もみたらし団子ください。あとあんこと、え、お汁粉もある!それもください!」
ラファエルはヒノデの国に来てほとんど食道楽と化していた。団子はもちろん出汁のきいた惣菜や味噌汁、白米はどれだけ食べても飽きることはなく滞在中にこの国のグルメを全て堪能するのではないかと思うほどの勢いだった。
出立前にアルフレッドに行っていた生魚のことも実際に宿で刺身として出てきたがラファエルがなんの警戒もなく口に運んだことでアルフレッドも克服し、今では二人ともがこの国の料理が好きになっていた。
そうして今日も団吉の団子屋に訪れている訳だが、どうやらラファエルが来たときは中に通すと決まっているらしく会計が終わるとそのまま店内に促されてラファエルは団子を頬張っていた。
「やっぱりここのお団子が一番美味しいです」
「ありがとうございます。違うお店のも召し上がられたんですか?」
「はい。でもなんだろう、どこも美味しかったんですけどここが一番だって思ったんですよね」
もぐもぐと咀嚼するラファエルを店番をしながら見ているおみつの表情は柔らかい。
「そりゃあそうですよ。なんてったって団吉さんのお団子には愛情がこもっていますから」
けして大輪ではないけれど、桜の花が綻ぶように笑うその笑顔にラファエルの時間が少し止まる。ラファエルはこの団子屋が好きだった。けれど、おみつにはあまり会いたくはなかった。
「そういえばラファエルさん外の方なのにお汁粉ご存知だったんですね。以前どこかで?」
団子の皿が乗ったお盆にはお椀につがれたお汁粉があった。湯気の立つそれからは仄かに甘い香りと焼いた餅の香ばしい香りがした。
冬の寒い時、まだ自由に歩けていた時、白い息を吐きながら、確かに家族と食べた思い出があった。
「……子供の頃、一度だけ」
そういってラファエルははっとした。今出た言葉はラファエルのものじゃない。
告げてはいけない内容だったと頬の内側の肉を噛み、不自然にならないようにおみつの方へと視線を向ける。するとやはりおみつは驚いたように目を丸くしていて、ラファエルはしまったなと胸中で呟いた。
「…そうですか。ラファエルさんが子供だった時…。やっぱり外の世界が見たかったんですね、その人も」
ラファエルが子供だった時、この世界ではまだヒノデの国は鎖国中で料理などが出回るはずがないのに、おみつは静かに笑って一度だけ視線を店の外に向け客がいないのを確認してからまたラファエルへと戻した。ラファエルは何を言われるのかわからずおみつを見るしか出来ない。いつの間にか食べていたみたらし団子の味はわからなくなっていた。
「いらっしゃいませ、あらラファエルさん!こんにちは。黒眼鏡に変えられたんですね?」
活気のある昼過ぎ、時間にして十五時が近い頃だろうか。ラファエルは散歩してくるとアルフレッドに伝えて町に来ていた。その足に迷いはなく、真っ先に訪れたのは団吉が営む団子屋で、今日も店先に並んだ様々な団子に心を躍らせながら視線を上げると売り場って立っていたのはおみつでラファエルは瞬きをした。
「あれ、今日は団吉さんは?」
「今丁度配達に行っているんですよ。うちの団子を好きだって言ってくださる方がたくさんいらっしゃって、でも足が悪くて来られない方もご老人だと多いからたまに団吉さんが届けに行ってるんです」
なるほど、と頷いて再び団子を眺めていたラファエルだが視線を感じて目線を上げるとおみつと目があった。
「…顔に何かついてますか?」
「いえ違うんですごめんなさい。この前はわからなかったけど、ラファエルさんの目はとっても綺麗なんですね」
ああ、と今掛けている眼鏡に手をやる。マヅラとの勝負で使えなくなってしまったゴーグルはサングラスになってラファエルの顔に掛かっていた。黒いレンズは丸型で、中々レトロな作りをしているがそれがお洒落な気がしてラファエルは気に入っていた
ゴーグルのように全方位囲われている訳ではない為、見る角度によってはラファエルの青い目を微かに見ることが出来る。今は団子を見るために前傾姿勢になっていたからおみつからでも見ることが出来たのだろう。
「あはは、ありがとうございます。ゴーグル壊れちゃったんですよね、マヅラと喧嘩しちゃって」
「あああそうですよっ!大丈夫でしたか?お二人が無事にお宿に泊まれるようになったっていうのは町の噂で聞いてるし喧嘩のことも聞いてはいたんですが、あの双子に勝てる人がいるだなんて私とても信じられなくて…」
「なんとか勝てましたよ。マヅ、じゃないや。マロンさん拳が重いのなんのって」
「まろん…?」
「はい、なんか名前で呼ばれるの嫌みたいで」
「はあ……。…ぇ、待ってくださいマヅラさんと戦ったのってラファエルさんだったんですか?」
「そうですよ?」
「え、えええ?」
ただでさえ大きな目をこれ以上ない程開いて驚くおみつの姿にラファエルは布の下で楽しげに笑った。ラファエルはこの国に来てからほぼ毎日この団子屋に通っている。だから宿屋に泊まれるようになった次の日にも訪れたのだが、話を聞いた団吉も今のおみつと全く同じ反応をしていた。二人して同じ顔をするからおかしくて笑ってしまったのだ。
「まあ驚きますよね、体格から見たら僕の方が明らかに不利だし。あ、今日もみたらし団子ください。あとあんこと、え、お汁粉もある!それもください!」
ラファエルはヒノデの国に来てほとんど食道楽と化していた。団子はもちろん出汁のきいた惣菜や味噌汁、白米はどれだけ食べても飽きることはなく滞在中にこの国のグルメを全て堪能するのではないかと思うほどの勢いだった。
出立前にアルフレッドに行っていた生魚のことも実際に宿で刺身として出てきたがラファエルがなんの警戒もなく口に運んだことでアルフレッドも克服し、今では二人ともがこの国の料理が好きになっていた。
そうして今日も団吉の団子屋に訪れている訳だが、どうやらラファエルが来たときは中に通すと決まっているらしく会計が終わるとそのまま店内に促されてラファエルは団子を頬張っていた。
「やっぱりここのお団子が一番美味しいです」
「ありがとうございます。違うお店のも召し上がられたんですか?」
「はい。でもなんだろう、どこも美味しかったんですけどここが一番だって思ったんですよね」
もぐもぐと咀嚼するラファエルを店番をしながら見ているおみつの表情は柔らかい。
「そりゃあそうですよ。なんてったって団吉さんのお団子には愛情がこもっていますから」
けして大輪ではないけれど、桜の花が綻ぶように笑うその笑顔にラファエルの時間が少し止まる。ラファエルはこの団子屋が好きだった。けれど、おみつにはあまり会いたくはなかった。
「そういえばラファエルさん外の方なのにお汁粉ご存知だったんですね。以前どこかで?」
団子の皿が乗ったお盆にはお椀につがれたお汁粉があった。湯気の立つそれからは仄かに甘い香りと焼いた餅の香ばしい香りがした。
冬の寒い時、まだ自由に歩けていた時、白い息を吐きながら、確かに家族と食べた思い出があった。
「……子供の頃、一度だけ」
そういってラファエルははっとした。今出た言葉はラファエルのものじゃない。
告げてはいけない内容だったと頬の内側の肉を噛み、不自然にならないようにおみつの方へと視線を向ける。するとやはりおみつは驚いたように目を丸くしていて、ラファエルはしまったなと胸中で呟いた。
「…そうですか。ラファエルさんが子供だった時…。やっぱり外の世界が見たかったんですね、その人も」
ラファエルが子供だった時、この世界ではまだヒノデの国は鎖国中で料理などが出回るはずがないのに、おみつは静かに笑って一度だけ視線を店の外に向け客がいないのを確認してからまたラファエルへと戻した。ラファエルは何を言われるのかわからずおみつを見るしか出来ない。いつの間にか食べていたみたらし団子の味はわからなくなっていた。
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