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第二章 西の国の花の祭り編
対魔族
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ドン、と体を風圧か何かで強く押された。否、爆撃にあったと言ってもいいかもしれない。
「‼︎」
硬い地面に体が叩き付けられ、その拍子に手から杖が落ちた。肺の中から一気に全ての酸素が抜けていくような衝撃と、一拍置いてやってきた鈍痛に表情が歪む。
遺跡の壁の一部が崩れ落ちる音がして、視界が一気に明るくなったことで多分外に出たのだと悟る。けれど、それを確認するような余裕がステラにはない。
「ぐうっ!」
肩を何かに強く押さえ付けられて仰向けにされ、そのまま腹に重くのし掛かられた。内臓と骨を同時に潰そうとする程の圧力に喉の奥から引き攣った息が漏れ、痛みに全身が硬直する。けれどこのままやられてしまう程、ステラもやわな旅をしてきた訳ではない。
自由に動かせる右腕を腹に乗っている存在に突きつけて声を振り絞る。
「離れなさい…っ!」
瞬間、右手が発火したような熱を持つ。目が眩むような閃光が炸裂し「ギャアア!」とモンスターと人間の中間のような叫び声を上げ、腹の上からそれが退いた。一気に供給される酸素に咳き込みながらステラは転がるように距離を取り、杖を回収して立ち上がる。
息を乱しながら杖を構え目をこらすと、しっかりと確認できたその姿にステラは緊張を覚えた。
「……魔族」
手足は長いが枝のように細く、けれど腹は水が溜まっているのかと思うほど膨れている。人と同じように五体はあるのに、決して人間ではない。かといってモンスターという訳でもない半端なもの。リヴィウスをはじめとした完全な人型の上位魔族とは姿形も、そして纏うオーラも持っている魔力量もまるで違うそれは魔族の中でも下位の存在だとわかる。
けれど目の前にいる長い舌を出して涎を垂らす魔族から立ち登る魔力はただ弱い存在ではないと、ステラの経験が言っていた。
無意識に杖を握る手に力が込もる。実力だけでいうなら間違いなく自分の方が強いだろうが、いつだって戦いという瞬間になれば緊張する。それに今、ステラは一人だ。
目の前にはいつでも自分を守ってくれていた仲間も、リヴィウスもいない。
「オマエを食えば、オレはもっと強くナレそうだ」
しゃがれた、声がいくつも重なったような。不協和音のような声に眉間に皺が寄る。
「……まるで他にも人を喰らってきたような言い方ですね」
魔族の濁った目がステラを見ていやらしく細められた。歪な程に口角が上がり、鋭い牙が見えた。
「ああ、ココに来る冒険シャは弱い人間ばかりダ。簡単に食えた」
「……そうですか」
きっと、勇者リヒトであればここで怒ったのだろう。なんて残忍なことをしたんだと、許せないと、ステラとはまた違うどこまでも澄んだ空のような青い瞳を怒りに震わせるのだろう。けれど、ステラはそうではない。ステラの心には可哀想だと思う心はあれど、魔族に対する怒りなんて湧いてこない。
だって彼らは生きる為に、より強い個体になる為に最善手を打っただけなのだから。それは生物として間違った選択肢ではないはずだから。
けれど、ではここで捨て置くのかと問われたら、答えはノーだ。
構えた杖の先に魔力が集中していく。魔力により巻き上がった風が肩までの黒髪を揺らし、視線を魔族から逸らさないまま口を開く。細く小さな息に混ざった声が魔族の命を消し去ろうとした瞬間、底冷えするようなプレッシャーが襲って来た。
「!」
これに焦ったのはステラではなく、目の前の魔族だった。
「コノ魔力は⁉︎」
否、違う。ステラも焦っていた。ステラはこの圧力を知っている。全てを押さえ付けるような、命も尊厳も全てを根本から刈り取ってしまうようなこの圧倒的な力を。その力を目前にした時、恐怖で足が竦んだのも覚えている。
けれど今ステラを支配しているのは恐怖ではない。でも焦燥に駆り立てるこの衝動の名前をステラは知らない。知らないけれど頭の中に浮かんだのは「ダメだ」という言葉だった。
(駄目、駄目だ。この人にさせては駄目だ!)
魔族が上を見て歓喜に打ち震えているのが理解出来た。迫っている人を見て、まるで神に出会った人間のような表情をしていると思った。
けれど違うのだ。このプレッシャーはステラに向けられたものではない。これは魔族に向けられたものだ。魔族であったリヴィウスが同胞に向けている殺気なのだ。
(それだけは、させては駄目だ)
ステラの杖が魔族を捕えた。照準を合わせて、魔法を展開する。
「──…」
一瞬の閃光の後、轟音が響いた。
雲ひとつない青空から迸った一筋の稲妻が魔族を貫く。瞬きの間に文字通り影も形も消え失せたその姿に、ステラは構えていた杖を下ろし役目を終えたそれは瞬く間にインベントリに収納される。木に止まっていた鳥が一斉に羽ばたいて、静寂の中ではその音が不気味な程よく響いた。
すとん、と軽く着地する音が背後から聞こえた。その音が誰のものかなんて、考えなくてもわかる。ステラは振り向いた。けれどどんな言葉を掛ければいいのかも、どんな表情をしたらいいのかもわからなかった。
「‼︎」
硬い地面に体が叩き付けられ、その拍子に手から杖が落ちた。肺の中から一気に全ての酸素が抜けていくような衝撃と、一拍置いてやってきた鈍痛に表情が歪む。
遺跡の壁の一部が崩れ落ちる音がして、視界が一気に明るくなったことで多分外に出たのだと悟る。けれど、それを確認するような余裕がステラにはない。
「ぐうっ!」
肩を何かに強く押さえ付けられて仰向けにされ、そのまま腹に重くのし掛かられた。内臓と骨を同時に潰そうとする程の圧力に喉の奥から引き攣った息が漏れ、痛みに全身が硬直する。けれどこのままやられてしまう程、ステラもやわな旅をしてきた訳ではない。
自由に動かせる右腕を腹に乗っている存在に突きつけて声を振り絞る。
「離れなさい…っ!」
瞬間、右手が発火したような熱を持つ。目が眩むような閃光が炸裂し「ギャアア!」とモンスターと人間の中間のような叫び声を上げ、腹の上からそれが退いた。一気に供給される酸素に咳き込みながらステラは転がるように距離を取り、杖を回収して立ち上がる。
息を乱しながら杖を構え目をこらすと、しっかりと確認できたその姿にステラは緊張を覚えた。
「……魔族」
手足は長いが枝のように細く、けれど腹は水が溜まっているのかと思うほど膨れている。人と同じように五体はあるのに、決して人間ではない。かといってモンスターという訳でもない半端なもの。リヴィウスをはじめとした完全な人型の上位魔族とは姿形も、そして纏うオーラも持っている魔力量もまるで違うそれは魔族の中でも下位の存在だとわかる。
けれど目の前にいる長い舌を出して涎を垂らす魔族から立ち登る魔力はただ弱い存在ではないと、ステラの経験が言っていた。
無意識に杖を握る手に力が込もる。実力だけでいうなら間違いなく自分の方が強いだろうが、いつだって戦いという瞬間になれば緊張する。それに今、ステラは一人だ。
目の前にはいつでも自分を守ってくれていた仲間も、リヴィウスもいない。
「オマエを食えば、オレはもっと強くナレそうだ」
しゃがれた、声がいくつも重なったような。不協和音のような声に眉間に皺が寄る。
「……まるで他にも人を喰らってきたような言い方ですね」
魔族の濁った目がステラを見ていやらしく細められた。歪な程に口角が上がり、鋭い牙が見えた。
「ああ、ココに来る冒険シャは弱い人間ばかりダ。簡単に食えた」
「……そうですか」
きっと、勇者リヒトであればここで怒ったのだろう。なんて残忍なことをしたんだと、許せないと、ステラとはまた違うどこまでも澄んだ空のような青い瞳を怒りに震わせるのだろう。けれど、ステラはそうではない。ステラの心には可哀想だと思う心はあれど、魔族に対する怒りなんて湧いてこない。
だって彼らは生きる為に、より強い個体になる為に最善手を打っただけなのだから。それは生物として間違った選択肢ではないはずだから。
けれど、ではここで捨て置くのかと問われたら、答えはノーだ。
構えた杖の先に魔力が集中していく。魔力により巻き上がった風が肩までの黒髪を揺らし、視線を魔族から逸らさないまま口を開く。細く小さな息に混ざった声が魔族の命を消し去ろうとした瞬間、底冷えするようなプレッシャーが襲って来た。
「!」
これに焦ったのはステラではなく、目の前の魔族だった。
「コノ魔力は⁉︎」
否、違う。ステラも焦っていた。ステラはこの圧力を知っている。全てを押さえ付けるような、命も尊厳も全てを根本から刈り取ってしまうようなこの圧倒的な力を。その力を目前にした時、恐怖で足が竦んだのも覚えている。
けれど今ステラを支配しているのは恐怖ではない。でも焦燥に駆り立てるこの衝動の名前をステラは知らない。知らないけれど頭の中に浮かんだのは「ダメだ」という言葉だった。
(駄目、駄目だ。この人にさせては駄目だ!)
魔族が上を見て歓喜に打ち震えているのが理解出来た。迫っている人を見て、まるで神に出会った人間のような表情をしていると思った。
けれど違うのだ。このプレッシャーはステラに向けられたものではない。これは魔族に向けられたものだ。魔族であったリヴィウスが同胞に向けている殺気なのだ。
(それだけは、させては駄目だ)
ステラの杖が魔族を捕えた。照準を合わせて、魔法を展開する。
「──…」
一瞬の閃光の後、轟音が響いた。
雲ひとつない青空から迸った一筋の稲妻が魔族を貫く。瞬きの間に文字通り影も形も消え失せたその姿に、ステラは構えていた杖を下ろし役目を終えたそれは瞬く間にインベントリに収納される。木に止まっていた鳥が一斉に羽ばたいて、静寂の中ではその音が不気味な程よく響いた。
すとん、と軽く着地する音が背後から聞こえた。その音が誰のものかなんて、考えなくてもわかる。ステラは振り向いた。けれどどんな言葉を掛ければいいのかも、どんな表情をしたらいいのかもわからなかった。
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