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第三章 東の国の大きなお風呂編
少しわかってきた元魔王様
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「え、さっきのとは?」
一瞬リヴィウスとステラの間に流れた妙な空気を塗り替えてくれたてぷに内心ステラは感謝をしながら胸元にいるてぷに視線を向けた。
『ステラがリヴィに落とされたやつだぞ。あれ楽しかったんだぞ!』
きらきらとした目で訴える姿にステラはぐ、と喉の奥から変な音が鳴った。無邪気な姿はいつだってステラの心臓を無数の矢で射抜いてくるのだ。だがしかし、これはきちんと訂正せねばならないとステラは小さく咳払いをした。
「てぷ様、さっきのはリヴィが勝手にやったことなので私はもうしません」
『ええ…』
「でも」
『でも…?』
ステラはにんまりと笑った。悪戯を思いついた人はこんな気持ちだったのかと、ステラはその時そう思いながらてぷを手のひらに乗せて、そのまま少し離れた場所にひょいと投げた。
「これなら大丈夫です!」
『きゃーーーー!』
ぱしゃん、と軽い音と一緒にお湯の中に落ちていったてぷが数秒としないうちに水面から顔を出した。ぷるぷると首を横に振って水分を飛ばし、しゅばっとステラの方を見る。
器用に泳ぎながらステラの元に戻ってきたてぷの瞳はどんな宝石よりも輝いていた。
『もう一回、もう一回だぞ!』
「ふふ、わかりました」
ステラが差し出した両手の中にいそいそと乗ろうとしたてぷを、頭から大きな手が掴んだ。
『お?』
ブォン、そんな風を切る音と一緒にてぷが空高くにまで投げられる。
「てぷ様‼︎ り、リヴィなんてことするんですか! あんな高さからなんててぷ様に何かあったら」
「あるわけないだろう、あいつは精霊だぞ」
「でも万が一があるでしょう!」
一仕事終えた、みたいな顔をしているリヴィウスの肩を掴んで体を揺らそうとするのだが体格差のせいかびくともしない。それにカチンときたステラはリヴィウスにもお湯をかけてやろうとするのだがふと楽しげな声が届いた。『きゃーーーー!!』遠いところから段々近づき、そしてぱしゃあん! とお湯の中に入ってきたそれは間違いなくてぷである。
ちゃぽ、と水面に浮いたてぷはへそ天だ。てっぷりとしたお腹が月明かりに照らされて非常につやつやとしている。もしかして気絶か? と焦ったステラを止めたのはまたしてもリヴィウスである。その表情はどこまでも呆れを含んでいた。
『リヴィ! 今のもっとやるんだぞ! すっごく楽しいんだぞ!』
「嫌だ風呂くらいゆっくり入らせろ」
『嫌なんだぞまだやるんだぞ! リヴィ~~~!』
「やかましい」
そんなやりとりをしていたが結局リヴィウスはこの遊びにあと五回付き合わされた。二人の仲の良さを改めて確認しながらステラはその間にしれっと髪や身体を洗ってゆっくりと温泉に浸かり直している。
合計で六回も遊んだてぷはもう十分満足したのか、遊び疲れたのか、それとも体が熱いのか『涼むんだぞ』と言い残して夜空を散歩しに行ってしまった。この暗闇だし、元々精霊の姿は普通の人には視認出来ないし大丈夫だろうとステラはそれを見送ったのだった。
「……涼みたいのはどう考えても俺だろう」
やれやれといった風に呟いたリヴィウスにクスリと笑う。
「なんやかんやリヴィもてぷ様に甘いですね?」
「……お前が甘やかすから移った」
「あ、人のせいにした」
「事実だ」
てぷがいないと二人の間に流れる空気はとても静かだ。互いに沈黙が苦にならない性格なのもあるだろう。
「楽しみですね、芋揚げ」
「ああ」
「明日のキキョウさんのご相談ってなんでしょうね?」
「知らん」
「もうちょっと考えてくれても良くないですか?」
「わからないものを考えてどうする。時間の無駄だ」
取り付く島もない、と普通の人なら言うのだろうがこのぶっきらぼうさがリヴィウスなのだと理解しているからステラは楽しそうに笑う。それに怪訝そうな顔をしてステラを見たリヴィウスが短く息を吐く。
「……どうして笑う。お前の笑う場所はよくわからん」
「ふふ、理由もなく笑える時だってあるのですよ」
「人間はよくわからん」
「でもはじめよりはわかったでしょう?」
そう訊くとリヴィウスは少しだけ黙った。その沈黙は何かを思い出しているものだ。
「……そうだな」
やがて静かに頷いたリヴィウスに笑みを深める。けれど次に出た言葉にステラはパチパチと瞬きをした。
「人間は無駄を好むな」
「どうしてそう思ったんですか?」
「……例えば、花祭りの街で見た結婚式とかいうやつだ。どうして大勢で祝う必要がある。食事だってそうだ。食えればいいのに見た目に気を遣う。……あの鉱石を売っていた男もだ。ステラの目の色を他の人間が持ってどうするんだ。なんの役にも立ちはしないのに」
言われてみれば確かに、とステラは頷いた。
「確かに無駄かもしれませんね。でも、その無駄を愛することも、人間の特権だと思うんです」
「……あい?」
「はい」
いまいち納得のいっていないリヴィウスを見てステラはくすくすと笑う。そうしていれば涼み終わったらしいてぷが戻ってきて、三人は風呂を上がることにした。
一瞬リヴィウスとステラの間に流れた妙な空気を塗り替えてくれたてぷに内心ステラは感謝をしながら胸元にいるてぷに視線を向けた。
『ステラがリヴィに落とされたやつだぞ。あれ楽しかったんだぞ!』
きらきらとした目で訴える姿にステラはぐ、と喉の奥から変な音が鳴った。無邪気な姿はいつだってステラの心臓を無数の矢で射抜いてくるのだ。だがしかし、これはきちんと訂正せねばならないとステラは小さく咳払いをした。
「てぷ様、さっきのはリヴィが勝手にやったことなので私はもうしません」
『ええ…』
「でも」
『でも…?』
ステラはにんまりと笑った。悪戯を思いついた人はこんな気持ちだったのかと、ステラはその時そう思いながらてぷを手のひらに乗せて、そのまま少し離れた場所にひょいと投げた。
「これなら大丈夫です!」
『きゃーーーー!』
ぱしゃん、と軽い音と一緒にお湯の中に落ちていったてぷが数秒としないうちに水面から顔を出した。ぷるぷると首を横に振って水分を飛ばし、しゅばっとステラの方を見る。
器用に泳ぎながらステラの元に戻ってきたてぷの瞳はどんな宝石よりも輝いていた。
『もう一回、もう一回だぞ!』
「ふふ、わかりました」
ステラが差し出した両手の中にいそいそと乗ろうとしたてぷを、頭から大きな手が掴んだ。
『お?』
ブォン、そんな風を切る音と一緒にてぷが空高くにまで投げられる。
「てぷ様‼︎ り、リヴィなんてことするんですか! あんな高さからなんててぷ様に何かあったら」
「あるわけないだろう、あいつは精霊だぞ」
「でも万が一があるでしょう!」
一仕事終えた、みたいな顔をしているリヴィウスの肩を掴んで体を揺らそうとするのだが体格差のせいかびくともしない。それにカチンときたステラはリヴィウスにもお湯をかけてやろうとするのだがふと楽しげな声が届いた。『きゃーーーー!!』遠いところから段々近づき、そしてぱしゃあん! とお湯の中に入ってきたそれは間違いなくてぷである。
ちゃぽ、と水面に浮いたてぷはへそ天だ。てっぷりとしたお腹が月明かりに照らされて非常につやつやとしている。もしかして気絶か? と焦ったステラを止めたのはまたしてもリヴィウスである。その表情はどこまでも呆れを含んでいた。
『リヴィ! 今のもっとやるんだぞ! すっごく楽しいんだぞ!』
「嫌だ風呂くらいゆっくり入らせろ」
『嫌なんだぞまだやるんだぞ! リヴィ~~~!』
「やかましい」
そんなやりとりをしていたが結局リヴィウスはこの遊びにあと五回付き合わされた。二人の仲の良さを改めて確認しながらステラはその間にしれっと髪や身体を洗ってゆっくりと温泉に浸かり直している。
合計で六回も遊んだてぷはもう十分満足したのか、遊び疲れたのか、それとも体が熱いのか『涼むんだぞ』と言い残して夜空を散歩しに行ってしまった。この暗闇だし、元々精霊の姿は普通の人には視認出来ないし大丈夫だろうとステラはそれを見送ったのだった。
「……涼みたいのはどう考えても俺だろう」
やれやれといった風に呟いたリヴィウスにクスリと笑う。
「なんやかんやリヴィもてぷ様に甘いですね?」
「……お前が甘やかすから移った」
「あ、人のせいにした」
「事実だ」
てぷがいないと二人の間に流れる空気はとても静かだ。互いに沈黙が苦にならない性格なのもあるだろう。
「楽しみですね、芋揚げ」
「ああ」
「明日のキキョウさんのご相談ってなんでしょうね?」
「知らん」
「もうちょっと考えてくれても良くないですか?」
「わからないものを考えてどうする。時間の無駄だ」
取り付く島もない、と普通の人なら言うのだろうがこのぶっきらぼうさがリヴィウスなのだと理解しているからステラは楽しそうに笑う。それに怪訝そうな顔をしてステラを見たリヴィウスが短く息を吐く。
「……どうして笑う。お前の笑う場所はよくわからん」
「ふふ、理由もなく笑える時だってあるのですよ」
「人間はよくわからん」
「でもはじめよりはわかったでしょう?」
そう訊くとリヴィウスは少しだけ黙った。その沈黙は何かを思い出しているものだ。
「……そうだな」
やがて静かに頷いたリヴィウスに笑みを深める。けれど次に出た言葉にステラはパチパチと瞬きをした。
「人間は無駄を好むな」
「どうしてそう思ったんですか?」
「……例えば、花祭りの街で見た結婚式とかいうやつだ。どうして大勢で祝う必要がある。食事だってそうだ。食えればいいのに見た目に気を遣う。……あの鉱石を売っていた男もだ。ステラの目の色を他の人間が持ってどうするんだ。なんの役にも立ちはしないのに」
言われてみれば確かに、とステラは頷いた。
「確かに無駄かもしれませんね。でも、その無駄を愛することも、人間の特権だと思うんです」
「……あい?」
「はい」
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