【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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番外編

明日はどんな一日になるだろう

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 この世界に魔王として出現したその瞬間から、彼には己が辿る運命が視えていた。

 ただはっきりとしているものではない。断片的なもので、例えるなら物語のようだった。事細かに描かれている訳ではなく、流れを追うように視えるその未来は出現したばかりの魔王にとっては煩わしいものでしかなかった。
 だから始めの二百年はその物語に反発するように自らが先頭に立って人間を蹂躙するよう魔族たちに命令を下した。そうして人間が滅べば、物語が嘘であるという証明になるからだ。

 けれどその二百年の間、幾度となく人間を窮地に追い込んだのに滅ぼすことは出来なかった。理由は簡単で、魔族にとって人間は食糧で無くなると困るからだ。
 そうなるとわかっていたから魔王は人間が魔族の支配下でも繁殖出来るような策を練ったが、その計画は全て無駄に終わった。大半の魔族は知能が低いからだ。
 そんなことが二百年以上続いたある日のことだ、魔王の目の前にちんちくりんなドラゴンが現れたのだ。

『お前とトモダチになりに来たんだぞ!』

 あまりに短い前足を腰に当て、ふんぞりかえりながら言い切るこのドラゴンを魔王は知っていた。断片的な物語の中に出て来る登場人物の一人だ。
 闇の精霊。それが目の前に現れたことで、魔王は痛感した。頭の中にしか存在しないと思っていた馬鹿らしい物語は現実に起こり得ることなのだと。足掻いても無駄なのだと思い知った。
 それから魔王は人間を蹂躙するのをやめた。やめたところで文句を言う存在なんていやしない。それぞれが勝手に人間を殺し、惑わし、世界を混乱に陥れていく。もう好きにしてくれと魔王は思った。有り体に言えば、魔王はもう生きることにも闘うことにも飽きてきたのだ。

 頭の中の物語が魔王が栄華を極める終わりならばもっと違っていたかもしれない。けれどこの物語の終わりは魔王の死だ。
 死ぬために残りの数百年を生きねばならない空虚が魔王を襲い、無気力を加速させた。けれどそんな魔王の前に闇の精霊がひょこりと現れるのだ。

『お前はいっつもつまらなさそうな顔をしてるんだぞ』
「……貴様は気の抜けた顔だな」
『何だと! ボクはお前よりずっとずーっと年上なんだぞ! すごくすごいんだぞ!』

 目を吊り上げてキャンキャンと吠える小さな存在を魔王は最初こそ煩わしく思っていた。けれど月日が経つにつれてその存在が当たり前になっていった。

「お前はどうして俺の元に来た。精霊は魔族を嫌うだろう」
『お前が独りぼっちだったからだぞ』
「……なに」
『濃い闇の魔力を辿って来たら、お前が寂しそうにしてたからトモダチになりに来たんだぞ。ふふん、どうだ。ボクがいるからもう寂しくないんだぞ』

 魔王はす、と闇の精霊を吹き飛ばした。怒り心頭で戻ってきた闇の精霊との喧嘩はしょっちゅうで、でもその時間が魔王の退屈な時間を埋めたのは確かだった。そんな時間がどれ程過ぎただろうか、気が付けば出現して九百年以上の時が過ぎていた。
 そんな時、ふと一つの気配を感じた。それは闇の精霊ではなく、目の奥を灼くような鮮烈な、だがそれでいて優しい光。頭の中の物語がパラパラと捲れて、そしてある場面で止まる。その場面と、時の流れを考えて魔王は目を細めた。

「……お前は勇者と聖女という存在を知っているのか」
『それがどうしたんだぞ?』
「生まれたぞ、どちらも」

 闇の精霊の表情がわかりやすく強張った。それの意味するところを魔王だけは知っている。勇者が生まれるということは魔王を討伐しに来るということ。そしてそれには精霊の加護が必須条件だ。

「お前が勇者たちに加護を与えたとしても恨まないから安心しろ」

 こんな軽口が言えるのも、魔王が未来を知っているからだ。

『……何でそんなこと言うんだぞ』

 精霊の表情が翳った。

「何となくだ」

 魔王は知っている。闇の精霊が勇者たちに加護を与えないということを。その結果勇者たちは窮地に陥るが、結果は魔王が倒されて終わるのだ。勇者たちの絆の前に散る、そんな楽しくも何ともない終わり方だ。
 だが魔王はその終わりが待ち遠しくもあった。
 闇の精霊に出会えたとはいえ、空虚な千年だったと思う。勇者たちに殺される為の千年を生き続けねばならないのはとても退屈で虚しかった。それが終わるのであればこんな喜ばしいことはないと思っていたのに、やっと終われたと思ったのに、馬鹿げたことが起きた。

『起きたのかお前―――!』
 


 ───


 あの訳のわからない出来事から二年の月日が経とうとしていた。辺鄙な場所に建った家の庭に設置された椅子にリヴィウスが座り、テーブルにてぷが立っている。

『リヴィ、ステラと暮らすのは楽しいんだぞ?』

 頻度は減ったけれど数百年前と変わらずリヴィウスの側にはてぷがいて、今ではステラという存在も出来た。

「悪くはない」
『そこは素直に楽しいって言うんだぞ。全くお前は相変わらず素直じゃないんだぞ』

 やれやれと首を横に振る小さく、そしてここ数年で丸さに磨きが掛かった身体を見てリヴィウスは眉間に皺を寄せた。
 一度勇者に殺され、聖女によって生き返ったリヴィウスにはもう未来は視えていない。これから先起こることがわからないというのは存外不便なのだなと、最近になってようやく思えるようになったがリヴィウスは今が気に入っていた。

 何が起こるかわからない毎日は意外にも楽しい。三人で旅をしていた時はステラが攫われる度に未来視があればと思わないでもなかったが、そんなイレギュラーさえなければこの毎日は魔王であった頃とは比べ物にならないほど彩りに溢れている。
 風に吹かれて揺れる木々も、そこらに咲いている花も、地面の色でさえ鮮やかに見えるのだ。

「リヴィ、てぷ様、そろそろご飯が出来るので手を洗って来てください」

 家の窓から顔を出したステラの声に振り返る。途端にもう一段階世界の彩りが鮮やかになる。ステラの周りだけ発光しているように見えて、思わずリヴィウスは目を細めた。

『わかったぞー!』

 はしゃぐてぷの声にステラが微笑んだ。深く豊かな青い目に柔らかな光が宿ったのを見て、リヴィウスの心臓あたりに柔らかなものが広がっていく。ステラの笑顔を見るといつもこうだ。

『? リヴィ、手を洗いに行くんだぞ』

 ステラが調理の為に家に戻ると世界の彩度が元に戻る。不思議だ。やはり元とはいえど聖女だけあって光の魔力が漏れ出ているのだろうか。否、魔力なら自分が気が付かない筈がない。ということはやはりステラ自身が発光しているのだろうか、とまで考えてリヴィウスは首を傾げているてぷを見た。

「ステラはどうして発光しているんだ?」
『………はあ?』

 見たことのない表情と、聞いたことのない声でてぷがリヴィウスを見た。

『別に光ってないんだぞ。魔力だって漏れてないし』
「? じゃあどうしてあんなに輝いている」
『…………』

 てぷの表情が複雑なものに変わる。短い前足で腕組みもどきをして、何かを必死に考えている様子だった。それから待つこと数秒、てぷが信じられないとでも言うような顔でリヴィウスを見た。

『お前たちまだ番ってないんだぞ⁉︎』
「はあ?」

 今度はリヴィウスが怪訝な顔をする番である。

「番っているが」
『はあ?』
「なんだ」
『ステラもそう言ってるんだぞ? でもステラなら番ったら絶対にボクに教えてくれる筈だから、言われてないってことはお前たちまだ番じゃないんだぞ』
「一緒に生きると誓ったぞ」
『んええ……? ……でも一回確かめてみるといいんだぞ。そしてら多分、ステラが教えてくれるんだぞ。多分』



 そんなてぷの助言もあり、翌日ステラに確認をしたリヴィウスは驚くことになる。自分と人間の感覚の違いに戸惑いはあるが、ふと理解出来るところもあった。
 人間の一生は魔族として生きてきたリヴィウスにとってはあまりに短い。だからこそ言葉を尽くし、形に残すのだろう。それが納得という形で理解できたのはつい先ほどだ。
 リヴィウスは月明かりに照らされながら眠るステラを見つめて目を細めた。

 魔王城で出会った時よりも随分と短くなった髪を片手で撫でながらその手で滑らかな頬に触れる。散々抱き潰してしまったせいかまるで起きる気配は無いものの、目尻を震わせる様を見て思わず口角が上がる。

「……愛らしいな」

 そう声に出すとその言葉が納得として自分の中に降り積もっていく。とは言っても愛だの恋だの、リヴィウスにはよくわからない。
 ただ自分の腕の中で眠るこの存在だけは優しくしてやりたいと思う。それが愛なのだと諭されたらきっとリヴィウスは素直に首を縦に振るだろう。それほどまでにこの胸を満たす柔らかな温もりは魔王であった自分を溶かしていく。

 ──リヴィウスは最期己がどう死ぬのかわかっていた。

 だからステラが自分の前に立ち塞がることも、身を挺して魔王を殺すこともわかっていた。けれど正直、あの時はステラのことはよく見ていなかった。精々「死にたがりの聖女か」くらいの認識だった。
 それなのにあの黄金の光に包まれている姿から始まり蘇生されたリヴィウスの前に現れた姿だったり、殺戮を繰り返して来た魔王に「誰も手に掛けて欲しくない」と願う姿だったり、そんな姿が一々リヴィウスの心を動かした。
 気が付けば、手放させない存在になっていた。

「……とんでもない聖女だな、お前は」

 魔王である自分に名前を付け、人間と同じような食事を与え、感情を教えた。何を取り上げてもとんでもない。思い返すだけで笑ってしまいそうだが、ステラの睡眠を最優先して何とか堪えた。
 かつての敵の腕の中で無防備に眠る姿を見つめてリヴィウスは目を細めた。
 生を楽しいと思ったことなんて一度もなかった。早く終われとすら思っていた。
 けれど今は一分一秒でも長くこの腕の中の存在と共に生きたいと思う。そんな自分自身の変化がとても信じられないと思うが、これが真実だ。

 ステラの額に掛かる髪をそっと指で払って額に口付ける。起こさないように慎重に抱き締めて、心地の良い温もりに目を閉じた。
 明日はどんな一日になるだろう。
 そんなふうに思えるのをどこか可笑しく思いながら、リヴィウスも眠りへと落ちていった。
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感想 9

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みんなの感想(9件)

T_Tectorum
2025.01.02 T_Tectorum
ネタバレ含む
2025.01.04 白(しろ)

T_Tectorum様

初めまして、素敵な感想をありがとうございます!
ガチムチおねえさまはできる限り全作品で出そうという謎のこだわりを持って作品に取り組んでいるのでそう言っていただけてとても嬉しいです!

二人の愛が育まれていく過程にも素敵なコメントをありがとうございますー!
これからも何かしら書いていきますので、またご縁がありましたら読んでいただけますと幸いです!
この度は本当にありがとうございました!

解除
にんじん
2024.12.11 にんじん
ネタバレ含む
2024.12.11 白(しろ)

にんじん様!長編2作品とも読破していただき本当にありがとうございます〜!
深夜までありがとうございます!その後ゆっくり眠れたでしょうか?
「作品につき一人は絶対にオネエを出す」という鋼の意思の元書いております。
今後も新作が出る度によほどのことがない限り出ます。
何卒よろしくお願いいたします!この度はありがとうございました!

解除
にんじん
2024.12.10 にんじん
ネタバレ含む
解除

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