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【ティタ視点】二律背反の夜──『心はまだ、選べない』
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──心とは、決して正しい方向だけを指す羅針盤ではない。ときに迷い、求めていない道へと私を導く。
それでも、この揺れを止められないのはなぜなのだろう。
アポロ様の別宅は夜の闇に静かに沈んでいた。
窓から微かに射し込む月明かりだけが、冷えた廊下の床を薄く照らしている。私はそっと深呼吸をして胸の鼓動を鎮めようとしたが、心臓はまるで別の生き物のように、強く脈打って止まらなかった。
ここに来たのはアポロ様のため。彼の潔白を証明する証拠を見つけなければならない。
でも本当にそれだけだろうか? どうして私は今、こんなにも落ち着きを失っているの?
書斎に入ると、室内には見慣れた家具が静かに佇んでいた。かすかな埃の匂いと、アポロ様がいつも吸っていた煙草の香りが微かに残っていて、胸が締め付けられる。
記憶の中の彼はいつも微笑んでいた。
私の話を丁寧に聞いてくれ、優しく私を包み込んでくれた。あの時の温かな感触を思い出すと、胸の奥が熱くなる。
でも、なぜかサンゼールのことも頭に浮かぶ。
何度も彼を忘れようとしたのに、どうして、どうしてこんな時にまで。
屋敷に初めて来た日の彼は、どこか影をまとった静かな青年だった。気難しそうに見えたけれど、実際には誰よりも優しくて、穏やかな人だった。
私が我儘を言っても、怒鳴っても、彼は決して私を拒絶しなかった。むしろ、「お嬢様、それではご自分が傷ついてしまいます」といつも静かに諭してくれる。優しさに甘え、傷つけるような言葉を投げかけても、彼はただ静かな眼差しで私を見守っていた。
ある日、パーティーで他の令嬢たちに「お盛んなティタに白は似合わないわ」なんて笑われて、お気に入りの白いドレスを破いた事があった。
悔しくて、情けなくて、部屋でひとり泣いていると、静かに入ってきたサンゼールは何も言わず、そのドレスを縫い直してくれた。
「このドレス、お嬢様にとてもお似合いですよ」
彼の声はいつも優しく穏やかで、私の心を撫でるようだった。私が彼を好きになったのは、きっとあの瞬間からだと思う。
でもその想いを告げた時、サンゼールは悲しげに首を横に振った。
「……申し訳ありません、お嬢様。私にはそのような資格がありません……」
その言葉がどれほど悲しかったか。
私は傷つき、泣いた。サロンに通い始めたのはその頃からだった。そこでアポロ様に出会ったのだ。
『愛してるぜ、ティタ』
その一言が、私の寂しさを埋めてくれた。だから今、私はここにいる。アポロ様のためなら何だってできる。怖くない。
けれど、なぜ今、こんなにもサンゼールのことを考えてしまうの? アポロ様のためにここに来たのに、なぜ心が揺れているの?
私は唇を噛み締め、強く頭を振った。今は迷っている場合じゃない。アポロ様を守る証拠を探さなければ。
書斎の机の下に跪き、床板を丁寧に探る。記憶の中でアポロ様が秘密を隠す場所として教えてくれた場所だ。慎重に床板を外すと、中には帳簿と台帳がしまわれていた。
鼓動が速くなる。これを調べればきっと、アポロ様の潔白を証明できる。
私は思わずその帳簿を閉じて胸に抱え込んだ。震える手が抑えられない。
私は立ち上がり、ゆっくりと書斎を歩く。胸の中ではアポロ様とサンゼールの顔が交互に浮かび、私を引き裂くように揺れ動いていた。
それでも、今、進まなければいけない。
この証拠を手に、私は自分の心の中の真実に向き合おうとしていた。
それでも、この揺れを止められないのはなぜなのだろう。
アポロ様の別宅は夜の闇に静かに沈んでいた。
窓から微かに射し込む月明かりだけが、冷えた廊下の床を薄く照らしている。私はそっと深呼吸をして胸の鼓動を鎮めようとしたが、心臓はまるで別の生き物のように、強く脈打って止まらなかった。
ここに来たのはアポロ様のため。彼の潔白を証明する証拠を見つけなければならない。
でも本当にそれだけだろうか? どうして私は今、こんなにも落ち着きを失っているの?
書斎に入ると、室内には見慣れた家具が静かに佇んでいた。かすかな埃の匂いと、アポロ様がいつも吸っていた煙草の香りが微かに残っていて、胸が締め付けられる。
記憶の中の彼はいつも微笑んでいた。
私の話を丁寧に聞いてくれ、優しく私を包み込んでくれた。あの時の温かな感触を思い出すと、胸の奥が熱くなる。
でも、なぜかサンゼールのことも頭に浮かぶ。
何度も彼を忘れようとしたのに、どうして、どうしてこんな時にまで。
屋敷に初めて来た日の彼は、どこか影をまとった静かな青年だった。気難しそうに見えたけれど、実際には誰よりも優しくて、穏やかな人だった。
私が我儘を言っても、怒鳴っても、彼は決して私を拒絶しなかった。むしろ、「お嬢様、それではご自分が傷ついてしまいます」といつも静かに諭してくれる。優しさに甘え、傷つけるような言葉を投げかけても、彼はただ静かな眼差しで私を見守っていた。
ある日、パーティーで他の令嬢たちに「お盛んなティタに白は似合わないわ」なんて笑われて、お気に入りの白いドレスを破いた事があった。
悔しくて、情けなくて、部屋でひとり泣いていると、静かに入ってきたサンゼールは何も言わず、そのドレスを縫い直してくれた。
「このドレス、お嬢様にとてもお似合いですよ」
彼の声はいつも優しく穏やかで、私の心を撫でるようだった。私が彼を好きになったのは、きっとあの瞬間からだと思う。
でもその想いを告げた時、サンゼールは悲しげに首を横に振った。
「……申し訳ありません、お嬢様。私にはそのような資格がありません……」
その言葉がどれほど悲しかったか。
私は傷つき、泣いた。サロンに通い始めたのはその頃からだった。そこでアポロ様に出会ったのだ。
『愛してるぜ、ティタ』
その一言が、私の寂しさを埋めてくれた。だから今、私はここにいる。アポロ様のためなら何だってできる。怖くない。
けれど、なぜ今、こんなにもサンゼールのことを考えてしまうの? アポロ様のためにここに来たのに、なぜ心が揺れているの?
私は唇を噛み締め、強く頭を振った。今は迷っている場合じゃない。アポロ様を守る証拠を探さなければ。
書斎の机の下に跪き、床板を丁寧に探る。記憶の中でアポロ様が秘密を隠す場所として教えてくれた場所だ。慎重に床板を外すと、中には帳簿と台帳がしまわれていた。
鼓動が速くなる。これを調べればきっと、アポロ様の潔白を証明できる。
私は思わずその帳簿を閉じて胸に抱え込んだ。震える手が抑えられない。
私は立ち上がり、ゆっくりと書斎を歩く。胸の中ではアポロ様とサンゼールの顔が交互に浮かび、私を引き裂くように揺れ動いていた。
それでも、今、進まなければいけない。
この証拠を手に、私は自分の心の中の真実に向き合おうとしていた。
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