白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第2章 球技大会で見せつけろ

03 白雪白馬

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 俺たち二年生は、校舎の三階が主な学びの場だ。

 埃のたまった手すりを掴んで階段を三階から一階までおり、渡り廊下の中央に購買が存在する。それは小さなコンテナのような形をしており、その日に何が置いてあるか張り紙が張り出される。すでに行列ができており、三人体制でコンテナの中でおばちゃんたちがせっせ、せっせと客をさばいていた。時々、お金を落としたようなチャリンという涼し気な音が聞こえる。


「あちゃ、出遅れちゃったね」
「そうだな。でも、昼休みが終わる十五分前くらいまで売ってるらしいし。こんだけ並んでても買えるだろ」
「だといいね。メニュー見たらあれこれほしくなっちゃいそうだけど」


 燈司は列から身を乗り出し、ひょこ、ひょこりと先頭に並ぶ人を見ようとしていた。列はゆっくりとしか進まず、俺はあくびをして気長に待つ。
 そんなとき、コンテナのま向かいにあった赤色の自動販売機の下を覗き込んでいる男子高校生が目に映った。


「秀人やめなって。学校では恥ずかしーじゃん」
「やっぱりな? 昼休みの時間が一番この下に小銭落ちてんだって」
「それ人のだー生徒指導に怒られそう~」


 地面に膝をついて、自動販売機の下を覗き込んでいる。腕まくりをし、自動販売機と地面の隙間に手を入れ込む大きく腕を動かし、時々ぺろりと口の周りを舐めながら秀人は小銭を探していた。それを恥ずかしそうに見ている光晴。止めようとはしたものの、諦めたようでお金も入れていない自動販売機のボタンをポチポチ押している。


「げっ」
「どうしたの? 凛」
「燈司、あれは見ちゃダメなやつだ」


 俺は、咄嗟に燈司の両眼を手でふさいだ。燈司の教育に良くない。
 秀人は金目のものに目がなく、ああやって頻繁に自動販売機の下に手を突っ込んで金がないか探している。部活のエースだが、土日は飲食店のバイトをしており、給料がないわけじゃない。ただ、子どものころからの癖らしく、自動販売機を見つけると覗かずにはいられないのだそうだ。
 前に「部室の前にある自販機の下は、購買の自販機よりもお金が落ちている確率が低い。だいたい、皆水持ってくるし。電子マネー使えるタイプだし」なんて力説されたことがある。
 とにかく、学校でそんなことしてくれるなと俺は燈司に「何買うか考えよーぜ」と声をかけ、注意を逸らした。


「そういえば凛、財布持ってきた?」
「……やっべ、忘れた。俺は、見てるだけでいいや」
「そんな申し訳ないよ。俺が付き合わせたみたいで。付き合ってくれたお礼に何か買うよ」
「いいって。あーでも、どーしよ……この匂いホットドックじゃね? やっぱ買うわ。ツケにしといて」


 俺は後から返す有無を伝えたが、燈司は頑なに自分が払うと言って聞かなかった。燈司は少し真面目というか、堅いところがあるため一度言うと曲げない。
 俺はそんな燈司が幼馴染として好きだ。
 自動販売機のほうを見れば、五円玉を発見して喜んでいる秀人の姿が見えた。その後ろで秀人にチョップをかましている光晴が見えるまでセット。
 二人は俺たちに気づくことなく隣を通って息、渡り廊下の先で、一部始終を見ていた生徒指導の先生につかまっていた。そりゃ、学校の自動販売機の下を見ている生徒がいれば不審に思われるに違いない。


(あーバカだなあ、あいつ。テニスはうまいのに)


 俺を馬鹿にする資格があるほど、秀人はテニスがうまい。運動神経でいえば、俺なんかよりもよっぽどだ。
 だが、エースでありつつもスポーツで食べていく気はないらしく、大学でテニスサークルに入ってちやほやほやされるのが夢らしい。あいつは運動神経がよくてもあの性格と、金品物色をするためモテない。
 列が進んだので前に歩きつつ、俺は怒られている秀人と、その後ろでゆらゆら揺れている構成を見ていた。すると、光晴はこちらを振り向き、ニヒルな笑みを浮かべピースをする。
 そんな姿が生徒指導の癪に障ったのか、光晴は怒られてしまう。しかし、何やら生徒指導に事情を説明し、俺を指さした。スキンヘッドの生徒指導の目がこちらに向けられる。何やら怒っているらしい。
 はて? と、首をかしげていると「白雪くんも見てたけど止めませんでしたー」と光晴が叫ぶ。
 生徒指導はその構成の言葉を受け俺のほうに歩いてきたかと思うと「見てたのか?」と怒鳴ってきた。これは、ハラスメントで訴えられないか? 理不尽だろ、と思いつつも俺は首を振る。額に青筋を浮かべて怒っている生徒指導から視線を外しつつ、後ろを見れば、秀人と光晴は「今のうちに逃げろ」といわんばかり、階段を駆け上がっていった。


「先生、犯人逃げましたよ」
「白雪はどうなんだ」
「えー俺、知りませんよ……知らないです! しゅう……烏田くん、お金に困ってるんじゃないですかねえ?」


 俺は適当に嘘をついて、その場を切り抜けることにした。
 生徒指導は意外にもあっさり騙されてくれ、俺が指さした方向へ走っていった。生徒指導なのに廊下を走って、階段を一段と場視するのか、と思っていると、いつの間にか買い物を終えた燈司が俺の服の袖をつかむ。


「凛、買えたよ。ホットドック」
「おっ、サンキューな……って、燈司も同じのにしたのか?」
「うん。凛がおいしそうな匂いしてたっていってたから、俺も気になっちゃって。お揃いだね」
「そーだな。んじゃ、帰ろうぜ。あっ、荷物は俺が持つ」


 燈司の腕にかけてあったビニール袋を優しくとって俺は左手に下げる。燈司は「そんなことしなくていいのに」と言っていたが、俺がしたいんだというと納得してくれた。

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