白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第2章 球技大会で見せつけろ

04 いけ好かない同級生

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「凛。さっきさ、生徒指導の先生と何話してたの?」
「あーまあ、ちょっといろいろ?」
「分かった。凛は寝癖ばっかりつけてくるから、身だしなみで怒られてたんだ」
「んな酷いこと言わないでくれよ。違う」
「じゃあ、何?」
「んーお前には関係ないこと。てか、巻き込まれ事故だな」


 俺は、階段をのぼりながら燈司から飛んできた質問に答えていた。
 秀人のことを話してもよかったが、あとからあいつに何を言われるかわかったもんじゃないため濁すことにした。
 燈司はふーん、と何とも言えない返答をしながら、踊り場で一度足を止める。


「どうした? 燈司」
「…………凛ってさ、この間告白されてたよね」
「ああ、まあ。てか、それ、お前が恋人出来たって言ってきた前の日? 告白されたっちゃ、されたけど……つか、見てたのか?」


 まったく気付かなかった。
 俺に告白してくれたのは、同じ部活の後輩だった。俺の好きな黒髪で艶々してて、目が大きくて。部活に一生懸命な子だった。

 俺みたいな不真面目で、かっこよくもない先輩のどこに惚れたんだとその時聞きたかった。でも、勇気がなかった。告白してくれる後輩には勇気があって、俺にはない。
 俺は、その告白を俺なりに一生懸命聞いていた。途中で言葉を詰まらせつつ、声を裏返しつつも後輩は俺に「好きです」と言い切った。
 そんな後輩の健気さに、俺は一瞬ドキッとした。その表情が、頭も中で誰かと重なったからだ。
 振る理由はなかった。むしろ、付き合ってみてから好きになるとかあるんじゃないかとも思った。けど、これも結局行動に移せなかった。俺は、その後輩をフッてしまったのだ。
 秀人にその話をしたら「俺だったら悲しませないのに……凛、EDになれ」と暴言を吐かれてしまった。

 俺は、そんなことを思い返し、場が白けないようにと「言ってくれよー」といつもの調子で燈司に言う。しかし、燈司からの反応がなかった。


「と、燈司? 俺、なんかヤバいこと言った?」
「………………ううん。かわいい子だったから、オッケーすると思ってた。凛ってさ、身長高いから目立つけど、それだけじゃなくて、そこそこかっこいいからモテると思うんだよね。気遣いもできるし、ちょっとアホっぽいところも、そう、うん!」
「そ、そうか? アホっぽいは誉め言葉じゃないけどな。でも、モテても嬉しくないかもなー」
「何でさ。こう……男子高校生の夢じゃない?」
「恋人持ちがいうことは違うな。いや、お前それだと、浮気にならねえ?」


 俺の言葉に対し、燈司は「一途なんで」と胸を張る。
 まあ、モテモテの人生っておんは想像したことがないわけじゃない。でもそれは中学生までだ。
 今は、一途に思ってくれる人と巡り合えればそれでいいなって俺は思ってる。モテモテって疲れそうだし。


「なんか、意外だな。凛って、お人好しなところもあるから、かわいい後輩が必死に告白してきたら、お試しでもいいから付き合っちゃうかと思ってた」
「そんな薄情なこと……いや、ちょっとは思った。けど、なんか違うなーって思ったんだよな。あっ、てか、その後輩、お前に似てた」


 俺に? と燈司は瞬きする。ネクタイを弄っていた手を止めて、まっすぐと俺のほうを見る。


「そっ。艶々な黒髪で、目がおっきくてさ。何事にも一生懸命なところとか。あーそっか。俺があんとき頭の中に誰かと似てるなって思ったのは燈司だったんだな」
「それ、その時まで俺忘れられてたってこと?」
「違う違う。逆を言えば、ずっと俺の頭の中に燈司がいるってこと。しっくりこなかったから付き合わなかったけど、まー何回か告白はされてきたし、また告白ぐらいされるっしょ」


 別にその次、俺が告白にこたえるかどうかは分からないけど。
 燈司は、また黙り込んでしまった。だが、どことなく頬を緩めて顔を上げるころには、その顔に笑顔が戻っていた。


「そっか。ごめん、気になってさ」
「気になるっつー言ったら、お前の恋人だけどな? もう一か月経ったのに、いまだにわからないって。てか、俺と登下校一緒にして、恋人のこと疎かにしてねえ?」
「してないよ。毎日メッセージやり取りしてる」
「証拠は?」
「見せないよ。てか、メッセージアプリを見るのは犯罪!」


 めっ! と燈司は俺に怒ると、階段をタタタッと軽やかに登って行ってしまった。そして、上から「早く―」と手を振って俺を呼ぶ。
 ちょうど、窓から差し込んできた日差しに俺は目を細める。まるで、燈司を照らすようなスポットライトのようだ。


「はいはい、今行く。ホットドック冷めたら美味しくないからな」
「そんなに食べ物が大事!? 俺より!?」
「何だそりゃ。メンヘラ彼女みたいだぞ」


 軽口をたたいて、俺は階段を上る。一段一段が軽く感じたのはきっと気のせいじゃないだろう。

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