白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第3章 修学旅行に行ったらば

02 おねぼうさん

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 スマホのアラームが鳴っている気がする。
 だが、身体は起きるのを拒絶し、スマホが置いてるところから遠ざかるように寝返りを打つ。
 後十分……


「――ん、凛! 起きて、凛! 遅刻しちゃう!」
「……燈司?」
「あ、起きた。凛、おはよう……って、バス! 遅刻!」


 俺の布団をガバッと取り上げ、カーテンを開ける。まぶしい光が部屋に差し込み、俺は目を細めた。
 先ほどまで起きるのを嫌がっていた身体は、いつの間にか上半身を起こしており、頭もすっきりとしている。やはり、燈司ボイスが聞いたのだろう。
 おはよー、なんてすっきりと起きれたとはいえ、ポヤポヤとしている頭で挨拶を返せば「凛!」と名前を呼ばれる。燈司は何やら切羽詰まった表情で俺を見ていたのだ。


「今日、何の日?」
「あーっと……六月六月十七日」
「違う! いや、違わなくないけど……ほら、修学旅行! 着替えて」


 ベッドの上まで上がってきた燈司は俺の背中を押して、ベッドから下ろした。
 俺は「修学旅行かー」と頭の中で思いつつ、ハンガーにかけておいた服に着替える。すると、後ろから「見てないからね!」と燈司の声が飛んでくる。


「見てもいーぞ。ちっちゃいころは一緒に風呂も入ってたし。そんな、パンイチになるだけだし、体育の時間の着替えと変わんねえって」
「見ないったら、見ない! 早くして」


 燈司は、いつにもまして高い声でそういうと、とっちらかったベッドの上を整頓し始めた。
 修学旅行は制服ではなく私服。前日にキャリーケースに三日分の服を入れ、玄関に置いてきた。服を着替えてスマホを持てばあとは出発できる。
 梅雨で気候の変動が予想できないため、半そでのTシャツの上に薄手のパーカーを羽織る。近くにあった立てる式のかがみを手繰り寄せ髪の毛を確認する。今年はいって最悪の爆発具合だ。これを直そうと思うと相当時間がかる。


「集合って何時だっけ?」
「後十五分! 凛のお母さん車出してくれるって言ったから早く!」


 早くと何度も連呼して、燈司は乱暴に充電器をを引き抜き、自由行動用のバッグにスマホと充電器を突っ込んだ。
 俺は、部屋の整頓は燈司に任せ下に降り、洗面台で口を漱いだ後顔に水をかける。そうして、最悪な髪の毛をべちょべちょに濡らし、手を服用のタオルで髪を拭いた。このままにしておくと怒られるため、タオルは洗濯機に入れておく。
 洗面所から出ると、燈司が玄関で足踏みをして待っていた。


「忘れ物ない?」
「多分……多分な?」
「もー怖いなあ。まあ、お金忘れたら貸してあげるし、ハンカチも予備に持ってるし! しおりは忘れても俺が見せてあげる。じゃあ、出発!」


 燈司は自分と同じくらいのサイズの俺のキャリーケースを引きずりながら外に出ていった。
 俺は玄関でぽかーんと、その様子を眺めながら腰を下ろす。かかとを踏みまくり、泥だらけの白いスニーカーを履き、玄関を出る。
 外にはすでに、車に乗った母ちゃんがいて、後部座席に燈司が乗っている。燈司は車の中から高速で手を振って乗るように急かした。


「凛、しっかりしなさいよ? 燈司くんに迷惑かけちゃダメ」
「あー燈司ありがとう」
「いいよ、こうなると思ってたし」


 燈司は一度シートベルトを話、俺の膝にチョンと手を乗せた後、俺側のシートベルトを伸ばしてきてカチャンと締めてくれた。そこまでしなくていいのにな、と思いつつも、燈司の世話焼きな性格ににっこりしてしまう。多分まだ頭が起きてない。
 燈司は、俺のシートベルトを締めた後自分のも締めて、母ちゃんに「お願いします」という。車はゆっくりと前進し、細い道を出て大通りを走る。

 ものの五分で学校につき、トランクリッドを空けて荷物を下ろす。
 すでに、ロータリーにはクラスごとに列ができており、俺たちがいかにギリギリに到着したかが分かってしまった。
 俺は、担任に睨まれつつも体調を伝え、一番後ろに並ぶ。


「遅いよ、凛ちゃんたち」
「どうせ、凛ちゃんが寝坊したんだろ」
「つか、お前だも後ろにいるから同罪だろ」


 最後尾に並ぶと、そこには秀人と光晴がいた。二人は口をそろえて「十分前集合はしてましたー」と厭味ったらしく言う。
 俺は、そんな二人に突っかかる気力がなかったため「ごめんな、燈司」と、燈司に謝って気を散らした。
 燈司は「俺がいなきゃダメなんだから」と口にして、肩に下げていた俺の鞄を渡してくれた。


「凛」
「何だよ。燈司」
「……修学旅行、いい思い出にしようね」
「もちろん。いっぱい写真撮ろうな。あと、お土産も」


 再度点呼が行われる。俺たちは、全体に向けての学年主任の言葉を聞きながら、今から始まる三泊四日の旅に胸を弾ませた。

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