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第3章 修学旅行に行ったらば
05 りんご飴
しおりを挟むジェットコースターに乗って酔った。
寝不足なわけじゃないが、それに近い疲労感はあり、その状態で乗ったのが良くなかったと思う。
だが、修学旅行の班行動。水を差したくなくて黙っていた。でも、燈司だけは俺の体調の変化に気づいてくれ、俺の歩くスピードに合わせて隣を歩いてくれている。
「凛、どこかで休む?」
「いいよ。俺のために皆巻き込むの悪いし。ジェットコースター以外なら乗れる」
「そっか……そういえば、俺、酔ってからでも効く酔い止めあるから。水……自動販売機で買ってくるから」
「いいって。燈司。遊園地の中の自動販売機って高いじゃん。つばで飲み込む」
「それって危険だよ?」
燈司は、俺の背中をさすりながら優しく注意する。
俺は、そんな心地のいい燈司の声を聞きながら、先を歩いていた秀人が物珍しそうにある店の前で足を止めたことに気が付いた。その店は、りんご飴専門店らしく、甘い飴の香りがこちらまで漂ってくる。
「この遊園地の名物だな」
「おっ、毒島。詳しぃな~」
「前に弟ときたことがあるからな。ここのりんご飴はおいしい」
珍しく修二が口を開き、秀人や光晴に説明を始めた。
そんな会話を盗み聞きしているうちに、俺もりんご飴が食べたくなってきて、先ほどの気持ち悪さが徐々に抜けていくのを感じた。
それから、どうやらみんなでりんご飴を買ってベンチで食べると決まったらしく、俺と燈司を呼びつけてメニューの書いてある紙を手渡した。メニューには、キャラメルリンゴや、チョコリンゴ、りんご飴専門店とは言いつつも飴だけにとどまらないバリエーション豊富なリンゴが並んでいた。どれもワンコインとちょっとで買える値段で手ごろだ。
値段が安いこともあり、秀人はすかさず「よーし、凛ちゃんおごってあげよう」と俺をニヤニヤとみてくる。
俺は、そんな秀人に呆れつつも、燈司と一枚の紙を一緒に見ていた。
「燈司は何にする?」
「俺かあ……キャラメルリンゴっておいしそう。あっ、でもシナモンもいいよね」
「お前の食べたいの二つ選べよ。それで、シェアしようぜ。あの時みたいに」
「ワッフル?」
燈司の問いかけに「そう」と答えれば、また燈司は嬉しそうに笑っていた。
なんだかんだ言って、あの日のデートは記憶に残っている。当日着てきた燈司の服も、会話も、映画の内容は少し忘れたけど、ワッフルと、見送ってくれたけど最後は一緒に電車に揺られて帰ったことも。
そういえば、あの日以来遊びに行ってないことを思い出した。
燈司は本当の恋人とデートに行ったのだろうか。
酔ったせいか、頭の中に昔のこととちょっと前のことが巡っていく。でも、その渦の中心にいるのは常に燈司だ。
秀人がなかなか決まらない俺たちにしびれを切らしやってくる。まるでヤンキーのように「決まったか? あ?」と言ってきたため、俺は燈司に二つ好きのを選ばせた。秀人はオーダーを聞くと店に走っていき、最後尾に並んだ。知らぬ間に列ができており、このりんご飴が人気であることが証明された瞬間だった。
「凛、よかった?」
「フレーバーか? ああ、うん。燈司と一緒に食べられるなら何でもいいや。俺、リンゴ好きだし」
「確かに。凛って、誕生日ケーキいっつもリンゴのケーキだもんね。アップルパイとか、タルトタタンとか」
「よく覚えてるな。今年も行きつけのお店のアップルパイがいいなーって母ちゃんに言っておいた。燈司もよかったら食べにこいよ」
「予定が合えばね。でも、ちゃんとお祝いはするからね」
燈司はそういうと、カチューシャを直して、へへっと笑う。何だか、今日はいつにも増して笑ってくれる気がする。
(燈司の笑顔っていいよな。声もだけど、顔も……)
声と顔だけじゃない。
燈司は毎年しっかり俺の誕生日を祝ってくれる。俺も忘れないけど、燈司はスマホを持ち始めてから毎年零時ぴったりにおめでとうとメッセージを入れてくれるのだ。
俺なんか、零時にはバタンキューと倒れて寝てしまっているのに。でも、自分の誕生日の日だけは寝ていても起きてしまう。モーニングコールと似た、燈司のおめでとうメッセージが入るから。毎年、手打ちしているのが分かる文面に、スタンプに。
燈司は、俺よりも早く寝て、朝早いタイプだが、俺の誕生日前日だけは零時まで起きていてくれる。そんな燈司のことが俺は――
「おうじくんのも俺の驕りな?」
「いいの、秀人?」
「まあ、凛ちゃんだけじゃなくて俺たちとも仲良くしてくれるし。な、光晴」
「そうそう。おうじくんにはいつも助かってる!」
キャラメルリンゴとシナモンリンゴが入ったカップを持って帰ってきた秀人は、これは自分のおごりだと言って燈司に手渡した。
俺には雑に押し付けるように渡したのに、燈司には丁寧に渡している。俺の扱いの悪さが伺えてイラっと来たが、秀人はこういうやつだ。
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