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§ 嵐の前のひと騒ぎ。
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ポンと肩を叩かれ見上げると、呆れ顔の佳恵がコンビニ袋をぶらぶらと見せびらかしている。
「なによ、またあんただけ放置プレイ? みんなご飯食べに行っちゃったわよ?」
「あ? もう昼? ぜんぜん気づかなかったわ」
集中すると周りが一切見えなくなるのは私の悪い癖。
時間すら忘れ、ひたすらモニタに向かうのはいつものことだが、そんな私をとっくに諦めたのか、止める者はいない。
私は慌てて携帯電話と財布を持ち、デスク下からランチバッグを取り出して立ち上がった。
中小企業なので当然といえばそうだが、現在、私が務めるここには社員食堂が無い。その代わりなのか、カフェ風のミーティングルームには、ウォーターサーバーやコーヒーメーカー以外にも、ちょっとした炊事スペースに電子レンジと冷蔵庫などの生活用品が備え付けてある。
ランチタイムになると、ここで弁当を広げたり、カップ麺をすすったりする社員も多い。また、毎日午後三時から終業までの間には、ちょっとしたスナックや甘味などのおやつも提供されている。それを準備するのは、私たち総務課の仕事だ。
「佳恵ってば、またコンビニサンド? ちゃんと食べないと体壊すよ」
「わかってるんだけど、朝はやっぱり寝ていたいのよね。それに、外食続きで体重増えちゃってさ。あんたは偉いわ。毎日手作り弁当だもんね」
弁当箱の蓋を開けながら、フフンと笑った。
「おいしくないものを無駄に食べたくないからね」
「あんたはホント、食べるの好きよねぇ。それで、どうだった? 台湾」
「うん……おもしろかったよ? 魯肉飯、牛肉麺、小籠包でしょ、それから、タピオカミルクティーにトッピングだらけのカキ氷と……あとはなんだっけ? そうそう、朝ごはんもおいしいんだよね。具がいっぱい入ったもち米のおにぎりとか豆乳とか。とにかく何を食べてもハズレ無しでさ、食べまくったわ」
「わざわざ台湾まで出かけて……食い気ばっかり」
呆れ顔でため息をつかれ、ムッとする。
「いいでしょ? 食べるのが唯一の生き甲斐なんだからさ。あ、でも、今回は念願の九份観光もしたし、写真もいっぱい撮ったよ? 芋団子、おいしかったわ」
「あのね、わかってると思うけど……、私はそういうことを言ってるんじゃなくてさ……。せっかく外へ出るようになったのに、そんなんじゃ家に閉じこもってるのと何も変わらないんじゃないかって言ってるのよ」
「そうかな? そんなことないと思うけど……。これでも佳恵には感謝してるんだよ? あ、そうだ、お土産あったんだ。あとで渡すね」
「まったくあんたって子は……ホントにそれでいいの? ホントにそのまま枯れる気?」
時鮭の塩麹漬を摘もうとした箸がピタと止まる。このまま佳恵の説教が興に乗ったら、朝から手をかけて準備したせっかくの弁当の味もわからなくなりそうだ。
「枯れるってなによ? 失礼な……」
「だって、事実でしょう? このままずっとそんなふうに友達もいない彼氏もいないでただ仕事だけして年取ったら孤独死まっしぐらだよ? まだ二十八だってのに、いまからそんなんでいいわけ?」
「佳恵たちがいるじゃない? それに私、べつに仕事だけしてるわけじゃないよ? プライベートだってちゃんと充実してるもん」
「なにが充実よ? 私はね、あんたも人並みに友達と遊んだり恋愛したり色々経験しなさいって言ってるの! わかってるでしょう?」
「遊んでるし経験してるよ? 旅行だってしてきたし……」
「あんたは……もうっ! その玉子焼ちょうだい!」
「あっ?」
女の魅力たっぷりのきれいなお姉さんが、一瞬の隙をついて私の弁当箱から大きな玉子焼を手掴みで掻っ攫う。そのまま豪快に開いた大きな口に吸い込まれていく玉子焼を見て、私は涙目になった。
「なによ? なんか文句あるの?」
「なによ、またあんただけ放置プレイ? みんなご飯食べに行っちゃったわよ?」
「あ? もう昼? ぜんぜん気づかなかったわ」
集中すると周りが一切見えなくなるのは私の悪い癖。
時間すら忘れ、ひたすらモニタに向かうのはいつものことだが、そんな私をとっくに諦めたのか、止める者はいない。
私は慌てて携帯電話と財布を持ち、デスク下からランチバッグを取り出して立ち上がった。
中小企業なので当然といえばそうだが、現在、私が務めるここには社員食堂が無い。その代わりなのか、カフェ風のミーティングルームには、ウォーターサーバーやコーヒーメーカー以外にも、ちょっとした炊事スペースに電子レンジと冷蔵庫などの生活用品が備え付けてある。
ランチタイムになると、ここで弁当を広げたり、カップ麺をすすったりする社員も多い。また、毎日午後三時から終業までの間には、ちょっとしたスナックや甘味などのおやつも提供されている。それを準備するのは、私たち総務課の仕事だ。
「佳恵ってば、またコンビニサンド? ちゃんと食べないと体壊すよ」
「わかってるんだけど、朝はやっぱり寝ていたいのよね。それに、外食続きで体重増えちゃってさ。あんたは偉いわ。毎日手作り弁当だもんね」
弁当箱の蓋を開けながら、フフンと笑った。
「おいしくないものを無駄に食べたくないからね」
「あんたはホント、食べるの好きよねぇ。それで、どうだった? 台湾」
「うん……おもしろかったよ? 魯肉飯、牛肉麺、小籠包でしょ、それから、タピオカミルクティーにトッピングだらけのカキ氷と……あとはなんだっけ? そうそう、朝ごはんもおいしいんだよね。具がいっぱい入ったもち米のおにぎりとか豆乳とか。とにかく何を食べてもハズレ無しでさ、食べまくったわ」
「わざわざ台湾まで出かけて……食い気ばっかり」
呆れ顔でため息をつかれ、ムッとする。
「いいでしょ? 食べるのが唯一の生き甲斐なんだからさ。あ、でも、今回は念願の九份観光もしたし、写真もいっぱい撮ったよ? 芋団子、おいしかったわ」
「あのね、わかってると思うけど……、私はそういうことを言ってるんじゃなくてさ……。せっかく外へ出るようになったのに、そんなんじゃ家に閉じこもってるのと何も変わらないんじゃないかって言ってるのよ」
「そうかな? そんなことないと思うけど……。これでも佳恵には感謝してるんだよ? あ、そうだ、お土産あったんだ。あとで渡すね」
「まったくあんたって子は……ホントにそれでいいの? ホントにそのまま枯れる気?」
時鮭の塩麹漬を摘もうとした箸がピタと止まる。このまま佳恵の説教が興に乗ったら、朝から手をかけて準備したせっかくの弁当の味もわからなくなりそうだ。
「枯れるってなによ? 失礼な……」
「だって、事実でしょう? このままずっとそんなふうに友達もいない彼氏もいないでただ仕事だけして年取ったら孤独死まっしぐらだよ? まだ二十八だってのに、いまからそんなんでいいわけ?」
「佳恵たちがいるじゃない? それに私、べつに仕事だけしてるわけじゃないよ? プライベートだってちゃんと充実してるもん」
「なにが充実よ? 私はね、あんたも人並みに友達と遊んだり恋愛したり色々経験しなさいって言ってるの! わかってるでしょう?」
「遊んでるし経験してるよ? 旅行だってしてきたし……」
「あんたは……もうっ! その玉子焼ちょうだい!」
「あっ?」
女の魅力たっぷりのきれいなお姉さんが、一瞬の隙をついて私の弁当箱から大きな玉子焼を手掴みで掻っ攫う。そのまま豪快に開いた大きな口に吸い込まれていく玉子焼を見て、私は涙目になった。
「なによ? なんか文句あるの?」
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