それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ それは、ホントに不可抗力で。

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 会議室のドアを開けると案の定、美香、エリカ、楓の三人が突っ立っていた。やはり、話を聞いていたのだ。
 どこまで漏れ聞こえていたのかは知らないが、倉庫へ飛ばされることだけは、しっかりと聞こえていただのだろう。いつにも増して神妙な面持ちで、私の様子を窺っている。

「えっと、関口さん、大丈夫?」

 意外にも先に言葉を発したのは、いつもならふたりの後ろに控えている楓だった。

「あー、話、聞こえちゃいました?」

 全員が無言で大きく頷く。

「書類倉庫へ飛ばされるって……、小林統括、なんだかすごく怒ってたみたい」

 再び、全員が真顔で大きく頷いた。

「でもさ、いくらなんでも倉庫番って酷過ぎない? あんなところに一日中ひとりで居ろだなんて、私だったら気が狂っちゃう」
「うん、そうよね。小林統括は、なんで急にそんな酷いこと……

「しっ! 美香ちゃん、ここじゃダメ。聞こえたらまずいよ」

 エリカは意外と冷静に状況判断ができる子のよう。
 もっとも、エリカのことだ。小林統括の御沙汰に文句をつけているのを聞かれ、自分たちにまでお鉢が回ってきてはたまらないと、思っているだけだろうが。

 そうだね、まずいね、移動しよう、と、向かう先はもちろん、女子社員のオアシス、給湯室。
 今日の主役は私とばかりに、美香と楓に両サイドから腕を掴まれ連行されては逃げることも叶わず。狭い給湯室の一番奥に押し込まれてしまった。

 仕事に戻ろうよ、との言葉も、この子たちの耳には届かない。

「それで? なんで急にそんな話になったの?」
「それが……」
「そうよ! わたしたちに教えてくれたら、もしかして、力になれることがあるかも知れないよ?」

 なんだろう、この感じ。

 いつもならおもしろがって嫌みのひとつやふたつ言ってくるこの子たちが、妙に真剣だ。まるで、共通の敵に立ち向かう戦士のような。
 江崎みたいなイヤな奴相手のときの連帯感は、見ていておもしろいほどではあるが。もしかして、小林統括部長って、そんなに嫌われているのか。

 どうするかな。ことがことだけに、あからさまに話をするわけにはいかないが、どうせある程度聞こえてしまっている。ここは、さわりだけでも、話をせねば収まるまい。

「じつは、開発へ移動して、小林統括のアシスタントになれって言われてしまって……」

 三人の目の色が変わった。

「ええっ? 開発へ移動? やだそれ! すごく良い話じゃない!」
「そうよ! 開発って、ウチの花形よ?」
「うんうん。隣は営業部だし、総務と違って……開発はまあ色々だけど、営業は優良物件選り取り見取りだよ? なんでそんな良い話が関口さんにだけくるわけ?」

 美香さん、男はブランドバッグではありません。

「そうよー、関口さんができるなら私だって! ねえ、私が代わったらダメ?」

 エリカさんも、食いつきどころが、なにかズレています。

「あ、でも、ちょっと待って。いま、小林統括のアシスタントって言わなかった?」

 楓さん、あなたの冷静さ、いいです。

「…………」

 美香とエリカの浮かれた顔が、真顔に戻る。小林統括部長さん、あなた、いったいなにをやったんですか。

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