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§ それは、ホントに不可抗力で。
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「小林統括のあのご尊顔を毎日拝めるのは、すごい目の保養だけど……」
「そうよね。あの人のアシスタントは……」
「うん。目の保養はいいけど、それよりも毎日睨まれる恐怖に耐えられるかどうかよ」
「そういえば、知ってる? 開発の男子が小林統括に泣かされた話」
「知ってる! 超有名な話よそれ。小林統括に叱られて飛び出して、それっきり二度と会社に来なかったって、あの話」
「そうそうそれだけど、続きがあってさ、それも、ひとりやふたりじゃないんだって。上の人たち、すっごい怖がってて、みんな陰で鬼とか悪魔って呼んでて……」
「そう! 別名、小林大魔王……」
「……だいま……おう?」
まったく、噂というものは。本当に何人もの社員を退職に追い込むようなまねをしていたら、仕事になんぞなっていないだろうに。
「関口さん、なに言ってるの? これ、本当の話なんだからね!」
「そうだよ! だから、アシスタントになんか、ならなくて良かったんだって」
「そうだよねー。倉庫のほうが絶対マシだよ」
「うん。絶対マシ」
「でも、大丈夫なのかな? 小林統括に楯突いて……」
「そうだね。あの人に怒鳴り返した人って、初めてかも?」
「ホント、初めてだよ。関口さんって凄いね」
私を見つめる三人のキラキラした瞳のほうが、よほど怖いのは気のせいか。
「あなたたち、いつまでサボってるつもり? いいかげん仕事に戻りなさい」
突然現れた田中先輩の声に、ビクッと緊張が走る。
顔色を変えた三人は、じゃあね、先に行くわと小さく手を振って、田中先輩の脇をすり抜け素早く逃げていく。
なんと逃げ足の速いこと。
「関口さん、大丈夫?」
「あ? はい。大丈夫です」
「あの子たちもねぇ……、もう三年目なんだから、いいかげん弁えてくれるといいんだけど」
田中先輩がしょうがないわねと、呆れ顔で小さくため息をついた。
「あなたもよ? 関口さん。どうして、あんな良いお話、断っちゃうのかしら? やっぱり、噂のせい? でも、小林統括って、確かに仕事には厳しい人だけど、そんなに怖い人じゃないのよ?」
「……はぁ」
そりゃ、私だって、小林統括が怖い人でないのは、よく知っている。ごくたまに、怖いときも無いとは言わないけれど。でも、本当に怖い人なら、いくら私だって、あいつとこうなってはいないわけで。
「まあでも、あの子たちは若いから、以前の彼を知らないし。怖がっていても当然かしらね?」
「以前……の? 田中先輩はご存知なんですか?」
「そりゃあ知ってるわよ。なにせ私は創業当時から居るんだもの。あの人、いまはあんなだけど、昔は優しくて朗らかな人だったのよ。仕事上の立場が厳しくなっちゃったからなのかしら? ここ数年だわねぇ、あんなふうに眉間に皺を寄せて厳しい顔ばかりするようになっちゃって」
「…………」
「まあ、いまは、彼の話はいいわ。関口さん、倉庫の件は、私と課長も彼に話してみるから、心配しないでね。でも、あなたもよ! 良い話なんだから、ちゃんと考えなさい? ね?」
「はい……」
良い話。一般的には、確かに良い話なのだろうが。
「それにしても……。あなた、すごいわね? 彼に怒鳴り返すなんて」
「えっ? あ?」
クックッと思い出し笑い中の田中先輩に疑問を持つ。なぜ、そこまで知っているのだ。
「全部聞こえてたもの」
会議室から怒鳴り声はする、あの子たちは戻ってこない、様子を見に来れば、給湯室にひしめき合って延々おしゃべりしている、と、私の肩をポンポン叩きながら、田中先輩は笑った。
「そうよね。あの人のアシスタントは……」
「うん。目の保養はいいけど、それよりも毎日睨まれる恐怖に耐えられるかどうかよ」
「そういえば、知ってる? 開発の男子が小林統括に泣かされた話」
「知ってる! 超有名な話よそれ。小林統括に叱られて飛び出して、それっきり二度と会社に来なかったって、あの話」
「そうそうそれだけど、続きがあってさ、それも、ひとりやふたりじゃないんだって。上の人たち、すっごい怖がってて、みんな陰で鬼とか悪魔って呼んでて……」
「そう! 別名、小林大魔王……」
「……だいま……おう?」
まったく、噂というものは。本当に何人もの社員を退職に追い込むようなまねをしていたら、仕事になんぞなっていないだろうに。
「関口さん、なに言ってるの? これ、本当の話なんだからね!」
「そうだよ! だから、アシスタントになんか、ならなくて良かったんだって」
「そうだよねー。倉庫のほうが絶対マシだよ」
「うん。絶対マシ」
「でも、大丈夫なのかな? 小林統括に楯突いて……」
「そうだね。あの人に怒鳴り返した人って、初めてかも?」
「ホント、初めてだよ。関口さんって凄いね」
私を見つめる三人のキラキラした瞳のほうが、よほど怖いのは気のせいか。
「あなたたち、いつまでサボってるつもり? いいかげん仕事に戻りなさい」
突然現れた田中先輩の声に、ビクッと緊張が走る。
顔色を変えた三人は、じゃあね、先に行くわと小さく手を振って、田中先輩の脇をすり抜け素早く逃げていく。
なんと逃げ足の速いこと。
「関口さん、大丈夫?」
「あ? はい。大丈夫です」
「あの子たちもねぇ……、もう三年目なんだから、いいかげん弁えてくれるといいんだけど」
田中先輩がしょうがないわねと、呆れ顔で小さくため息をついた。
「あなたもよ? 関口さん。どうして、あんな良いお話、断っちゃうのかしら? やっぱり、噂のせい? でも、小林統括って、確かに仕事には厳しい人だけど、そんなに怖い人じゃないのよ?」
「……はぁ」
そりゃ、私だって、小林統括が怖い人でないのは、よく知っている。ごくたまに、怖いときも無いとは言わないけれど。でも、本当に怖い人なら、いくら私だって、あいつとこうなってはいないわけで。
「まあでも、あの子たちは若いから、以前の彼を知らないし。怖がっていても当然かしらね?」
「以前……の? 田中先輩はご存知なんですか?」
「そりゃあ知ってるわよ。なにせ私は創業当時から居るんだもの。あの人、いまはあんなだけど、昔は優しくて朗らかな人だったのよ。仕事上の立場が厳しくなっちゃったからなのかしら? ここ数年だわねぇ、あんなふうに眉間に皺を寄せて厳しい顔ばかりするようになっちゃって」
「…………」
「まあ、いまは、彼の話はいいわ。関口さん、倉庫の件は、私と課長も彼に話してみるから、心配しないでね。でも、あなたもよ! 良い話なんだから、ちゃんと考えなさい? ね?」
「はい……」
良い話。一般的には、確かに良い話なのだろうが。
「それにしても……。あなた、すごいわね? 彼に怒鳴り返すなんて」
「えっ? あ?」
クックッと思い出し笑い中の田中先輩に疑問を持つ。なぜ、そこまで知っているのだ。
「全部聞こえてたもの」
会議室から怒鳴り声はする、あの子たちは戻ってこない、様子を見に来れば、給湯室にひしめき合って延々おしゃべりしている、と、私の肩をポンポン叩きながら、田中先輩は笑った。
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