それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ それは、ホントに不可抗力で。

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 これまで、ここSKTの業務内容自体には、さして興味も無かったのだが、もしかして、この会社が開発、販売しているものも、案外おもしろいかも知れないと、ちょっと考えを改めた。

 朧げな記憶の中にある会社の年表を引っ張り出し、ファイルを探す。

「あった」

 現在、この会社の主力商品である独自開発のモバイル連動型業務管理システム開発当時の資料。

 よし、今日はこれを読破してしまおう。資料倉庫って、楽しい。
 パラパラとファイルをめくれば、大まかな設計図や仕様書、企画書などから、開発当初の様子を窺い知ることができる。

「へえ、凄いこれ」

 時代の流れとともに、世の中は電子化へと進んでいる。だが、なかにはそれに不向きな業種もあるし、また、すべての人や企業が即座に順応できるわけでもない。

 特に、古い体制を維持してきた企業では、新たにシステムを導入したところで、それまでの業務の流れを崩したくない現場の抵抗に遭ったり、実際の業務内容にそぐわなかったりと、使いあぐねている場合も多いと聞く。

 しかし、このシステムは、ユーザーインターフェイスもわかりやすく、ある程度直感的に使用しても問題が無さそうだ。また、汎用性拡張性にも優れている。この考え方であれば、アナログな体質の中小規模事業にも融合し易いのではないのだろうか。

 この資料の日付によると、創業当時から開発が始められ、完成までに数年を要している。

 この頃の日本で、業務管理を一元化できるシステムは、大手企業を除く中小規模事業者には、まだそれほど普及していなかったはずだし、導入されていたとしても、その殆どが海外の既製品であり、規模の大小を問わず、個別のカスタマイズにかなりの資金と時間を要し、それらをめぐってのトラブルも多かったらしいと記憶している。

「これ作ったのって……」

 前のほうにページを遡ると、開発者の名前が記されていた。

「小林、尊……」

 佳恵の言葉が、脳裏に浮かぶ。

『……司叔父の学生時代からの親友で、司叔父と一緒にウチの会社を立ち上げたウチの頭脳、開発の統括部長だよ?』

 知らなかった。尊って、本当に凄い技術者だったんだ。

 三階はどうなっているのか知らないけれど、見る限り、リビングにはローテーブルとラグ、寝室にはベッドひとつだけと、家具らしい家具すらもろくに無い、尊のあの家。

 きっと、ほとんど家に帰らず会社に泊まり込み、仕事ばかりしているのだろうと容易に想像が付く。

 そして、システム完成後の急成長ぶり……。

 なるほど、仕事の鬼と怖れられる理由もわからないではない。『小林尊』と、プリントされた文字を指でなぞりながら、笑みが零れた。

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