それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ それは、ホントに不可抗力で。

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 傍らに仁王立ちし、えも言われぬ美しい笑顔を浮かべる佳恵の鬼気迫る様子は、普段説教をするときの百倍、いや、それ以上の迫力がある。

「いや、その……」
「上じゃ、あんたが小林さんに反抗して監禁されてるって噂になってるけど?」
「それは……、まあ、そう……」
「ねえ、定時で、か、え、れ、る、監禁ってなに? どうせあんたのことだから、罰として倉庫番をしろとか命令されて、渡りに船とばかりにホイホイ乗ったんでしょう?」
「いやぁー、ホイホイは……」

 追い詰められる。狙った獲物をいたぶるがごとく少しずつ逃げ道を塞ぐ佳恵の手管に、苦笑するしかない。

「ヘラヘラしないのっ! 私があんたをこの会社にねじ込んだのは、常識的な社会生活をさせるためでしょう? こんな所にいたら、家で引きこもってるのとなんにも変わんないじゃない!」
「……まあ」

 佳恵はどうしようもない奴だと大きくため息をつき、音を立ててパイプ椅子を引き寄せ、どっかりと腰を下ろした。

「……ったく。それで? あんた、いったいなにやったの?」
「そ、それが……ですねぇ、小林統括さんが、私にアシスタントをしろと……、前職のことも言われて、それで」
「なによ? あの人、あんたに目を付けたの?」
「まあ……」
 少々状況が違うが、強ち間違いではないが。いまここでさらに、じつは小林統括は自分の夫でしたなんて言ったら、それこそ、何をされるかわかったもんじゃないから黙っていよう。

「開発が万年人手不足なのは知ってるけど……そっか、困ったわね。前のことがあるから、あんたがやりたくない気持ちもわかるし、無理にやれとは言えないけど。でも、小林さんが諦めるとは思えないし、だからって、あんたがいつまでもここに居ていいってわけでもないし」

 私はいつまででもここでいいのですが。

「……でも、まあ、いくら小林統括でも、そのうち諦めるか忘れるかしてくれるんじゃないのかな?」
「そうかな? 小林さんの性格だったら……それは、あり得ないと思うよ?」

 仰るとおり。ありえないのもよく知っております。

「だったら、どうすればいいと思う? 何か、方法あるかな?」
「うーん……そうねぇ」
「やっぱり無いよね?」

 お願い、無いと言って。佳恵が下手に刺激したら、逆襲が怖い。
 と、佳恵がしたり顔でポンッと膝を打った。

「いいわ! 私が言ってあげる」
「へっ?」
「なに驚いてんのよ? 私が小林さんにちゃんと話しつけてあげるって言ってるの!」
「いや、それは、いくらなんでも……」

 勘弁してください。それ、一番マズいヤツです。

「グズグズしないの! 行くわよ!」

 すくっと立ち上がり私の腕を掴む佳恵に抵抗は虚しく。引きずられるように倉庫を出た。

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