それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

04

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「どこやったんだろう? たしか、この部屋に……」

 次はおまえのことを知りたいからと、自宅へ帰る気なんてさらさらない尊はシャワー中。
 その隙に私は、ここへ引っ越してきたとき、趣味の小部屋のどこかにしまい込んだはずの結婚指輪を探している。

 片付けはそう得意なほうではないが、物が無い整然とした空間を好む自分のために、手抜きはしていないつもりだ。但し、この部屋を除く。

 ここには、部屋のサイズに見合わない大きな机と書棚、マシンやら趣味の書籍やらが、あとからあとから雑多に積み上がっている。古い物を探し出すのは、それこそ発掘作業と言っても過言ではない。

 最後に開けたのがいつかも忘れてしまった小さな引き出しを片っ端から開け、奥の奥まで手を突っ込み中身をひっくり返してみたが、目的の物が入っている様子はまったくない。

 特に、大切にしまい込んだ物に限って、なぜか行方不明になるのも世の常だ。

「どうしよう? ちゃんとしまってあるって言ったのに、じつは無くしましたじゃ、シャレになんないもんなぁ」

 ふと、予感めいたものを感じ、壁際を見上げると、天井にまで届く書棚の上に、小さな桐箱が見えた。

「もしかして……、あれ?」

 窓際に立てかけてある脚立に上り、箱に手をかける。ほぼ三年分積み上がった埃に咽せながら脚立を下り、机の上のティッシュペーパーで箱を軽く拭い、蓋を開けた。

「あった! これこれ!」

 中から赤い小箱を取り出し、パカッと音をさせて蓋を開けると、ぽつんとひとつ、細いプラチナの結婚指輪が、指から外ししまい込んだ三年前と同じ光を放っている。

 ふたりだけで挙げた結婚式は、ウエディングドレスもブーケも無し。
 衝動的で、けっしてロマンチックなものではなかったが、見知らぬたくさんの人たちにおめでとうと言われ、祝福のキスと抱擁を受け、とても幸せだった。

 ふたりで選んだこの指輪を、お互いの左手の薬指にはめたときのあの感動も、空港で別れるまでふたりで過ごしたあのキラキラした時間も、その後の絶望までもがすべて、ちょっと振り返りさえすれば、簡単に思い出すことができる色褪せない大切な記憶。

 これから、私はどうしたらいいのだろう。
 指輪を眺めながら、どれだけの時間、物思いに耽っていたのか。腰に絡められた腕と熱を感じ、現実に引き戻された。

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