それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

文字の大きさ
64 / 90
§ 墨に近づけば黒くなる。

15

しおりを挟む
「あんたさあ、いくら喧嘩したからって、電話もメールも無視って、酷過ぎるんじゃないの? ずっと音信不通にするつもりだったの? 安田さんがあたしと番号交換したのを思い出して連絡くれたからこうして仲直りの機会作ってあげられたけど。ホント、どうするつもりだったの?」
「喧嘩? なんの話?」
「なにすっとぼけてんのよ? まったく、あんたってホント冷たいよね? 安田さんとそういう関係だってこと、あたしに何年もずーっと隠してるなんてさ! それでも友達?」
「そういう?」

 って、どういう……。

「玲子ちゃん、ごめん。俺たちが付き合ってるのを歩夢が言えなかったのも俺が悪いの。けっして歩夢が玲子ちゃんを蔑ろにしてたわけじゃないんだ。だから、ホントごめん。俺が謝るから歩夢を責めないでやってくれる?」
「べつにあたし、責めてるわけじゃないよ? でも、隠しごとされるってなんか信用されてないみたいで嫌じゃない。ちょっとくらい相談してくれたったよかったって思うのよね」
「歩夢だって相談したかったと思うよ。でも、いろいろあったしさ。たとえ親友でも話しにくいことってあるでしょ? 歩夢もつらかったんだよ。それに、元はと言えば、歩夢に誤解させるようなことをした俺が悪いんだから」
「はぁ?」

 ちょっと待て。この男と私が、いろいろ何があって、何を誤解しているというのか。

「そう、なのかな? まあね、過ぎたことはいまさらだからもういいけどさあ。それより問題は、歩夢のその態度よ。安田さんは自分が悪いって言うけど、男と女のことって、どっちがどうって簡単に言い切れるもんじゃないでしょ? 歩夢だって悪いところいっぱいあるにきまってるもん」
「……?……」

 このふたりはいったい、なんの話をしているのでしょう。誰か、教えてくれませんかね。

 駅前にあるチェーンのカフェで私たちと向かい合い、申しわけないと苦笑いを浮かべているこの男、安田勇やすだいさむは、以前の会社に私を誘い込んだ大学の先輩。
 繰り広げられているふたりの会話が意味不明なのはもちろん、安田がなぜ、いまごろになって私の前に現れたのか、頭の中は疑問符だらけだ。

「玲子ちゃん、ありがとう。でも、本当に、悪いのは僕なんだよ」
「でも……」
「いいんだ。せっかくこうして機会をもらえたんだ。歩夢の誤解を解いて、これから先のこともちゃんと話し合うよ」
「安田さん……。そうだよね? 話せばわかるよね。わかった。もう言いません。あたしは歩夢が幸せになってくれればそれでいいの。だから、あとは安田さんが頑張って!」

 スッと立ち上がった玲子のシャツの裾を引っ張った。

「ちょっと? 玲子?」
「そういうことだから! いつまでも意地張ってないでちゃんと話し合いなさい。あんたみたいな偏屈な子をこんなに一途に想ってくれるひとなんてそうそういないんだからね」

 バッグを肩にかけた玲子は、アイスコーヒーの最後の一口を飲み干すと、隼人との待ち合わせに遅れちゃう、と、軽い足取りで店を出ていった。
 向かい側では、いかにも優しげな笑みを浮かべた男が、元はホットだったコーヒーに、いまさらミルクを注いでいる。

「関口、久しぶりに会ったんだ。もっと嬉しそうな顔しろよ」

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

ことりの上手ななかせかた

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
恋愛
堀井小鳥は、気弱で男の人が苦手なちびっ子OL。 しかし、ひょんなことから社内の「女神」と名高い沙羅慧人(しかし男)と顔見知りになってしまう。 それだけでも恐れ多いのに、あろうことか沙羅は小鳥を気に入ってしまったみたいで――!? 「女神様といち庶民の私に、一体何が起こるっていうんですか……!」 「ずっと聴いていたいんです。小鳥さんの歌声を」 小動物系OL×爽やか美青年のじれじれ甘いオフィスラブ。 ※小説家になろうに同作掲載しております

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

ヒロインになれませんが。

橘しづき
恋愛
 安西朱里、二十七歳。    顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。  そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。    イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。    全然上手くいかなくて、何かがおかしい??

この別れは、きっと。

はるきりょう
恋愛
瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

処理中です...