それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

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 エアコンの効きが弱いのか、或いは緊張感のせいか、空気が妙に生温く感じる。
 江崎とパフェを交互に見ながら、まずいな、この状況を早くどうにかしないとパフェが溶けてしまう、と、不要な焦りを覚えた。

「関口おまえ、先約があるんだったら先に言えよ。邪魔しちゃ悪いから俺、行くわ。さっきの返事は今度でいいからさ。後悔しないようによく考えろよ」

 苦笑いしながら立ち上がった安田は、また連絡する、良い返事期待してるよと言い捨て、江崎を一瞥しそそくさと立ち去った。
 その後ろ姿を見送った江崎が、入れ替わりに向かい側に腰を下ろす。彼の手からやっとパフェが離れ、テーブルの上に落ち着いた。

「関口、あいつ、誰?」

 そういえば喉がカラカラだ。手付かずのまま冷めきってしまったコーヒーを一口啜ってみたが、えぐみと酸味がより不快感を助長する。

「あの人は、大学の先輩で、以前居た会社の……。江崎さん、もしかして話、聞いてました?」
「うん。はじめから全部じゃないけど、概要はなんとなくわかった。そうか、前の会社のな……」
「…………」
「それで? あの出目金って、おまえが作ったんだ?」

 おっと。いきなりそこから突っ込んできますか。

「えっと、あの、そうなんですが……」
「さっきのあいつ、あの出目金が欲しいんだろ」

 パフェにスプーンを突っ込みながら、江崎が私に鋭い視線を向ける。

「はい、たぶん。戻ってこいとは言ってましたが、本当の目的はアプリなんだと思います」
「で? おまえはどうすんの?」
「どうするって、もう断りましたから」
「おまえ、あいつが一回断ったくらいで納得すると思ってんの? 俺にはそうは思えなかったけどな。現に返事待ってるとか言ってたじゃねえか。本当に大丈夫なのかよ?」
「それは……」

 江崎の言うとおり、安田が簡単に引き下がるとは思えない。況してや上の指示で話を持ってきたとなれば、尚更のこと。
 だからといって、こちらからなにか打てる手立てがあるでもなし。ただただ断り続けて諦めるのを待つ以外、方法が無いところが癪に障る。

「あのさ、よけいなお世話かも知んないけど、このことさ、小林統括に相談してみたら?」
「へ? 小林……統括に、ですか? なんで?」
「なんでって……。あのさ、小林さんだったら絶対に協力してくれるし、きっと何か良い方策を考えてくれると思うんだけどな。おまえ、あのひととやり合ったくせに、まさか『とてもじゃないけど怖くて相談なんてできないわ』なんて言わねえよな?」

 おい江崎、私はそんな気持ちの悪い声は出さないぞ。

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