それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

19

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 江崎が新卒で入社した当時のSKTは、まだ小規模で社員数も少なく、いまほど明確な部署の区分も無かったらしい。当然、仕事内容も兼任。江崎は、総務の仕事を熟しながら、営業の補佐全般をひとりで捌いていたとのこと。

 小林統括とも直接一緒に仕事をしていたわけで、彼の小林統括に対する理解と信頼は、田中先輩同様、その後入社した社員たちとは一線を画す。

 同じ課で仕事をして約一年、今日はじめて、江崎を人としてちゃんと認識できた気がする。

 俺は男捜しに来てるだけでろくに仕事もしねえ女が嫌いなだけなんだよ。おまえは生意気で変なヤツだがあいつらよりはマシみたいだな、と、褒めているのかいないのだかよくわからない言葉を吐いた江崎の頭は、どうやら皆が言うほど昭和ではないのかも知れない。

 それにしても、私が「江崎さんって、案外良い人だったんですね」と、言ったときの、スプーンをくわえたまま耳まで真っ赤にして横を向き、頬を膨らましたあの顔。おもしろ過ぎる。

 ふふっ。できるものなら、写真に撮りたかったな。

「うぐ……」

 モニタに向かいマウスを握ったままひとり笑っている私の背に、隙ありとばかりに尊が覆い被さってきた。重い。少しは体格差を考えてくれ。

「おい、洗い物終わったぞ。そろそろ風呂入って寝るか、って、なに見てるんだ?」
「うん……、いや、べつに。ただ、ちょっと気になることがあってさ」

 アプリのサポート用に公開しているサイトをポチポチとクリックしつつ、うーんと唸る。
 わからない。アプリの話もそうだが、それ以上に重要なのは、安田がなぜ、あの出目金の作者が私だと気づいたか、なのだ。

「どうかしたのか?」
「うん。それが……。帰りがけに前の会社の人に会って、戻ってこいって誘われたんだけどさ、そいつが、あ、安田って先輩なんだけど、私のアプリのこと知ってたんだよね。それで、どうしてわかったんだろうって」
「会ったって偶然?」
「ううん違う。そいつが連絡先知ってる友達に適当なこと言って繋ぎつけて待ち伏せされたの」
「そうか。それで、アプリ作ってることは? そいつには知らせてなかったのか?」
「うん。だって、始めたのは会社辞めてからだもん。辞めてからは一度も連絡取ってないし、連絡先も全部変えたし……。それに、アプリのことは誰にも言ったことないんだよね。どうしてかな? うーん、わかんない」
「ちょっと貸してみろ」

 マウスを取り上げた尊が、覆い被さったままそれを操作する。クリックしてはページをめくり、あるページにたどり着いたとき、その手が止まった。

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