それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

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「……これはこれで、うん。ワイルドで良いわねぇ。小林さん、お願い。この写真、私のスマホ・・・に送ってくださる?」

「あ、はい。もちろん」と笑顔の尊に頬を染める祖母を見て、新しい老眼鏡をプレゼントしようと思ったのは言うまでもない。

「私は認めないから。歩夢が嫁に行くなんて絶対にダメよ」
「康子、もう止めなさい」
「康子、いいかげんに……」
「母さんはわかってない! そんな大怪我したのだって、家のこと母さんがひとりでしてるからなのよ?」

 往生際の悪い叔母は、矛を収める気が無いらしい。

「歩夢の結婚と母さんの怪我は関係無いだろう?」
「関係無くないわよ。歩夢がお嫁に行ったら母さんの面倒看る人はいなくなるのよ? いまだってそんな足で、誰が家のことするの?」
「正蔵が居るし、あなただって居るでしょ」
「わ、私は家のことがあるから、そうそう手伝いは……」
「なんだおまえ、いつも家に入り浸って世話になってるくせに、手伝いはできないのか?」
「康子の面倒を看なくて済むなら、これほど楽なことないわ。そういうことだから、明日からもう来ないでね」

 毎日のように実家に入り浸る叔母は、やれ昼食だ夕食の惣菜だと祖母に強請り、自分はテレビとおやつ三昧。
 祖母に痛いところを突かれて、ひとたまりもないと思ったのだが。

「じゃあ訊くけど、一人娘を嫁に出したら、関口の家はどうするの? そんなに結婚させたいならどこかの次男三男に婿入りさせて家を継がせるのが筋じゃないの?」

「康子!」と声を荒げた父を祖母が押し止め、ふたりの睨み合に割って入った。

「ねえ康子、あなたの姓はなんだっけ?」
「え? 鈴木だけど……」

 ニッコリ笑う祖母のその笑顔が怖い。何年娘をやっても学習能力の無い叔母だ。

「そう、鈴木。あなたはお嫁に行って鈴木家の人になったのよね?」
「そう……だけど……」
「だったらよその家によけいな口突っ込むのは止めて、鈴木の家のことだけしてればいいのよ」

 祖母は、強し。

 してやったり、と、頷いた祖母は、おとなしくなった叔母を放置し、再び私たちに和やかな顔を向ける。

「ねえ、お婆ちゃん思うんだけど、いまどき豪華な結婚式や披露宴なんて流行らないでしょう? だから身内だけで海外挙式するのはどうかしら? 海の見える教会で結婚式なんて、ロマンチックだわ」
「えっ? 海外?」

 海外の言葉に釣られ一瞬綻んだ叔母に祖母が笑いかける。止めだ。

「身内だけだから。他人は呼ばないわ」

 祖母が、冷たく言い放った。
 引き際はちゃんと弁えなくてはいけません。

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