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§ 蓼食う虫も好き?好き。
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「でもさ、藤本さん、ちゃんと断ったんだよね? そのお坊ちゃん」
「そうです。ちゃんと断りましたよ。でも、メール来るんですよ。もうしつこいったら……」
「そうなんだー、困ったね」
「母にも文句言ってるんですけどねぇ。聞いてくれないっていうか、もうどうしたらいいかわかんなくって」
「そうねぇ……何か良い方法があれば……あっ! あるじゃない。良い方法」
「ありますか? どんな?」
「浅野君よ。浅野君に頼めばいいじゃない」
「俊輔……ですか?」
「そうよ、浅野君。彼なら毎度のことで慣れたもんでしょう?」
「それは……そうなんですけど」
「何よ? 何か問題でもあるの? あ? もしかして、お見合いのこと、浅野君に言ってないの?」
「……それは」
「駄目じゃない。そういうことはちゃんと浅野君に言わなくちゃ」
「それはまぁそうなんですが、何だか言いそびれちゃって」
「なによ? またなんかあったの?」
「いえ、特に何かあったってわけじゃないんですけど……」
そう。特別何かがあったわけではない。単に、話をする機会を逸しただけ。あの日、弥生さんから私の様子がおかしいと連絡を受け、心配して駆けつけてくれた俊輔に当たり散らし泣いた。
しかしあのときは、高ぶった感情をどうにかするのが精一杯で、事情を説明するどころではなく、また翌日には、気晴らしに連れ出されて告白され、見合いの件はもう、頭からすっぽりと抜けてしまっていた。
だったらその後はどうかといえば、あの日以降、あいつの顔を見ていない。仕事場に現れることも無く、時折、連絡を取り合うだけだ。
いったい何を考えているのか、あいつの行動は本当に読めない。自分の家の如く私の仕事場に入り浸っているときもあれば、何日も寄り付かないときもある。その行動には、特に規則性があるようにも見えず、なぜそうなのか理由もわからない。今までは私も敢えて聞こうとも思わなかったのだが。
私たちの関係がこうなる以前には、半年顔を見ないないなんてこともザラ、しばらくの間音信不通になったとしても別にどうということもなかった。
さすがに今は、以前よりは頻繁に連絡を取り合ってはいるが、関係が変わったからといって、世間一般の恋人同士のような甘い雰囲気にというのもいまさら感が強い。
運動公園のドラム缶池で俊輔に告白されたときは、その言葉を素直に受け取ってしまったし、直後は正直浮かれてもいた。
しかし、顔を合わせず時間が経ち、冷静さを取り戻しつつある今、あらためて考えてみると、あいつのあの言葉がどこまで本気だったのかとの疑問も湧いてくる。自分の気持ちだって、あのときはあの場の勢いに任せてしまった部分もあったのではないかとも思う。そう、正直なところ、曖昧でよくわからない。
そんな状況の中、わざわざとってつけたように見合いの件を話題にするのも変な感じだし、そもそも、そんなことを報告する義務もないだろう。
「そうです。ちゃんと断りましたよ。でも、メール来るんですよ。もうしつこいったら……」
「そうなんだー、困ったね」
「母にも文句言ってるんですけどねぇ。聞いてくれないっていうか、もうどうしたらいいかわかんなくって」
「そうねぇ……何か良い方法があれば……あっ! あるじゃない。良い方法」
「ありますか? どんな?」
「浅野君よ。浅野君に頼めばいいじゃない」
「俊輔……ですか?」
「そうよ、浅野君。彼なら毎度のことで慣れたもんでしょう?」
「それは……そうなんですけど」
「何よ? 何か問題でもあるの? あ? もしかして、お見合いのこと、浅野君に言ってないの?」
「……それは」
「駄目じゃない。そういうことはちゃんと浅野君に言わなくちゃ」
「それはまぁそうなんですが、何だか言いそびれちゃって」
「なによ? またなんかあったの?」
「いえ、特に何かあったってわけじゃないんですけど……」
そう。特別何かがあったわけではない。単に、話をする機会を逸しただけ。あの日、弥生さんから私の様子がおかしいと連絡を受け、心配して駆けつけてくれた俊輔に当たり散らし泣いた。
しかしあのときは、高ぶった感情をどうにかするのが精一杯で、事情を説明するどころではなく、また翌日には、気晴らしに連れ出されて告白され、見合いの件はもう、頭からすっぽりと抜けてしまっていた。
だったらその後はどうかといえば、あの日以降、あいつの顔を見ていない。仕事場に現れることも無く、時折、連絡を取り合うだけだ。
いったい何を考えているのか、あいつの行動は本当に読めない。自分の家の如く私の仕事場に入り浸っているときもあれば、何日も寄り付かないときもある。その行動には、特に規則性があるようにも見えず、なぜそうなのか理由もわからない。今までは私も敢えて聞こうとも思わなかったのだが。
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