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第三章 行方不明
第52話 間話 父アルフォンスに報告するミレット
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ミレットは屋敷に帰ると、すぐ父と話し合いの場を持った。
ミレットの父は、城塞都市トロザの領主アルフォンス・トロザ・メルシー伯爵である。
ミレットと父アルフォンスは、執務室で話し合う。
二人は、趣味の良い応接テーブルに向かい合って座る。
「ミレット。今日は随分遅かったね? 心配したよ」
父アルフォンスは叱ったりせずに、優しい口調でミレットに話しかけた。
「お父様。ごめんなさい。初心者ダンジョンを攻略して遅くなってしまいました。時間はかかりましたが、突破しましたわ!」
「おお! それは――! おめでとう!」
父アルフォンスは、大きく目を開いて驚き、娘の快挙を喜んだ。
初心者ダンジョンは、もっと時間をかけて攻略するのが常である。
地道に魔物を倒し戦闘経験を積み、レベルを上げ、ダンジョン探索のノウハウを学ぶ。
ボスに挑む力がついたら、ダンジョン内で野営をしながらボス部屋まで、二、三日かけて進むのだ。
ユウト、ミレット、アンのように一日で踏破するスピード攻略は異例中の異例なのだ。
ミレットは父アルフォンスに、大まかな攻略の様子と、スピード攻略をした経緯――アンの父親がダンジョンから帰還していないこと――を話した。
「なるほど……。アン君のお父さんが、中級ダンジョンから戻ってきていないのは心配だね。今日は戻ってきたのかい?」
「いいえ。帰りに冒険者ギルドで聞いてみましたが、アンさんのお父さんは帰っていませんでしたわ」
「ふむ……」
「明日から有志で捜索隊を編制するそうです。私も参加します」
「ミレット!」
父アルフォンスは、ミレットを心配した。
アンの父親が行方不明になったのは、中級ダンジョンである。
アンは初心者ダンジョンを踏破したとはいえ、まだまだ新人冒険者だ。
果たして中級ダンジョンで捜査隊に加われるのだろうか?
無理をして深い階層に行けば、二次遭難になりかねない。
ミレットは父アルフォンスの気持ちを察して、すぐにフォローをする。
「お父様。安心してくださいな。私はまだ新人冒険者ですから、浅い階層を担当します。私とユウトが浅い階層を担当すれば、ベテラン冒険者の皆さんが深い階層に潜ることが出来ます」
「なるほど。浅い階層か……。つまり人数合わせということか……」
「ええ。お父様、その通りですわ。新人冒険者に出来ることは限られています。それでも、私が浅い階層を担当すれば、全体として効率は良くなり、アンさんのお父さんが発見できる可能性が高まると思うのです」
「うん! そうだね!」
父アルフォンスは、ミレットが自分の実力を冷静に評価していること、全体を見る目を養えていることに感心し、娘が確実に成長していると内心喜んだ。
「アン君も、アン君のお父さんも、我が領民だ。助かるなら助けてあげたい。ミレット、頼むよ」
「ええ。領民を守るのが領主一族の務めです。領主の娘として務めを果たしますわ」
「うんうん、偉いよ!」
父アルフォンスは、娘の成長に目を細める。
もちろん、娘ミレットがダンジョンに入ることを父アルフォンスは心配している。
だが、ダンジョンで魔物を倒しレベルアップしないことには、強くなれない。
強くなければ、いずれ魔物に屠られてしまう。
許容され得るリスクの中で、自らを鍛えるしかないのだ。
ミレットが姿勢を正した。
娘の雰囲気が変わったのを見て、父アルフォンスも気を引き締める。
「お父様。ユウトのことで気が付いたことがございます」
「ふむ。ユウト君か……。ミレットは『使徒ではないか?』と言っていたね?」
「ええ! ええ! お父様! 使徒の可能性は高まったと思いますわ!」
「ミレット。落ち着きなさい」
父アルフォンスは、娘ミレットを落ち着かせるためにテーブルに置かれた紅茶をすすめた。
ミレットは紅茶に一口、二口と続けて飲む。
「お父様。ユウトは火属性魔法を使いました」
「んっ……? ユウト君は、魔法スキルを所持していなかったと思うが?」
「ええ。その通りですわ。しかし、ユウトがファイヤーボールを放って、氷の守護者を倒したのです!」
「何だって!?」
ユウトのスキルは【レベル1】という謎のスキルだと、アルフォンスはミレットから報告を受けていた。
それなのに火属性魔法?
ファイヤーボール?
父アルフォンスは、何の冗談だと困惑する。
ミレットはボス部屋での戦い――氷の守護者との戦闘を父アルフォンスに話した。
「ふーむ……。信じがたい話だ。だが、ミレットが魔力を切らしていたのなら、氷の守護者に止めを刺したファイヤーボールはユウト君が放ったとしか考えられないね……」
「はい。私はユウトに背を向けていましたが、ユウトが呪文を唱える声が聞こえました。『えっ!?』と驚いて振り向くとファイヤーボールが放たれていて、氷の守護者が倒れたのです」
「では、間違いないね……。ユウト君は火属性魔法が使えるのだろう……」
「さらにユウトが【スラッシュ】を使っているところを見ましたわ。ですからスキル【剣術】も所持しているはずです」
「えっ!? 【剣術】もかい!?」
父アルフォンスの困惑は深まる。
複数の戦闘スキルを所持する人物は存在する。
だが、複数の戦闘スキルを所持するのは、ある程度キャリアを積んだ冒険者で、新人冒険者が複数の戦闘スキルを持っていることなどないのだ。
「ユウト君は、成人の儀式で複数のスキルを賜ったのだろうか?」
「いえ。成人の儀式の時は、ジャイルさんがユウトのスキルを外れスキルだと暴露したのです。複数のスキルを賜ってはいないと思います」
「そうか! そうだね! そうだった! うーむ……。では、ユウト君は戦闘に抜きん出た才があるのか……。それとも、【レベル1】というスキルの効果なのか……」
「いずれにしろ使徒である可能性が高まったと思いますわ。【レベル1】。【火属性魔法】、【剣術】。最低でもスキルを三つ持っていることが確定しています」
「うん。使徒の可能性は高そうだね」
父アルフォンスとミレットは、無言で紅茶を一口飲んだ。
「ミレット。アン君のお父さんの件が終ったら、ユウト君に会わせてもらえるかな?」
「承知いたしましたわ。お父様」
ミレットの父は、城塞都市トロザの領主アルフォンス・トロザ・メルシー伯爵である。
ミレットと父アルフォンスは、執務室で話し合う。
二人は、趣味の良い応接テーブルに向かい合って座る。
「ミレット。今日は随分遅かったね? 心配したよ」
父アルフォンスは叱ったりせずに、優しい口調でミレットに話しかけた。
「お父様。ごめんなさい。初心者ダンジョンを攻略して遅くなってしまいました。時間はかかりましたが、突破しましたわ!」
「おお! それは――! おめでとう!」
父アルフォンスは、大きく目を開いて驚き、娘の快挙を喜んだ。
初心者ダンジョンは、もっと時間をかけて攻略するのが常である。
地道に魔物を倒し戦闘経験を積み、レベルを上げ、ダンジョン探索のノウハウを学ぶ。
ボスに挑む力がついたら、ダンジョン内で野営をしながらボス部屋まで、二、三日かけて進むのだ。
ユウト、ミレット、アンのように一日で踏破するスピード攻略は異例中の異例なのだ。
ミレットは父アルフォンスに、大まかな攻略の様子と、スピード攻略をした経緯――アンの父親がダンジョンから帰還していないこと――を話した。
「なるほど……。アン君のお父さんが、中級ダンジョンから戻ってきていないのは心配だね。今日は戻ってきたのかい?」
「いいえ。帰りに冒険者ギルドで聞いてみましたが、アンさんのお父さんは帰っていませんでしたわ」
「ふむ……」
「明日から有志で捜索隊を編制するそうです。私も参加します」
「ミレット!」
父アルフォンスは、ミレットを心配した。
アンの父親が行方不明になったのは、中級ダンジョンである。
アンは初心者ダンジョンを踏破したとはいえ、まだまだ新人冒険者だ。
果たして中級ダンジョンで捜査隊に加われるのだろうか?
無理をして深い階層に行けば、二次遭難になりかねない。
ミレットは父アルフォンスの気持ちを察して、すぐにフォローをする。
「お父様。安心してくださいな。私はまだ新人冒険者ですから、浅い階層を担当します。私とユウトが浅い階層を担当すれば、ベテラン冒険者の皆さんが深い階層に潜ることが出来ます」
「なるほど。浅い階層か……。つまり人数合わせということか……」
「ええ。お父様、その通りですわ。新人冒険者に出来ることは限られています。それでも、私が浅い階層を担当すれば、全体として効率は良くなり、アンさんのお父さんが発見できる可能性が高まると思うのです」
「うん! そうだね!」
父アルフォンスは、ミレットが自分の実力を冷静に評価していること、全体を見る目を養えていることに感心し、娘が確実に成長していると内心喜んだ。
「アン君も、アン君のお父さんも、我が領民だ。助かるなら助けてあげたい。ミレット、頼むよ」
「ええ。領民を守るのが領主一族の務めです。領主の娘として務めを果たしますわ」
「うんうん、偉いよ!」
父アルフォンスは、娘の成長に目を細める。
もちろん、娘ミレットがダンジョンに入ることを父アルフォンスは心配している。
だが、ダンジョンで魔物を倒しレベルアップしないことには、強くなれない。
強くなければ、いずれ魔物に屠られてしまう。
許容され得るリスクの中で、自らを鍛えるしかないのだ。
ミレットが姿勢を正した。
娘の雰囲気が変わったのを見て、父アルフォンスも気を引き締める。
「お父様。ユウトのことで気が付いたことがございます」
「ふむ。ユウト君か……。ミレットは『使徒ではないか?』と言っていたね?」
「ええ! ええ! お父様! 使徒の可能性は高まったと思いますわ!」
「ミレット。落ち着きなさい」
父アルフォンスは、娘ミレットを落ち着かせるためにテーブルに置かれた紅茶をすすめた。
ミレットは紅茶に一口、二口と続けて飲む。
「お父様。ユウトは火属性魔法を使いました」
「んっ……? ユウト君は、魔法スキルを所持していなかったと思うが?」
「ええ。その通りですわ。しかし、ユウトがファイヤーボールを放って、氷の守護者を倒したのです!」
「何だって!?」
ユウトのスキルは【レベル1】という謎のスキルだと、アルフォンスはミレットから報告を受けていた。
それなのに火属性魔法?
ファイヤーボール?
父アルフォンスは、何の冗談だと困惑する。
ミレットはボス部屋での戦い――氷の守護者との戦闘を父アルフォンスに話した。
「ふーむ……。信じがたい話だ。だが、ミレットが魔力を切らしていたのなら、氷の守護者に止めを刺したファイヤーボールはユウト君が放ったとしか考えられないね……」
「はい。私はユウトに背を向けていましたが、ユウトが呪文を唱える声が聞こえました。『えっ!?』と驚いて振り向くとファイヤーボールが放たれていて、氷の守護者が倒れたのです」
「では、間違いないね……。ユウト君は火属性魔法が使えるのだろう……」
「さらにユウトが【スラッシュ】を使っているところを見ましたわ。ですからスキル【剣術】も所持しているはずです」
「えっ!? 【剣術】もかい!?」
父アルフォンスの困惑は深まる。
複数の戦闘スキルを所持する人物は存在する。
だが、複数の戦闘スキルを所持するのは、ある程度キャリアを積んだ冒険者で、新人冒険者が複数の戦闘スキルを持っていることなどないのだ。
「ユウト君は、成人の儀式で複数のスキルを賜ったのだろうか?」
「いえ。成人の儀式の時は、ジャイルさんがユウトのスキルを外れスキルだと暴露したのです。複数のスキルを賜ってはいないと思います」
「そうか! そうだね! そうだった! うーむ……。では、ユウト君は戦闘に抜きん出た才があるのか……。それとも、【レベル1】というスキルの効果なのか……」
「いずれにしろ使徒である可能性が高まったと思いますわ。【レベル1】。【火属性魔法】、【剣術】。最低でもスキルを三つ持っていることが確定しています」
「うん。使徒の可能性は高そうだね」
父アルフォンスとミレットは、無言で紅茶を一口飲んだ。
「ミレット。アン君のお父さんの件が終ったら、ユウト君に会わせてもらえるかな?」
「承知いたしましたわ。お父様」
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