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晴美は確かに大量に弁当を作るという事実に対して、気負った所はまるでなかった。
そして実際に、週に五日全てにおいて、テーマこそ同じだが、全く違う物を作ったのだ。
幼馴染は自分の弟たちおよび、畑仕事をしている父親と祖父母のために、毎日せっせとお弁当を作ってきた経験があるから、大量の弁当くらいでは、プレッシャーなどないんだろう。
それに毎日、とてもおいしい。冷める事を計算しているからだろう、冷えて固まる油などを一度お湯などで流している事もあって、肉料理なども女の子が食べ進めやすい、少しさっぱりした雰囲気である。
美味しい物は大歓迎の依里であるが、依里は多少脂が冷えて固まっても、社員食堂にはレンジという便利家電があるので、ちんすれば美味しいだろう……と考えるわけだが、それに対しての晴美の主張はこうであった。
「お外で食べるかもしれないし、友達と出かけて食べるかもしれないでしょ? 外にレンジっていう素敵なものはないから、そこら辺は考えなきゃ」
「私だけの時は、そういうの気にしてなかったのに?」
「だってヨリちゃん、仕事の中身聞く限り、お外の公園とかでランチしないでしょ。外で食べるくらいだったら、仕事のデスクで食べて、昼寝するって前に話してた気がするな」
そんな事を、食事中の会話で言ったかもしれない。依里はそれに納得した。
確かに、作って食べさせる相手のあれこれそれを、ある程度考慮すると、こういう違いになるんだろう。
「毎回出汁巻き卵とか、大丈夫なの、卵高くない」
「そのほかの材料の、値段とか抑えてるから大丈夫! それに卵に関しては、俺もいっぱい食べるから、卵の値段だけはあんまり考えない」
にこにこと年齢にそぐわない無邪気な笑顔で言う幼馴染、である。
「皆何か言ってない? 最初に、文句言うなら二度と作らないって約束の書類書いてもらったけど、苦手な味付けとかくらいは、聞いてみようかなって思って」
「皆絶賛してる。こんなにおいしいのを毎日、ワンコインくらいで食べられるなんて夢みたいだって。それも毎日違う物で」
「それはよかった。美味しいって言ってもらえるのが、俺は一番幸せだもの」
「私そんなに美味しいって言ってない気がする」
「ヨリちゃんはさ、一緒に食べて、顔きらっきらしてて、夢中で食べてるから、それ見てるとすごく幸せなの」
「そうなのか……いつも作ってくれてありがとう。ところで晴美、その大量の家電製品のカタログは何」
「ああこれ? 食洗器導入するって、前に言ったでしょ? どれにしようかなって」
「こんな大きな冷蔵庫を買って、まだ今月懐に余裕があるの?」
「俺、いままであっちこっち女の子の家で居候してて、家電製品とか買った事ないから、結構お金たまってるの。あ、女の子の家ではちゃんと家賃とか生活費は払ってたよ、ヒモじゃないんだから」
ヒモだと思われるのは心外だ、という調子で晴美はいい、依里はそういうのは思わない、と返した。
「だってお前、実家では畑仕事で忙しいおじさんたちの代わりに、家に帰ってきたら家事とか八割こなして、食事を作って、名もなき家事って奴もこなして、弟たちのおやつも作って、働きまくってたじゃないか。そんな男が、ヒモ生活になるとは思えないんだよ」
「だって畑の繁忙期は忙しすぎるでしょ。弟たちは部活動とかが忙しくて、なかなか手伝えなかったし。いい時に大会が被るって、弟たちぼやいてたし。出来る人間が色々しなくちゃ。それに畑の手伝いも結構好きだったもの。皆どうしてるかな」
「皆……って、確か高校の時の同好会の仲間の事?」
「うん」
依里は晴美の言葉で、その結構特殊な同好会の面々の事を思い出した。
その同好会は最初は料理研究会の顔をしていたのだが、材料費を稼ぐ事と、農業の手伝いも活動の一環だというこじつけを行った結果、高校の近辺だったり、同好会のメンバーの知り合いの農家だったりの繁忙期に、自転車にまたがり放課後や休日に出張お手伝いなんて事をしていた謎の同好会なのだ。
生きのいい高校生の男子が五人も揃っているので、当時農家さんたちは重宝していたらしい。
更にバイト代と称して、たっぷりの野菜や数十キロ単位の米ももらっていたのだ。
大食漢の高校男子五人にとっては、お金よりも食べ物の方がよかったらしく、金より食べ物! と言っていた気がする。
そんな大暴走している同好会だったものの、農家さんたちからお礼の電話が学校にかかってきたりするので、教師たちは
「暴れるなよ、お行儀良くしろよ、迷惑をかけるなよ」
という事で見逃していた……はずだ。
確か数学教師の実家の米農家にも、出張お手伝いに行き、ほくほく顔で玄米をたっぷりもらっていたような。
依里がそんな同好会の実情を知っているのは、主に目の前の幼馴染が、おすそ分けに来ていたからである。
依里の家でも取れたあれこれそれを渡していたので、交換会のような状態だったが、その時に楽しそうに話していたので、記憶の片隅に残っていたわけである。
ちなみにその同好会は、五人が卒業したのちはなくなり、五人の中でも遠方の大学に入学しない男が、ほそぼそと手伝いに回っていたはずだ。
ちなみに晴美は、二十歳で留学に行き、そのまま各国を転々と回るために大学を退学するまでは、お手伝いに行っていた側である。
「留学先で携帯壊れて、友達の連絡先とか結構なくなっちゃったんだよね。だから皆がどうしてるのか、風の噂位でしか知れないし。今じゃ俺が音信不通って事になっちゃってるのかな。ラインとか、皆のあだ名覚えてないし、画像なんてころころ変わるし」
言いつつ晴美は、食洗器の候補の機種のページに、ぐるぐると赤い印をつけていた。
「環さんは、お料理もとても上手だと聞いたのですが、何が得意ですか?」
「えーっと……?」
職場での事だ。依里は今日も営業補佐をせっせと行い、うまい具合にプレゼンの資料を作成し、スケジュールを組み立て、取引先に電話であれこれと連絡をしていた。
そしてやっと昼になり、今日は社員食堂でお弁当を広げようと決めて、空いている席に座った時の事だった。
いきなり話しかけられたため、誰だろうと振り返ってから、依里はその相手が随分久しぶりに話す事になった、柳川だと知ったのだ。
柳川は興味深そうに彼女を見ている。手には社員食堂のお盆。その上には料理が乗っている。
今日は群がる女性たちがいないのだな、と失礼ながらも依里が思っていると、彼は穏やかにこう言った。
「ご一緒してもよろしいですか? 今日は空いている席が少ないので」
「あ、そういう事ですか、どうぞ」
確かに見渡せば、空いている席が少なく、女性たちが群がって食事をするほどの空席はない。
それもあって、やんわり遠ざかったのだろう。
向かいの席に座った柳川が、すみませんと前置きをして、また問いかけて来る。
「環さんが作るお弁当が、総務課やそのほかの課でも、ちょっとした話題なんですよ」
「私は、作ってませんよ、同居人がせっせと作っているんです」
「そうなんですか? 営業課の補佐の方たちが、同じお弁当箱を使って、綺麗なお弁当を食べているから、どこで買ったのかと聞いた人が、『環さんの所で作ってもらっている』と聞いてきた物ですから、てっきり環さんが五人分というたくさんのお弁当を、毎日作っている物だとばかり」
「そんな事出来るわけないじゃないですか。私には無理ですよ、無理! 作っているのは、料理が趣味で料理が娯楽で料理が仕事っていう、頭の中の四割が料理だろうって思う同居人です」
「いつの間に、同居人がいらしたんですか?」
「今のところに引っ越す時に、偶然が重なって同居人を迎える事になったんです」
まさか、こちらの事情をよく知らない相手に、押しかけて頼み込まれて同居している、というのは言いにくいため、依里はオブラートに包んでそう言った。
「もともとの知り合いですよね?」
「結構昔からの知り合いです。なので、気遣いとかあまりしなくて済む相手でもあります」
ここでも、男と同居だと言うと、また変な勘違いや探り合いになるので、あえて言わなかった依里だった。
その後の話題は、当たり障りなく、誰しも一度は話題にするであろう、成績優秀者が招待されるクリスマスパーティの事になった。
「柳川さんは参加されるんですか? そうしたら皆さん、きっと気合い入れますね」
「私は色々な関係で、参加せざるを得ないんですよ」
親会社の社長の親族だものな、と依里は納得した。そう言ったしがらみは多かろう。
しかし、依里は自分が成績優秀者ではないと考えいていたため、こう言った。
「やはり会場って素敵なんでしょうか。話は聞くんですけれど、お恥ずかしながら一度も参加した事がないので」
「そうでしたか。私も今年まで海外で働いていたので、あまり詳しくはありませんが、知り合いの部長たちが言うには、かなり気合の入ったパーティだとの事です」
「すごいですね」
「この会社が、輸入食品などを取り扱っているため、クリスマスの事に関しては気合がかなり入るようだという話も」
納得である。その後当たり障りのない話は続き、仕事前に一度、化粧の確認をしに行った依里は、今回さっそく、女性社員に群がられた。
「柳川さんと何を話していたんです?」
あなたみたいな人が何を喋るのだと言わんばかりの顔をされている。
皆敵意に満ちた眼差しなので、依里は落ち着いた声で答えた。
「お弁当の話と、それから、今年行われるクリスマスパーティの話題です。どんなものなのだろうという話題が中心でしたよ」
「本当に? ずうずうしく約束を取り付けたとかじゃないでしょうね」
「そんな事しませんよ。出来るわけないじゃないですか」
依里が心底そうでしょう、と言いたげな声で言った事に納得したのか、彼女たちは退いたのだった。
「抜け駆けは許さないんだからね」
引き際の声がどろどろと重苦しく、やっぱりしばらく柳川さんと一対一で接触は危険だからしない方がいいな、と判断した依里であった。
そして実際に、週に五日全てにおいて、テーマこそ同じだが、全く違う物を作ったのだ。
幼馴染は自分の弟たちおよび、畑仕事をしている父親と祖父母のために、毎日せっせとお弁当を作ってきた経験があるから、大量の弁当くらいでは、プレッシャーなどないんだろう。
それに毎日、とてもおいしい。冷める事を計算しているからだろう、冷えて固まる油などを一度お湯などで流している事もあって、肉料理なども女の子が食べ進めやすい、少しさっぱりした雰囲気である。
美味しい物は大歓迎の依里であるが、依里は多少脂が冷えて固まっても、社員食堂にはレンジという便利家電があるので、ちんすれば美味しいだろう……と考えるわけだが、それに対しての晴美の主張はこうであった。
「お外で食べるかもしれないし、友達と出かけて食べるかもしれないでしょ? 外にレンジっていう素敵なものはないから、そこら辺は考えなきゃ」
「私だけの時は、そういうの気にしてなかったのに?」
「だってヨリちゃん、仕事の中身聞く限り、お外の公園とかでランチしないでしょ。外で食べるくらいだったら、仕事のデスクで食べて、昼寝するって前に話してた気がするな」
そんな事を、食事中の会話で言ったかもしれない。依里はそれに納得した。
確かに、作って食べさせる相手のあれこれそれを、ある程度考慮すると、こういう違いになるんだろう。
「毎回出汁巻き卵とか、大丈夫なの、卵高くない」
「そのほかの材料の、値段とか抑えてるから大丈夫! それに卵に関しては、俺もいっぱい食べるから、卵の値段だけはあんまり考えない」
にこにこと年齢にそぐわない無邪気な笑顔で言う幼馴染、である。
「皆何か言ってない? 最初に、文句言うなら二度と作らないって約束の書類書いてもらったけど、苦手な味付けとかくらいは、聞いてみようかなって思って」
「皆絶賛してる。こんなにおいしいのを毎日、ワンコインくらいで食べられるなんて夢みたいだって。それも毎日違う物で」
「それはよかった。美味しいって言ってもらえるのが、俺は一番幸せだもの」
「私そんなに美味しいって言ってない気がする」
「ヨリちゃんはさ、一緒に食べて、顔きらっきらしてて、夢中で食べてるから、それ見てるとすごく幸せなの」
「そうなのか……いつも作ってくれてありがとう。ところで晴美、その大量の家電製品のカタログは何」
「ああこれ? 食洗器導入するって、前に言ったでしょ? どれにしようかなって」
「こんな大きな冷蔵庫を買って、まだ今月懐に余裕があるの?」
「俺、いままであっちこっち女の子の家で居候してて、家電製品とか買った事ないから、結構お金たまってるの。あ、女の子の家ではちゃんと家賃とか生活費は払ってたよ、ヒモじゃないんだから」
ヒモだと思われるのは心外だ、という調子で晴美はいい、依里はそういうのは思わない、と返した。
「だってお前、実家では畑仕事で忙しいおじさんたちの代わりに、家に帰ってきたら家事とか八割こなして、食事を作って、名もなき家事って奴もこなして、弟たちのおやつも作って、働きまくってたじゃないか。そんな男が、ヒモ生活になるとは思えないんだよ」
「だって畑の繁忙期は忙しすぎるでしょ。弟たちは部活動とかが忙しくて、なかなか手伝えなかったし。いい時に大会が被るって、弟たちぼやいてたし。出来る人間が色々しなくちゃ。それに畑の手伝いも結構好きだったもの。皆どうしてるかな」
「皆……って、確か高校の時の同好会の仲間の事?」
「うん」
依里は晴美の言葉で、その結構特殊な同好会の面々の事を思い出した。
その同好会は最初は料理研究会の顔をしていたのだが、材料費を稼ぐ事と、農業の手伝いも活動の一環だというこじつけを行った結果、高校の近辺だったり、同好会のメンバーの知り合いの農家だったりの繁忙期に、自転車にまたがり放課後や休日に出張お手伝いなんて事をしていた謎の同好会なのだ。
生きのいい高校生の男子が五人も揃っているので、当時農家さんたちは重宝していたらしい。
更にバイト代と称して、たっぷりの野菜や数十キロ単位の米ももらっていたのだ。
大食漢の高校男子五人にとっては、お金よりも食べ物の方がよかったらしく、金より食べ物! と言っていた気がする。
そんな大暴走している同好会だったものの、農家さんたちからお礼の電話が学校にかかってきたりするので、教師たちは
「暴れるなよ、お行儀良くしろよ、迷惑をかけるなよ」
という事で見逃していた……はずだ。
確か数学教師の実家の米農家にも、出張お手伝いに行き、ほくほく顔で玄米をたっぷりもらっていたような。
依里がそんな同好会の実情を知っているのは、主に目の前の幼馴染が、おすそ分けに来ていたからである。
依里の家でも取れたあれこれそれを渡していたので、交換会のような状態だったが、その時に楽しそうに話していたので、記憶の片隅に残っていたわけである。
ちなみにその同好会は、五人が卒業したのちはなくなり、五人の中でも遠方の大学に入学しない男が、ほそぼそと手伝いに回っていたはずだ。
ちなみに晴美は、二十歳で留学に行き、そのまま各国を転々と回るために大学を退学するまでは、お手伝いに行っていた側である。
「留学先で携帯壊れて、友達の連絡先とか結構なくなっちゃったんだよね。だから皆がどうしてるのか、風の噂位でしか知れないし。今じゃ俺が音信不通って事になっちゃってるのかな。ラインとか、皆のあだ名覚えてないし、画像なんてころころ変わるし」
言いつつ晴美は、食洗器の候補の機種のページに、ぐるぐると赤い印をつけていた。
「環さんは、お料理もとても上手だと聞いたのですが、何が得意ですか?」
「えーっと……?」
職場での事だ。依里は今日も営業補佐をせっせと行い、うまい具合にプレゼンの資料を作成し、スケジュールを組み立て、取引先に電話であれこれと連絡をしていた。
そしてやっと昼になり、今日は社員食堂でお弁当を広げようと決めて、空いている席に座った時の事だった。
いきなり話しかけられたため、誰だろうと振り返ってから、依里はその相手が随分久しぶりに話す事になった、柳川だと知ったのだ。
柳川は興味深そうに彼女を見ている。手には社員食堂のお盆。その上には料理が乗っている。
今日は群がる女性たちがいないのだな、と失礼ながらも依里が思っていると、彼は穏やかにこう言った。
「ご一緒してもよろしいですか? 今日は空いている席が少ないので」
「あ、そういう事ですか、どうぞ」
確かに見渡せば、空いている席が少なく、女性たちが群がって食事をするほどの空席はない。
それもあって、やんわり遠ざかったのだろう。
向かいの席に座った柳川が、すみませんと前置きをして、また問いかけて来る。
「環さんが作るお弁当が、総務課やそのほかの課でも、ちょっとした話題なんですよ」
「私は、作ってませんよ、同居人がせっせと作っているんです」
「そうなんですか? 営業課の補佐の方たちが、同じお弁当箱を使って、綺麗なお弁当を食べているから、どこで買ったのかと聞いた人が、『環さんの所で作ってもらっている』と聞いてきた物ですから、てっきり環さんが五人分というたくさんのお弁当を、毎日作っている物だとばかり」
「そんな事出来るわけないじゃないですか。私には無理ですよ、無理! 作っているのは、料理が趣味で料理が娯楽で料理が仕事っていう、頭の中の四割が料理だろうって思う同居人です」
「いつの間に、同居人がいらしたんですか?」
「今のところに引っ越す時に、偶然が重なって同居人を迎える事になったんです」
まさか、こちらの事情をよく知らない相手に、押しかけて頼み込まれて同居している、というのは言いにくいため、依里はオブラートに包んでそう言った。
「もともとの知り合いですよね?」
「結構昔からの知り合いです。なので、気遣いとかあまりしなくて済む相手でもあります」
ここでも、男と同居だと言うと、また変な勘違いや探り合いになるので、あえて言わなかった依里だった。
その後の話題は、当たり障りなく、誰しも一度は話題にするであろう、成績優秀者が招待されるクリスマスパーティの事になった。
「柳川さんは参加されるんですか? そうしたら皆さん、きっと気合い入れますね」
「私は色々な関係で、参加せざるを得ないんですよ」
親会社の社長の親族だものな、と依里は納得した。そう言ったしがらみは多かろう。
しかし、依里は自分が成績優秀者ではないと考えいていたため、こう言った。
「やはり会場って素敵なんでしょうか。話は聞くんですけれど、お恥ずかしながら一度も参加した事がないので」
「そうでしたか。私も今年まで海外で働いていたので、あまり詳しくはありませんが、知り合いの部長たちが言うには、かなり気合の入ったパーティだとの事です」
「すごいですね」
「この会社が、輸入食品などを取り扱っているため、クリスマスの事に関しては気合がかなり入るようだという話も」
納得である。その後当たり障りのない話は続き、仕事前に一度、化粧の確認をしに行った依里は、今回さっそく、女性社員に群がられた。
「柳川さんと何を話していたんです?」
あなたみたいな人が何を喋るのだと言わんばかりの顔をされている。
皆敵意に満ちた眼差しなので、依里は落ち着いた声で答えた。
「お弁当の話と、それから、今年行われるクリスマスパーティの話題です。どんなものなのだろうという話題が中心でしたよ」
「本当に? ずうずうしく約束を取り付けたとかじゃないでしょうね」
「そんな事しませんよ。出来るわけないじゃないですか」
依里が心底そうでしょう、と言いたげな声で言った事に納得したのか、彼女たちは退いたのだった。
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