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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・29
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開戦から5時間が経過し、陽も落ちてキュラ平原は闇に包まれた。日没まで粘っていた両軍も、月明かりはあるものの暗闇の中では満足に身動きできずに兵を退き始めた。
ライオン傭兵団も下がると、仲間たちから離れていたマーゴットとブルニタルも合流して焚き火を囲んだ。
「なーよ、ちょろっと小耳に挟んだんだけど、残りの正規部隊全部出撃してくるらしいぞ」
干し肉を齧りながらザカリーが声を顰める。しかしその顔は愉しそうに、にんまりとしていた。
「では、日の出の頃にはほぼキュラ平原に到着するでしょうね」
「不眠不休で大移動してくるぜ。徴兵たちの頭数は揃わないだろうが、正規の軍人たちは勢ぞろいするだろうな」
ブルニタルとギャリーが揃って頷く。
「ボクたちだいぶ目立ってたみたいだね。さっきナントカ傭兵団の連中から大絶賛されたよ」
タルコットは得意げに胸をはる。それを見やってカーティスも満足そうに頷いた。
「明日は今日以上に、もっともっと派手に暴れなくては、ですねえ」
「伯父貴と手合わせ出来れば、かなり目立つと思うんだが。なかなか近づけない」
ガエルは残念そうに呟いた。
「将軍様ですしね」
慰めるようにシビルがガエルの足をペチペチと叩く。
「脳筋組には絶対負けないよー!」
ハーマンがフサフサの尻尾をブンブン振り回しながら叫ぶ。
「魔法使い組も、うんと暴れてるんだから、明日は上級攻撃魔法の乱舞さっ!」
「味方まで消し炭にすんじゃねーぞ、ハーマン」
ニヤニヤとギャリーにツッコまれ、ハーマンはギクッと硬直した。実は先ほど見境なく他所の傭兵たちまで巻き込んで、何人か黒焦げの焼死体にしてしまったのだ。
キツネのトゥーリ族であるハーマンは、もともと頭脳明晰なのに加え、魔力が高く扱う魔法も上級レベルなものばかりだ。とくに攻撃系魔法に特化している。しかしコントロールがやや下手で、高い魔力に見合うだけの制御ができずに、魔法を暴走させることがよくあるのだ。
派手に暴れるのはいいが、見境なしでは洒落にならない。
高い報酬と売名行為のために乗り込んできた戦場だったが、まさか自分たちがコッコラ王国の王太子が打ち立てた、ベルトルド殺害計画のために踊らされていることなど思いもよらなかった。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムの建物は、すでに軍によって接収され、民間人は誰もいない。
たまたま転送されてきた民間人は、すぐに軍人たちに建物の外に追いやられており、正規の軍人たちは大急ぎで目的地へ向けて転送されていっていた。
建物の外でその様子をぼんやり見つめていたアルカネットは、背中を指でツンツンされて顔だけ振り向いた。
「よう」
「よう、じゃありませんよ。なんですかこれは」
溜息混じりに言うと、バツの悪そうな顔をしたベルトルドが横に並んだ。
「今から悪ガキどもを成敗しに行く。お前も手伝え」
「私は事情がさっぱり飲み込めていませんが?」
本当は知っているが、わざとアルカネットはベルトルドに説明を要求した。
「………ライオンの連中が、コッコラ王国側について暴れてるらしい。それを止めさせに行く」
「副宰相であるあなたが、何故行かなくてはいけないのです?」
「ボケジジイにバレバレだからだ!」
憤懣やるかたない、といった表情で鼻息を吹き出した。ボケジジイ、とはハワドウレ皇国皇王様のことである。
「はあ……。だからあれほど、きちんと釘を刺してきなさいと言ったでしょうに」
「刺した釘を抜いてったんだ! アイツらっ」
「全く……。子供の躾は親の責任ですよ」
「たっぷりお仕置きしてやる!」
「で、なんで私まで行かなければならないんです? あなた一人で十分でしょうに」
すると、ベルトルドは捨て犬のような表情を浮かべた顔をアルカネットに向けた。こういう表情をするときは、きまって甘えていると判っている。
涼しげな目つきでたっぷりその顔をみやったあと、アルカネットは深々とため息をついた。
「久々に私も暴れてみましょうか」
途端、光がさしたようにベルトルドの顔が輝いた。
「ですが、エグザイル・システムは使えなさそうですよ。職権乱用してもいいのでしょうが、邪魔をすると後が怖そうですしね」
「夜中までかかるだろうなこれは。まあ、俺たちはこれで行く」
ベルトルドが指をパチリと鳴らすと、2人の姿はその場から消えた。
ライオン傭兵団も下がると、仲間たちから離れていたマーゴットとブルニタルも合流して焚き火を囲んだ。
「なーよ、ちょろっと小耳に挟んだんだけど、残りの正規部隊全部出撃してくるらしいぞ」
干し肉を齧りながらザカリーが声を顰める。しかしその顔は愉しそうに、にんまりとしていた。
「では、日の出の頃にはほぼキュラ平原に到着するでしょうね」
「不眠不休で大移動してくるぜ。徴兵たちの頭数は揃わないだろうが、正規の軍人たちは勢ぞろいするだろうな」
ブルニタルとギャリーが揃って頷く。
「ボクたちだいぶ目立ってたみたいだね。さっきナントカ傭兵団の連中から大絶賛されたよ」
タルコットは得意げに胸をはる。それを見やってカーティスも満足そうに頷いた。
「明日は今日以上に、もっともっと派手に暴れなくては、ですねえ」
「伯父貴と手合わせ出来れば、かなり目立つと思うんだが。なかなか近づけない」
ガエルは残念そうに呟いた。
「将軍様ですしね」
慰めるようにシビルがガエルの足をペチペチと叩く。
「脳筋組には絶対負けないよー!」
ハーマンがフサフサの尻尾をブンブン振り回しながら叫ぶ。
「魔法使い組も、うんと暴れてるんだから、明日は上級攻撃魔法の乱舞さっ!」
「味方まで消し炭にすんじゃねーぞ、ハーマン」
ニヤニヤとギャリーにツッコまれ、ハーマンはギクッと硬直した。実は先ほど見境なく他所の傭兵たちまで巻き込んで、何人か黒焦げの焼死体にしてしまったのだ。
キツネのトゥーリ族であるハーマンは、もともと頭脳明晰なのに加え、魔力が高く扱う魔法も上級レベルなものばかりだ。とくに攻撃系魔法に特化している。しかしコントロールがやや下手で、高い魔力に見合うだけの制御ができずに、魔法を暴走させることがよくあるのだ。
派手に暴れるのはいいが、見境なしでは洒落にならない。
高い報酬と売名行為のために乗り込んできた戦場だったが、まさか自分たちがコッコラ王国の王太子が打ち立てた、ベルトルド殺害計画のために踊らされていることなど思いもよらなかった。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムの建物は、すでに軍によって接収され、民間人は誰もいない。
たまたま転送されてきた民間人は、すぐに軍人たちに建物の外に追いやられており、正規の軍人たちは大急ぎで目的地へ向けて転送されていっていた。
建物の外でその様子をぼんやり見つめていたアルカネットは、背中を指でツンツンされて顔だけ振り向いた。
「よう」
「よう、じゃありませんよ。なんですかこれは」
溜息混じりに言うと、バツの悪そうな顔をしたベルトルドが横に並んだ。
「今から悪ガキどもを成敗しに行く。お前も手伝え」
「私は事情がさっぱり飲み込めていませんが?」
本当は知っているが、わざとアルカネットはベルトルドに説明を要求した。
「………ライオンの連中が、コッコラ王国側について暴れてるらしい。それを止めさせに行く」
「副宰相であるあなたが、何故行かなくてはいけないのです?」
「ボケジジイにバレバレだからだ!」
憤懣やるかたない、といった表情で鼻息を吹き出した。ボケジジイ、とはハワドウレ皇国皇王様のことである。
「はあ……。だからあれほど、きちんと釘を刺してきなさいと言ったでしょうに」
「刺した釘を抜いてったんだ! アイツらっ」
「全く……。子供の躾は親の責任ですよ」
「たっぷりお仕置きしてやる!」
「で、なんで私まで行かなければならないんです? あなた一人で十分でしょうに」
すると、ベルトルドは捨て犬のような表情を浮かべた顔をアルカネットに向けた。こういう表情をするときは、きまって甘えていると判っている。
涼しげな目つきでたっぷりその顔をみやったあと、アルカネットは深々とため息をついた。
「久々に私も暴れてみましょうか」
途端、光がさしたようにベルトルドの顔が輝いた。
「ですが、エグザイル・システムは使えなさそうですよ。職権乱用してもいいのでしょうが、邪魔をすると後が怖そうですしね」
「夜中までかかるだろうなこれは。まあ、俺たちはこれで行く」
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