片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
60 / 882
ライオン傭兵団編

episode57

しおりを挟む
 ヴァルトは藁束の上に立ち上がり、片手を腰にあて、もう片方の手を前方に伸ばすと、人差し指を積まれた木箱にビシリと向けた。

「ありゃ、判っちゃった~?」

 ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。

(見られた!)

「バレバレだろーが、バカ者めが!!」

 ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。

 ザカリーは降参のポーズを取りながら二人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。

「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」

 興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーは息を呑む。

 キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。

(見られたなんて、こんな…)

 自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。

 同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。

 他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。それなのにヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。

 屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。

「すまん、ザカリーに気付かなかった」

 そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。

 ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。

「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」

 仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。

 ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。

「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」

「アタリマエダ!!」

 更にヴァルトはふんぞり返った。

「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」

 身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。

「あきらめろん!」

「へいへい」

 ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。

 歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。

(片方の翼が、いびつだったな…)

 話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを、見てしまったということだけは察しがついた。

 二人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...