片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode189

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 後に残されたキュッリッキは、ホッと胸をなでおろした。しかしその晩すぐに院長室に呼び出され、厳しい叱責と体罰を受けた。

「もしお前のせいでご寄付をいただけなかったら、明日から子供たちをどう食べさせてやったらいいのか、困るところだったよ!」

 鬼のような形相のクリスタは、黒い革の鞭でキュッリッキの身体中を打ち叩いた。打つ力に加減はなく、渾身の力を込めて振るい続けた。ビシッ、ビシッと室内に痛い音が鳴り響く。

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 身体を丸め、キュッリッキは痛みに耐えかねて泣きじゃくった。やめて欲しくて必死に謝る。叩かれるたびに、焼けるような信じられない痛みが襲い掛かった。しかし院長もそれを見るほかの修道女たちも、冷たくキュッリッキを見下ろすだけだ。

 裂けた傷口から血が滴り落ちるほど、散々鞭打たれていた。

 小さな身体が血の塊になるほど打って、クリスタはようやく落ち着きを取り戻した。足元には、ぐったりとしたキュッリッキが転がっている。

「さっさと起きるのです! この愚図っ」

 つま先で腹を蹴られて、キュッリッキは失いかけた意識を取り戻す。

 血まみれの弱った手足に必死に力を込めて、何度も倒れながら起き上がる。涙と血でぐじゃぐじゃになった顔をクリスタに向けると、まるで穢らわしいものでも見るような目で見返された。

「部屋へお戻りなさい、この欠陥品」

 最後に心に深い傷をつけられ、キュッリッキは手当を受けることなく、重い足を引きずり部屋に戻った。

 院長室を後にするとき「死んじゃえばいいのよ…」と囁きあう声が、露骨に背中に投げつけられた。容赦のない言葉の数々に、キュッリッキの心はますます傷ついた。

 薄暗い部屋に戻ると、キュッリッキは毛布の上に倒れた。

 夜気の冷たさに小さな身体は冷え切り、傷口もじくじく痛んで、あとから涙がぽろぽろ頬をつたった。

 傷が痛んで悲しいのか、修道女たちの仕打ちが悲しいのか、自らの境遇が悲しいのか。あまりにも悲しいことばかりで見当もつかない。

 暫くすると、突如室内に柔らかな光が満ちて、そこに1人の老人が姿を現した。

「なんと、惨いことをする…」

 老人はその場に座ると、キュッリッキの小さな身体を膝の上に抱き上げた。

 傷ついた身体にそっと手をあてると、柔らかな白い光が、小さな身体を包み込む。

「…あったかいの」

 キュッリッキは小さく目を開けると、顔を上げて老人を見上げた。

「ティワズさま…」

 老人は優しく微笑むと、キュッリッキの頭を優しく撫でた。

「もう、いたくないの。ありがとう」

 キュッリッキがそう言うと、老人は小さく頷き、キュッリッキを毛布の上にそっと戻した。

 傷だらけで血まみれだった小さな身体は、どこにも傷跡がなく、切り裂かれた粗末な服も元通りだった。

 やがて老人は空気にかき消えるように、姿を消していた。

 しばらくの間キュッリッキは動かず、じっと横たわっていた。

 身体の傷は癒えていたが、心の傷は少しも癒えていない。小さな心は無惨なほどに傷だらけなのだ。

 動かないキュッリッキの鼻を、仔犬がペロリと舐めた。

「くすぐったいの」

 こそばゆくって、キュッリッキはクスクスと笑った。

 仔犬はもう一度キュッリッキの鼻を舐めたあと、胸のそばで丸くなった。

 寄り添ってくれる仔犬のぬくもりだけが、キュッリッキの心に優しかった。

「ありがとう…フェンリル」
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