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記憶の残滓編
episode226
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だからといって、勝手に覗き見していい理由にはならない。そんなことはベルトルド自身百も承知の上だ。それでも、キュッリッキの心を救うため、止めるつもりはない。
「リッキーを傭兵にするように仕向けたのは、そこのフェンリルだ」
ベルトルドは顎でフェンリルを指す。
ソファの上に置かれた、青い天鵞絨張りのクッションの上に寝そべり、水色の瞳をキュッリッキに向けている。透明で宝石のような瞳からは、なんの感情も伺えなかった。
「リッキーが一人でも生きていけるように」
傭兵は誰でもなれる職業の一つだ。
肩書きを持てるようになるには、傭兵ギルドの承認が必要になる。ギルドに登録し、承認されて初めて傭兵を名乗れるのだ。
そのための段取りに必要なものを、キュッリッキは何一つ持たなかった。だから、実力を示し続けることで、傭兵ギルドに認めさせたのだ。異例の方法で承認された傭兵は数多くいるが、キュッリッキの取った行動は、あまり例がないと言われている。
「傭兵ギルドに認められない者が、傭兵を名乗ることはできない。名乗ったところで犯罪者と同等とみなされ、傭兵ギルドの執行人に殺されるのがオチだ。幼い子供がギルドに認められるのは、大変な努力と苦労があっただろう」
「ええ、そうでしょうね。でも、何故そんな危険な世界へと導いたのです、フェンリルは」
「流石にそれは俺にも判らんが、出自が問われないことがひとつ、獣の本性…いや、本能かな? みたいなものがあったんじゃないかな」
「獣の?」
「動物たちの世界はシンプルだ。生きるために獲物を狩る。狩るための方法を学ぶ。人間の世界では食べ物を得るための方法として、金銭を払う。そのための金銭は働いて稼ぐ。窃盗を教えなかっただけ、はるかにマシだがな」
ベルトルドは苦笑をにじませ、瞬きもしないフェンリルを見た。
「どこかの施設に預けず、フェンリルが面倒を見ながら傭兵としての道を歩ませていたのだから、あまり外れた想像ではなかろう」
アイオン族の修道院で、キュッリッキが受けていた過酷な仕打ちを思えば、フェンリルが人間を信用できないでいたのも仕方のないことだ。そして、キュッリッキが言うように、フェンリルが神であれば、人間のようには考えないだろうとベルトルドは思った。
人間と神は違うものだ。同じ状況でも、全く違う考えや行動に出てもおかしくはない。異なる存在の考えなど、人間には及びもしない。感覚だって違うだろう。
だから、フェンリルの胸中をいくら想像しても、詮無いことだとベルトルドは納得していた。
「ベルトルド様」
「ん?」
「毎日こういう状況が続くなら、寝不足で身体への負担も増大するでしょう。仕事量も増えていますし、ご自分の部屋でおやすみになったほうがいいのでは」
真面目な表情で言うアルカネットの顔を、ベルトルドはジーッと見つめ、思いっきり顔をしかめた。
「イ・ヤ・ダっ」
「ちっ」
「何が”ちっ”だっ! たわけ!!」
ガルルルッと噛み付きそうな顔で睨んでくるベルトルドを、アルカネットは寝たふりでスルーした。
「リッキーを傭兵にするように仕向けたのは、そこのフェンリルだ」
ベルトルドは顎でフェンリルを指す。
ソファの上に置かれた、青い天鵞絨張りのクッションの上に寝そべり、水色の瞳をキュッリッキに向けている。透明で宝石のような瞳からは、なんの感情も伺えなかった。
「リッキーが一人でも生きていけるように」
傭兵は誰でもなれる職業の一つだ。
肩書きを持てるようになるには、傭兵ギルドの承認が必要になる。ギルドに登録し、承認されて初めて傭兵を名乗れるのだ。
そのための段取りに必要なものを、キュッリッキは何一つ持たなかった。だから、実力を示し続けることで、傭兵ギルドに認めさせたのだ。異例の方法で承認された傭兵は数多くいるが、キュッリッキの取った行動は、あまり例がないと言われている。
「傭兵ギルドに認められない者が、傭兵を名乗ることはできない。名乗ったところで犯罪者と同等とみなされ、傭兵ギルドの執行人に殺されるのがオチだ。幼い子供がギルドに認められるのは、大変な努力と苦労があっただろう」
「ええ、そうでしょうね。でも、何故そんな危険な世界へと導いたのです、フェンリルは」
「流石にそれは俺にも判らんが、出自が問われないことがひとつ、獣の本性…いや、本能かな? みたいなものがあったんじゃないかな」
「獣の?」
「動物たちの世界はシンプルだ。生きるために獲物を狩る。狩るための方法を学ぶ。人間の世界では食べ物を得るための方法として、金銭を払う。そのための金銭は働いて稼ぐ。窃盗を教えなかっただけ、はるかにマシだがな」
ベルトルドは苦笑をにじませ、瞬きもしないフェンリルを見た。
「どこかの施設に預けず、フェンリルが面倒を見ながら傭兵としての道を歩ませていたのだから、あまり外れた想像ではなかろう」
アイオン族の修道院で、キュッリッキが受けていた過酷な仕打ちを思えば、フェンリルが人間を信用できないでいたのも仕方のないことだ。そして、キュッリッキが言うように、フェンリルが神であれば、人間のようには考えないだろうとベルトルドは思った。
人間と神は違うものだ。同じ状況でも、全く違う考えや行動に出てもおかしくはない。異なる存在の考えなど、人間には及びもしない。感覚だって違うだろう。
だから、フェンリルの胸中をいくら想像しても、詮無いことだとベルトルドは納得していた。
「ベルトルド様」
「ん?」
「毎日こういう状況が続くなら、寝不足で身体への負担も増大するでしょう。仕事量も増えていますし、ご自分の部屋でおやすみになったほうがいいのでは」
真面目な表情で言うアルカネットの顔を、ベルトルドはジーッと見つめ、思いっきり顔をしかめた。
「イ・ヤ・ダっ」
「ちっ」
「何が”ちっ”だっ! たわけ!!」
ガルルルッと噛み付きそうな顔で睨んでくるベルトルドを、アルカネットは寝たふりでスルーした。
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