冥恋アプリ

真霜ナオ

文字の大きさ
7 / 34

05:オカルトコミュニティ

しおりを挟む

 友達招待用のアドレスを送信すると、柚梨はすぐにアプリをダウンロードして、登録をしてくれた。
 審査が終わるのを待つ間、飲み干してしまったコーヒーのおかわりを頼む。
 本当は全て自分の杞憂きゆうで、幸司のことは不運な事故だったのかもしれない。
 そう思えたら良かったのだが、俺の脳裏にこびりついた昨晩の光景は、やはりどうしたって普通だとは思えないものだった。

「あ、登録承認されたみたい。もう使えるみたいだよ」

「ちょっと、スマホ借りていいか?」

「うん」

 早速スマホを借りて幸司の名前を検索してみると、同名の別人のプロフィールが大量に出てくる。
 その中から年齢や住所などの条件を絞り、人数を減らしていくと、幸司らしきプロフィール写真が目に留まった。
 それは間違いなく、あの日幸司に頼まれて俺が撮った写真だ。

「……これだ」

 柚梨も対面からスマホを覗き込んできた。
 ページを開いてみると、幸司のログイン履歴は三日前で止まっている。警察から聞いた話では、幸司の死亡推定時刻は数日前だとされていた。
 幸司のスマホではないので、誰とどのようなやり取りをしていたのかはわからない。
 けれど、俺はプロフィール内にあるアイコンに気がついた。

 このアプリでは、異性を探す以外にもコミュニティに所属することができる仕様になっていた。
 コミュニティの種類は多種多様で、一人五つまで登録できるようになっている。
 サッカーが好きならサッカー好きのコミュニティに、カフェ巡りが趣味ならカフェ巡りのコミュニティに所属をするようだ。
 幸司が登録していたのは、『旅行』『漫画』そして『オカルト』だった。

「幸司くんって、そういえばよく都市伝説の話とかしてたよね」

「ああ……心霊スポットの話とか詳しかったな。高校の頃、夜の校舎に忍び込んで肝試しとかさせられたよ」

「え、そんなことしてたの?」

「見回りに見つかってスゲー怒られたけどな」

 その当時の様子を思い出して、少しだけ笑みがこぼれる。
 お調子者で、何にでも興味を示す幸司に、俺はいつも振り回されていた。けれど、それが楽しくもあったのだ。
 その幸司があんな死に方をするなんて、当時は思いもしなかった。今でもまだ、ひょっこりと姿を現すのではないかとすら感じるほどに。

「ありがとうな、柚梨。あとは俺の方で調べてみるよ」

「うん……でも、危ないことはしないでよね」

 心配そうな柚梨を安心させるように、俺はできる限りの笑顔を作ってみせた。
 幸司が誰とやり取りをしていたのかまではわからないが、少なくとも所属していたコミュニティは判明した。そこから何か情報が得られるかもしれない。
 不審死事件についても、何か情報が得られるとすれば、オカルトコミュニティではないだろうかと考えていた。

(オカルトなんて、信じちゃいないけど……)

 信じてはいないが、真実は確かめたい。柚梨と別れて帰宅をした俺は、早速自身のアカウントでオカルトコミュニティに登録をしてみた。
 基本的には出会いを目的としているアプリだということもあってか、オカルトコミュニティに登録をしているメンバーは、他と比べてもあまり多くはないようだ。

 コミュニティの中には、自由に使える掲示板のようなものがあって、メンバーであれば自由に書き込みをすることができる。
 そこでは、好きな都市伝説に関する話や、嘘か本当かもわからないような恐怖の実体験を書き込む者もいた。

「……どう書いたらいい……?」

 幸司という人間を知っているか、直球で聞く書き込みをすることもできる。
 けれど、個人的なやり取りについて、果たして正直に答えてくれる人物が現れるだろうか?
 仮にもここはオカルトコミュニティだ。幸司について聞くよりも、オカルトな話題の方が飛びつく人間は多いのではないかと感じられた。
 どんな些細なことでもいいから、今はとにかく情報が欲しい。

『アプリ利用者の連続不審死事件について、何か情報を知る人はいませんか?』

 こんな書き込みをしたところで、情報を得られるとは限らない。それでも、他に頼れる場所がないのだから仕方がない。
 他に書き込みがあっても通知は来ないので、俺は何度か掲示板を覗きながら時間を過ごした。

 テレビをつけると、またもアプリ利用者の不審死が発覚したと報道されている。
 建物にはモザイクがかけられているが、それは幸司の住むアパートだった。
 もっと早くに異変に気づくことができていたのなら、幸司を救うこともできたのだろうか?

 そんなことを考えていると食欲も湧かず、夕食を抜いて簡単にシャワーを浴びた。
 ドライヤーもそこそこに部屋に戻ってスマホを手に取る。そして、あの掲示板を覗いてみると、一件の返信がついているのが目に入る。

「……!」

 書き込みをしていたのは、アオイという名の女性だ。
 慌てて書き込みを見てみると、書き込まれていた返信はとても簡潔なものだった。

『なぜ知りたいの?』

 親切なようにも見えるが、どこか敵意があるようにも見える。
 オカルトコミュニティでは、オカルト話に関しては好意的に食いついてくる書き込みが多いように見られた。
 けれど、彼女の問い掛けの真意は読めない。

 少し悩んだあとに、俺は素直に事実を話すことにした。
 単なる好奇心から事件について探っているわけではないのだと、知ってもらう必要があると感じたからだ。

『親友が亡くなりました。もしかしたら、事件に関係しているかもしれません』

 すると、その書き込みから数分経って一通の通知が届く。
 掲示板からの通知は来ない仕組みなので、どうやらアプリのマッチング機能のようだ。一人の女性からイイネがつけられていた。

 名前を見ると、そこには『アオイ』と書かれていた。恐らくあの掲示板に返信してくれた女性だろう。
 プロフィールを覗いてみると、名前以外の情報が何も記載されておらず、顔写真すらも掲載されていない。
 迷いはしたが、何の手がかりもない現状では彼女に頼らざるを得ない。
 イイネを返すと、解放されたチャット欄に彼女からメッセージが入る。

『実際に会って話したい。時間の取れる日を教えて』

 こちらもやはり簡潔な文章だった。
 情報を得られるなら、少しでも早い方がいい。彼女の予定に合わせるむねを伝えると、二日後の夕方に指定された。
 どこに住んでいるかもわからないと思っていたが、アプリに登録した際に自分の居住地を登録していたことを思い出した。
 どうやら彼女も近くに住んでいるようで、都合がいいからと池袋のカフェを指定された。

「柚梨にも、報告した方がいいかな……」

 自分のことを心配してくれていた彼女の顔が思い浮かぶ。それに、どことなく罪悪感を覚えていた。
 決してやましいことがあるわけでも、男女の出会いを目的として顔を合わせるわけでもないのだ。
 ましてや相手は、どのような人間かもわからない。欲しい情報が得られるとも限らないし、不要な心配や期待をさせる必要もないだろう。
 これで情報を得られなければ、また振り出しに戻ってしまうのだ。それだけは何としてでも避けたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...