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25:新たな決意
しおりを挟む身体を休めるためにホテルに泊まることとなった俺たちだが、部屋割りは男女で分かれるものだとばかり思っていた。
というか、誰が考えてもそれが自然な部屋割りだろう。
だというのに、葵衣はどういうわけだか男女ペアでの宿泊を提案してきたのだ。
自宅に柚梨を泊めたこともあるので、二人きりになるのはこれが初めてのことではない。
だが、やむを得ず自宅に泊めるのと、ホテルで二人きりの宿泊というのは話が別ではないだろうか?
さすがに柚梨も動揺しているのがわかる。彼女だって、間違いなく葵衣と同室になるつもりだったのだろう。
「何でそうなるんだよ? 普通に男と女で分かれればいいだろ?」
「何よ。もしかして樹、やましい気持ちでもあるの?」
「やっ、やましい気持ちとかそういうことじゃなくてだな……!」
仮にも好きな相手と同じ部屋で眠ることになるのだ。下心が無いといえば嘘になるだろうし、男ならば仕方がないことだろう。
だが、今の論点はそこではない。俺は葵衣のペースに呑まれないよう、丈介に助けを求めることにする。
「丈介さんだっておかしいと思いますよね!?」
「ああ……まあな。オレはどっちでもいいけどよ」
「丈介さん!!」
確かに、丈介としては同室の相手が俺だろうと葵衣だろうと、必死になって抗議するほどの違いはないのだろう。
だが、俺としてはハイそうですかと頷くわけにはいかない。
「……何かあった時に対応しやすいって言ったのはアンタでしょ」
「言ったけど、だからって何でそういう部屋割りになるんだよ?」
どうしてだか理由を言おうとしない葵衣の様子は、何だか不自然だ。
それを聞くまでは従わないという意思表示をすると、暫くして観念したのか、葵衣は自身のスマホを取り出した。
そこに表示されている画像を見て、この場の全員が驚いたことだろう。
「葵衣ちゃん……どうして……!?」
画面の大半は、真っ赤な色で埋め尽くされていた。
そして、そこに書かれている文字は読むまでもない。
『最良の縁が結ばれたし』
俺たちが状況を問うよりも先に、葵衣の胸倉を掴んだのは丈介だった。
その勢いに思わず止めに入るべきかと思ったのだが、その丈介の表情があまりにも悲愴な色を帯びていて、動くことができない。
「オメェ……何でこんなモン引いてやがる!?」
「痛ったいなあ。女の子相手に、もう少し優しくできないわけ?」
「話逸らしてんじゃねえ!!」
丈介がこんなにも感情を表に出している姿は、初めて見た。
短い付き合いではあるが、丈介は元々あまりこんな風に感情を爆発させるような人物ではないのではないだろうか?
そんな丈介が声を荒げるほどに、動揺しているということなのだ。
「……少しでも、ヒントを得るためだよ」
「あァ!?」
葵衣自身も、良くないことをしたのだという自覚はあるのだろう。
バツが悪そうに視線を泳がせてから、辛うじて聞こえる程度の声量を絞り出す。
「赤い紙を引いたのは、アタシたちの中じゃ柚梨ちゃんだけ。外から見てわからないことだらけでも、同じ状況になればわかることもあるんじゃないかって思ったの」
「だからって、何でこんな危険な真似……!」
「他に方法が浮かばなかったんだからしょうがないじゃん!」
語気を強めた葵衣が、丈介の腕を振り払う。
その手が震えているのが見えて、彼女も冗談半分でこんなことをしたわけではないとわかる。
「このままじゃ、柚梨ちゃんまで死んじゃう。アタシたちはもう手段なんか選んでらんないでしょ? だから、賭けてみたの。そしたらこの紙を引き当てた」
占いをしたからといって、あの赤い紙を引くことができるとは限らない。
全員が占いであの紙を引き当てているとすれば、不審死事件の報告件数はきっと、数えきれないほどに上がってきているはずだ。
だからこそ、無謀だとはいえ葵衣が赤い紙を引き当てたことは、何か意味があるのかもしれない。
「クソッ……!」
丈介は傷がつくのにも構わず、車の扉を拳で殴りつける。
そうしてやり場のない感情を発散させているのだろう。
自分の妹も同然のような、大切な相手が自らを危険に晒そうとしているのだ。その気持ちは痛いほどわかる。
「そういうわけだから、赤い紙を引いた者同士で同室ってわけにもいかないでしょ? そんなの怪異の思うつぼだもんね。だから、何かあっても対応できるように、男女ペアにしようってワケ」
葵衣はもう、覚悟を決めているのだろう。
というよりも、赤い紙を引いた時点で、解決策を見つけない限り逃げようもないのだ。
彼女の言う通り、怪異に狙われるであろう二人を同室にするというのは、確かに危険が大きいように思う。
それ以上反対する理由も無くなってしまい、俺たちは葵衣の言う通りの部屋割りで一夜を明かすことにした。
急遽の宿泊ではあったが、ネットで検索した近場のホテルを、ツインで二部屋確保することができたらしい。
クレジットカードも現金の持ち合わせも無い俺たちは、結局丈介に頼ることになってしまう。
後できちんと返済しようとは思いつつ、今は丈介が一緒にいてくれることが心強かった。
到着したのは、いたって普通のビジネスホテルだ。
開業してからそれなりの年数は経っているようだが、室内は清潔感があって問題無く過ごすことができそうだと感じた。
明日どのように動くかなど、作戦会議のために俺たちは一部屋に集まって話をする。
思いつく方法は限られていたが、とにかくできることは全部試してみようと思った。
「……と、こんな時間か。そろそろ寝ないとだな」
「出発は朝一番な。寝坊した奴は置いてくからちゃんと起きろよ」
話し込んでいるうちに、時間はあっという間に経過していく。
俺たちは解散すると、自分たちの宿泊する部屋へと戻っていった。
「……何か、修学旅行みたいでちょっとワクワクするね」
「ホテルなんてあんま泊まる機会無いもんな。つっても、夜更かし厳禁だぞ。少しでも休んで体力温存しとかないと」
「わかってまーす」
柚梨と俺の順番でシャワーを済ませると、ベッドに横になった柚梨がそんなことを言い出す。
命が懸かっている状況だというのに、呑気な発言だと思った。けれど、彼女なりに恐怖心から気を逸らそうとしているのかもしれない。
一緒の部屋で眠るのは緊張すると思っていたが、考えてみれば先日は同じ布団で眠った仲なのだ。
それに比べれば、今日は別々のベッドである上に、互いの間にはスペースもある。むしろ気持ちは落ち着いているように感じられた。
「けど、葵衣ちゃんまで赤い紙を引いてたなんて……全然気がつかなかった」
「確かにな。丈介さんもスゲー怒ってたし、あんな無茶する奴だったとは……」
「葵衣ちゃんのところにも、あの怪異が現れたりしてたのかな?」
「どうだろう……けど、現れててもおかしくはないだろうな」
口が達者で俺のことをからかうことも多い葵衣だが、何かあった時に泣いて縋るような少女には見えない。
もしも恐ろしい体験をしていたとしても、それを俺たちに話すようなことはしない気がしていた。
柚梨を守るということで必死だったけれど、同じように葵衣も守ってやらなければと思う。
深い繋がりのあるような関係ではないけれど、俺たちはもうまったくの他人ではないのだ。大切な友人だといっても、過言ではない。
「柚梨も……葵衣も、俺と丈介さんで絶対に守るよ」
「ありがとう。……私も、ただ守られるだけじゃない。葵衣ちゃんのためにも、樹たちと一緒に、絶対に助かる方法を見つけてみせる」
一度は俺たちを突き放そうとした柚梨の前向きな言葉に、俺は自然と笑みがこぼれる。
怖がりな面もあるが、彼女は芯が強い。こうと決めたら、絶対にやり遂げるのだ。
(俺は、そういう柚梨が好きなんだよな)
これまではずっと誤魔化し続けてきた感情だというのに。
こんな状況になってから、俺の中にある彼女に対する想いが、膨らんでいっているのを感じていた。
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