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41 エステバン 予測不能
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「ニルス……あなたは一体何と話ているのですか?」
寝巻のニルスが窓の外に話かけています。
窓の外に居るのは……炎のように揺らめく影しかいません。
は! 今はそんな事を気にしている場合ではありませんね!
「窓から離れてください! ロビー! ロビー起きてください!」
急いでニルスを抱きしめて窓から離れます。
「あ痛! ちょっとお姉ちゃんどうしたの?」
ニルスはこの影を知っているのでしょうが、まさかエステバンがこのような得体のしれない物だとは思いもしませんでした。
ベッドの反対側へ行き、ニルスを手で押さえて伏せさせます。
「ロビー! どうしたのですかロビー!」
ベッドで寝ているロビーを揺さぶりますが、目覚める気配がありません。
どういう事でしょうか、こんな事は今までありませんでした。
2人を抱えて逃げるのは無理です。
こうなったら仕方がありません、部屋の外にはマットが待機しているはずなので、マットを呼んで……?
「影が……消えた」
窓の外に居た影が居なくなりましたが、まだ油断はできません。
私はゆっくりと壁伝いに窓際へ行き、そっと窓の外を覗き込みます。
やはりいません。窓を開けて確認しますが、どこにも姿はありませんでした。
ここは6階、バルコニーもありません。
あの影は一体……。
「あれ? エステバン帰っちゃったの?」
ニルスも窓際に来ていました。
以前の話し方からすると、ニルスはエステバンと何度も会っているようです。
あの影、エステバンは敵でしょうか、それとも味方?
「エステバンは、いつもこんな時間に現れるのですか?」
「ううん、時間はバラバラだよ。朝早い時もあるし、お昼に来るときもあるよ」
「そう、ですか。エステバンは、一体誰なのでしょか」
「わかんない。でもいい人だよ」
いいひと。
何度も会っているとはいえ、人なのか魔物なのかも分からない存在に会っているというのは、少なくとも護衛の観点からいっても良くありません。
「今日はまたくると思いますか?」
「どーだろう。何日かに一回来るかどうかだし、来ないんじゃないかな」
「そうですか。ではニルス、今日はもう寝てください」
「はーい」
ベッドに戻って布団をかぶるニルス。
ロビーも目が覚めたようで、ニルスがいる事を確認すると目をつむりました。
先ほどのロビーは明らかに様子が変でした。
寝ている、というよりも気を失っている感じでした。
それにしても……アレは美術館に反対する勢力の者ではないのでしょうが、今回の護衛の一番の危険事項であることは間違いないでしょう。
まさか人以外の者からの護衛になるとは思いませんでした。
それに先見の明でも直前までビジョンが見えませんでした。
それが意味する事は、直前に未来が確定したという事であり、直前まではエステバンが出て来る未来は無かったという事です。
先見の明が通じない相手……未来を改変するような存在でない事を祈るばかりです。
翌朝、5人が揃った時に昨晩の事を話ました。
あんな状況でロビーが起きなかった事は皆信じられませんでしたが、エステバンが現れた事、その存在があまりに不可思議すぎる事が状況を複雑にしています。
「俺は昨晩、ニルスの窓の外も巡回したが、怪しい事は無かったぞ」
「そうですか……あれは一体何なのでしょうか」
「ニルス、エステバンってヤツはさ、一体どんな奴なんだ?」
ニルスに目が集まります。
しかしニルスの口からエステバンの事が語られることはありませんでした。
「ごめんフラン。寝続けるなんて思っても居なかったよ」
ロビーと2人で外の見回りをしている時、頭を下げてきました。
昨晩の事が気になっていたのでしょう。
「いえ、あれはエステバンの仕業でしょうから、現れる直前まで気付けなかった私の責任でもあります」
「いや、先見の明でも見えない相手なんだ、フランに責任はないよ」
これはいけませんね。お互いに自分を責めて切りが無くなるパターンです。
「それではお互い様、という事にしましょう」
「……うん、ありがとう」
かなり気にしていますね。
大きな背中が丸まって小さく見えます。
「ほらロビー、しっかりと背を伸ばしてください。めげている場合ではありませんよ?」
後ろから抱き付き、ロビーを持ち上げるようにして胸を張らせます。
「フ、フラン?」
「冒険者は常に胸を張っていてください。落ち込んだり自信を無くしている所を依頼主に見られたら、それだけで信頼を失ってしまいますよ? それに……」
「それに?」
「……ロビーのそんな顔は見たくありません」
「うん、分かった! こんな顔はフランには見せたく無いからね!」
カラ元気でも元気を出しましょう。
そうすれば前向きな考えも出来るという物です。
それに、早急にエステバン対策を練らねばなりません。
落ち込んでいる時間などありませんからね。
※ファンタジー小説大賞に参加しています! ぜひ投票をお願いします!
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窓の外に居るのは……炎のように揺らめく影しかいません。
は! 今はそんな事を気にしている場合ではありませんね!
「窓から離れてください! ロビー! ロビー起きてください!」
急いでニルスを抱きしめて窓から離れます。
「あ痛! ちょっとお姉ちゃんどうしたの?」
ニルスはこの影を知っているのでしょうが、まさかエステバンがこのような得体のしれない物だとは思いもしませんでした。
ベッドの反対側へ行き、ニルスを手で押さえて伏せさせます。
「ロビー! どうしたのですかロビー!」
ベッドで寝ているロビーを揺さぶりますが、目覚める気配がありません。
どういう事でしょうか、こんな事は今までありませんでした。
2人を抱えて逃げるのは無理です。
こうなったら仕方がありません、部屋の外にはマットが待機しているはずなので、マットを呼んで……?
「影が……消えた」
窓の外に居た影が居なくなりましたが、まだ油断はできません。
私はゆっくりと壁伝いに窓際へ行き、そっと窓の外を覗き込みます。
やはりいません。窓を開けて確認しますが、どこにも姿はありませんでした。
ここは6階、バルコニーもありません。
あの影は一体……。
「あれ? エステバン帰っちゃったの?」
ニルスも窓際に来ていました。
以前の話し方からすると、ニルスはエステバンと何度も会っているようです。
あの影、エステバンは敵でしょうか、それとも味方?
「エステバンは、いつもこんな時間に現れるのですか?」
「ううん、時間はバラバラだよ。朝早い時もあるし、お昼に来るときもあるよ」
「そう、ですか。エステバンは、一体誰なのでしょか」
「わかんない。でもいい人だよ」
いいひと。
何度も会っているとはいえ、人なのか魔物なのかも分からない存在に会っているというのは、少なくとも護衛の観点からいっても良くありません。
「今日はまたくると思いますか?」
「どーだろう。何日かに一回来るかどうかだし、来ないんじゃないかな」
「そうですか。ではニルス、今日はもう寝てください」
「はーい」
ベッドに戻って布団をかぶるニルス。
ロビーも目が覚めたようで、ニルスがいる事を確認すると目をつむりました。
先ほどのロビーは明らかに様子が変でした。
寝ている、というよりも気を失っている感じでした。
それにしても……アレは美術館に反対する勢力の者ではないのでしょうが、今回の護衛の一番の危険事項であることは間違いないでしょう。
まさか人以外の者からの護衛になるとは思いませんでした。
それに先見の明でも直前までビジョンが見えませんでした。
それが意味する事は、直前に未来が確定したという事であり、直前まではエステバンが出て来る未来は無かったという事です。
先見の明が通じない相手……未来を改変するような存在でない事を祈るばかりです。
翌朝、5人が揃った時に昨晩の事を話ました。
あんな状況でロビーが起きなかった事は皆信じられませんでしたが、エステバンが現れた事、その存在があまりに不可思議すぎる事が状況を複雑にしています。
「俺は昨晩、ニルスの窓の外も巡回したが、怪しい事は無かったぞ」
「そうですか……あれは一体何なのでしょうか」
「ニルス、エステバンってヤツはさ、一体どんな奴なんだ?」
ニルスに目が集まります。
しかしニルスの口からエステバンの事が語られることはありませんでした。
「ごめんフラン。寝続けるなんて思っても居なかったよ」
ロビーと2人で外の見回りをしている時、頭を下げてきました。
昨晩の事が気になっていたのでしょう。
「いえ、あれはエステバンの仕業でしょうから、現れる直前まで気付けなかった私の責任でもあります」
「いや、先見の明でも見えない相手なんだ、フランに責任はないよ」
これはいけませんね。お互いに自分を責めて切りが無くなるパターンです。
「それではお互い様、という事にしましょう」
「……うん、ありがとう」
かなり気にしていますね。
大きな背中が丸まって小さく見えます。
「ほらロビー、しっかりと背を伸ばしてください。めげている場合ではありませんよ?」
後ろから抱き付き、ロビーを持ち上げるようにして胸を張らせます。
「フ、フラン?」
「冒険者は常に胸を張っていてください。落ち込んだり自信を無くしている所を依頼主に見られたら、それだけで信頼を失ってしまいますよ? それに……」
「それに?」
「……ロビーのそんな顔は見たくありません」
「うん、分かった! こんな顔はフランには見せたく無いからね!」
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