【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる

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42 襲撃 前夜

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 ニルス王子からエステバンの話を聞いたのですが、どうにも的を得ません。
 なにぶんニルス本人もエステバンの事をよく知らないらしく、何者なのか、どういう存在なのか、全く分かりませんでした。

 困りましたね、突然現れたら対処のしようがありません。

 有効な手段を思いつかないまま数日が経過し、不意に先見の明せんけんのめいのビジョンが見えました。
 まさかエステバンが!? と焦りましたが、どうやら違うようですね。
 これは人? ニルスが場内を歩いている所を、すれ違うようにしてナイフを突き立てようとしています。
 ……ああ、これが美術館反対派の勢力ですか。
 エステバンに気を取られ過ぎてウッカリしていました。

 いまニルスの背後でわたくしとレッドが護衛していますが、まさに今廊下を歩いています。
 景色からしても近いようですね、レッドの鎧を軽くたたき、目で合図をします。
 レッドの警戒レベルが上がりました。
 剣に手をかけ、いつでも抜けるようになっています。
 わたくしも呪文の詠唱は完了し、いつでも発動できるようにしました。

 さあ、いつ来ても大丈夫です。
 と、正面からメイドが現れました。
 トレイを両手で持っていますが、片手はトレイを下から支えているため見えません。

 ナイフを隠し持つにはうってつけですね。

 しかもトレイには沢山食器が乗っているので、少しふら付いています。
 ふら付いたままニルスの方に体が移動し……ぶつかる直前でトレイを投げ捨てました。
 その手にはナイフが握られており、ニルスの胸へと突き出されます!

「死ね! 国賊の子供が!」

 物騒な事を口走りますね。
 国王に対して国賊もそうですが、その息子は巻き込まれただけなのに。

 ニルスの体が薄く光り、メイドのナイフは剣で弾かれました。
 レッドの剣がメイドのナイフを防ぎ、わたくしの魔法でニルスを保護しました。

 一瞬の出来事で理解の追いつかないメイドは、慌ててナイフを拾い直そうとしますがそうはさせません。
 ナイフを掴んだところでわたくしが足で手を踏みつけ、レッドはメイドの首を押さえて床に押し付けます。
 
「ニルス、少し離れてください。衛兵! この者を縛り上げてください!」

 やっと事態を理解した衛兵が駆け寄り、メイドを縄で縛り上げて行きます。
 メイドの後始末は衛兵に任せるとして、わたくし達はニルスの護衛を続けましょう。

「フランとレッドカッコよかった! もう一回やってもう一回!」

 ニルスの興奮が止まりません。
 目の前で起きた護衛劇が面白かったようですね。
 こちらは神経をすり減らしているのですが。

「ダメだ、あれは見世物じゃない。それにお前の命が狙われたんだぞ?」

「え~? だってみんなが守ってくれるんでしょ?」

「それは確かにそうだが、俺達は命がけでやっている。楽しむのは結構だが、そうそう起きてもらっても困るんだ」

「ぶー、レッドのケチ」

「け、ケチだと!? 俺のどこがケチだというんだ!」

 ふぅ、相変わらずレッドは子供みたいなところがありますね。
 なぜか子共にからかわれるとスグに感情が高ぶります。
 大人に言われても平気なのに。

「レッド、興奮すると注意力が弱くなりますよ。ニルスも、レッドをからかってはいけません」

「は~い」

「チッ」

 どっちが子供なのか分かりません。
 それにしてもエステバンにばかり気を取られていましたが、護衛の主目的はこちらでしたね。
 気を入れ直さねばなりません。

 ニルスを部屋まで連れて行くと、部屋の前にはマットがイスに座っていました。

「よっ、何も無かったか?」

「いや襲われた。メイド姿の暗殺者だったな」

「マジで!? 怪我は無かっただろーな?」

「傷一つ付いていないさ」
 
「マット、こちらは何かありましたか?」

「ぜーんぜん。暇すぎて困ってた」

「それは何よりです」

 部屋に入ると、そこにはケイがソファーに座っていました。

「ケイー、僕もおかし食べる~」

 はい、ソファーで優雅にお茶をしているケイを見て、ニルスも参加を表明しました。
 わたくし達も参加しましょう。

 その後、数回ほど反対派の襲撃がありましたが、どれも散発的で問題はありませんでした。
 人の命を脅してまで中止にさせたいとは、美術館には一体どんな歴史が展示されるのでしょうか。

 そしていよいよ美術館の開館を明日に控え、わたくし達は気を引き締めて護衛に当たります。
 夕食をいただきニルスの部屋に戻ると、そこには炎が揺らめくような黒い人影が待っていました。



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