【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる

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43 意思の疎通 護衛

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「エステバン!?」

 ニルスの部屋に入ると、どこから入ってきたのか炎のように揺らめく人影・エステバンが居ました。
 わたくし達は武器を構えますが、ニルスがエステバンに近づこうとしたので慌てて引き留めます。

「わ。どうしたのみんな。エステバンは何もしないよ?」

 そう言われても『はいそうですか』と信じる事は出来ません。
 なにせ相手は人ですら無いのですから。
 
「ニルスはわたくし達の後ろに隠れてください」

 手で後ろに追いやりましたが、手の隙間から必死に顔を出してきます。
 危ないから止めて欲しいのですが……。

「ほらエステバンも言ってるよ? 警戒しなくて良いって」

 何を……言っているのですか? エステバンが言っている? 先ほどからずっと動くことなく揺らめいているだけなのですが。
 いえその前に、ニルスはエステバンと会話が出来るのですか?
 そういえば以前、エステバンに怒られたとか言っていたような気がしますが。

「え? うん、うんそう、分かった」

 ニルスが勝手にうなずいて勝手に納得しています。
 今も会話をしているのでしょうか。

「エステバンが話をしたいんだって。僕がエステバンの言葉を伝えるから、聞いてあげて」

 話と言われましても、一体何を話すのでしょうか。
 得体のしれない存在と。
 しかも今回は全く先見の明せんけんのめいが効きませんでした。
 本当に突然、扉をあけた瞬間にエステバンの存在が確定したとしか考えられません。
 恐らくわたくしが一番エステバンに対して恐怖心を持っているでしょうね。

「話っつってもなぁ、そもそもエステバンって何なんだって話だよな」

「そうよね~、フランから話は聞いてたけど、今あったばっかりだし~」

「僕もそう思うけど、こんなに神出鬼没なら、危害を加えるつもりならとっくにやってるんじゃないかな」

 ロビーの言う通りです。ですが……だからこそ恐ろしいのです。
 まさか先見の明のお陰で、余計に恐怖を感じるとは思いもしませんでした。

「良いだろう。正直戦っても勝てるかどうか分からない相手だからな」

「流石だねおじさん!」

「おじさんじゃない! お兄さんだ! それと、俺達は武器を持ったままだ、それでも良いか?」

「……良いみたいだよ」




 ニルスをケイが抱えてソファーに座り、わたくし達はその周囲を取り囲みます。
 正面のソファーにはエステバンが座りました。
 実体がないと思っていましたが、どうやら実体があり、更には人の体と同じような形をしているようです。

「えーっと、今回の護衛のこと、とても感謝している、だって」

「護衛だと? 美術館の開館までの間の事か?」

「そうだよ」

「なぜエステバンが感謝するのだ?」

「だって、え?……えーっと、私はニルスの守護霊の様なものだ、だって」

 ニルスが何かを言おうとして、それを遮ってエステバンが口を開いたのでしょうか。
 それとも誤解を恐れて自分の存在を濁したのでしょうか。
 どちらにしても、ニルスの意見とは大きく離れていないようです。

「じゃあ期間限定って違いはあっても、俺達と同じって―ことか?」

「そうだ、だって」

 エステバンは口や体を動かす様子はありませんが、どうしてニルスは言葉が分かるのでしょうか。
 テレパシーの様なものでしょうか。

「えーっと、お前達は祝典の間、ニルスの直接の護衛を頼む。私は会場全体の警戒をする、だって」

「会場全体と言いますと、かなりの数の刺客が現れる可能性がある、という事でしょうか」

「えーっとね……え? なにそれ?」

「ニルス~?」

「あごめん。えっとね、会場自体が破壊されるかもしれない、だって」

「会場自体だって? まさか美術館ごと破壊するかもしれないって事?」

「えーっと、会場だけじゃなくって、参列者全員を……ええ!? お父さんもなの!?」

 どうやらエステバンが言うには、美術館もろとも参列者を亡き者にしようとしているようです。
 どのような手段を使うのかは分かりませんが、そんな事を聞かされてニルスの直衛だけをしていられるはずがありません。

「どうやらわたくし達も、会場全体を警戒しなくてはいけないようですね」

「とんでもねー話になっちまってるぞ、おい」

「まさかそこまで規模が大きくなるとは思っていなかったよ」

「折角の祝典なのにね~」

「チッ、今からでも会場の調査をしないといけないか」

 エステバンの言葉をうのみにするわけではありませんが、会場が破壊されてはニルスの護衛どころか、参列者全てが危険にさらされます。
 その危険性は考えていませんでしたので、エステバンの忠告はありがたく聞くことにしましょう。

 エステバンの姿が消えてしまいました。
 どうやら伝えたい事は伝えきったようですね。

「何なのでしょうか、エステバンとは」

「知らん。だが会場の警戒は確かに必要だ。明日は直衛2名、会場の警戒3名でやる。今日は交代で会場の調査だ、いいな!」

「はい!」

 全員考える事は同じです。
 急いで会場の調査を行わなくてはいけません。




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