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第七十六話
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「ケーキはダメですが、私と料理長が共同で作ったクッキーがありますので、そちらをお召し上がりください」
「え? く、クッキー? いつの間に?」
私は少し立ち位置をズレると、背後には小さなカゴを持つ料理長が立っていました。
「リーフお嬢様、この時期に生ものを食すのはおやめください。このクッキーでしたら私が立会いのもと作られましたので、こちらをお召し上がりください」
ええ、ケーキをお出しするのはダメなのですが、それでお菓子が無くなっては元も子もありません。
なのでケーキ作りの合間にクッキーを作っていました。
料理長がカゴをテーブルに置き、小皿に分けてリーフ様の前に置きます。
果物を細かく刻み、練り込んだクッキーですね。
「ど、どうして? なんでクッキーがあるの??」
「ケーキを作っている時の空き時間を利用して作りました」
「この新人メイドは凄いですねリーフお嬢様。ケーキを作ってクッキーを焼いて、しかも昼食の手伝いまでしてくれましたよ」
料理長に言われてはリーフ様も頭から否定は出来なかったのでしょう、「そう」とだけ言ってクッキーを一つ召し上がりました。
「おいしい……」
「り、リーフお嬢様⁉ ほ、ほらケーキもありますよ?」
「いらないわ。スパシオが食べていいわよ」
「え、ええっと、はい、いただきます……」
と、なんとスパシオさんはリーフ様がいる前でケーキを一口食べてしまいました。
主の前、しかも王族と食卓を共にするなどあってはなりません。
きっと混乱していたのでしょうね。
「……スパシオ? 一体何のつもり?」
「え? ケーキを……はっ! も、申し訳ありません! 私は何と恐れ多い事を!!」
後ろに跳ねるように飛びのいて頭を下げます。
これはいけません、確かスパシオさんの家は男爵家、このままでは家にまで影響が出てしまいます。
「リーフ様、申し訳ございません。スパシオは私と共にケーキを作りましたので、きっと失敗に気づき、間違えてリーフ様が口にする事が無いように処分したかったのだと思います」
私はそっとケーキが乗った皿をテーブルからどかし、料理長に渡します。
料理長は皿を持ってバルコニーから去っていきました。
「まあいいわ。スパシオ、今回の事は特別に許します。ただし二回目はないわよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
その後スパシオさんは終始しゃべる事なく、リーフ様は一人でお茶を楽しみました。
私が話かけても不機嫌そうに返してくるだけでしたし。
翌日になり、私はいつものようにリーフ様の一日の予定を確認していると、スパシオさんの姿が見当たりません。
「あの、スパシオさんはお休みですか?」
「ああ、あの子ね、本人の意向で別の部署に移ったわよ」
「別の部署? 一体何が……」
そこまで言って口を閉ざします。
一体何が? 昨日の事に決まっているじゃない。
リーフ様はお許しになられた、だけど自身が主の信頼を裏切ったとなれば、それはメイド自身が進退を決めなくてはいけません。
……まぁ私が以前仕えていた元男爵家では、信頼なんてありませんでしたけど。
しかし居ないのなら仕方がありません。
私はリーフ様の予定を今まで通りに確認するだけです。
ふと、私は他の部署が目に入りました。
よく見るとおどおどしたメイド、明らかに仕事を割り振られていないメイド、よく分からない理由で叱られているメイドがいます。
これは一体? ああ、そういう事ですか、私が昨日感じた懐かしい感覚はこれだったんですね。
私がポルテ元男爵家で無理難題を言われ、食事もまともに与えられず、寝る時間を削って働いていました。
どこにでもあるんですね、イジメは。
少し仕事に慣れたので周囲が見えてきましたが、スパシオさんが私をイジメていた理由は何でしょうか。
王宮のメイドは貴族令嬢が多いので、メイド間には役職以外にも上下関係がありそうです。
まずはメイドとしての本分をしっかりこなして欲しいものです。
私はもう一人のメイドとリーフ様の自室へ向かい、着替えのお手伝いをします。
そういえば私がリーフ様付きになってから、あまりリーフ様から文句を言われていませんね。
昨日もスパシオさんの言葉を信じていましたが、私を罵倒する事はありませんでした。
どんな心変わりかと思いましたが、リーフ様の着替えをお手伝いしていて理解出来ました。
今はあの頃のリーフ様ではない、もう大人なのだと。
あの頃から情報が更新されていないのは私の方だったかもしれない。
じっくりとリーフ様を観察し、私の中のリーフ様を書き換えていきます。
「シルビア」
「はい。なんでしょうか」
リーフ様の自室で夜の紅茶を淹れていると、珍しくリーフ様から声をかけてくださいました。
「最近のアナタ、随分と私を見ている様だけど?」
「はい。今のリーフ様をしっかり見ておこうと思いました」
少し怪訝そうな顔をして私を見ます。
「なにそれ。たった一年会わなかっただけで趣味が悪くなったわね」
「一年前、私がプレアデス教国へ行く前にお会いしましたが、会話をしておりません。なので私の中にはさらに前のリーフ様しかいないのです」
「ふぅん」
「私はあの時のリーフ様を想像して、リーフ様付きのメイドを命じられた時はとても苦労しそうだと考えました」
「実際に苦労してるんじゃない? スパシオには変な事されてたんでしょ?」
「あれはスパシオさんの独断です。リーフ様ではありません」
「どこでもいっしょよ」
「その通りだと思います。たとえ他の御方のメイドになったところで、同じ事が発生するでしょう」
「ふっふふふ、じゃあやめる?」
「いえ、陛下がどうして私を王宮で働かせようとしたのか、試験はどういう意味があったのか、その理由がわかりました」
「……理由?」
「え? く、クッキー? いつの間に?」
私は少し立ち位置をズレると、背後には小さなカゴを持つ料理長が立っていました。
「リーフお嬢様、この時期に生ものを食すのはおやめください。このクッキーでしたら私が立会いのもと作られましたので、こちらをお召し上がりください」
ええ、ケーキをお出しするのはダメなのですが、それでお菓子が無くなっては元も子もありません。
なのでケーキ作りの合間にクッキーを作っていました。
料理長がカゴをテーブルに置き、小皿に分けてリーフ様の前に置きます。
果物を細かく刻み、練り込んだクッキーですね。
「ど、どうして? なんでクッキーがあるの??」
「ケーキを作っている時の空き時間を利用して作りました」
「この新人メイドは凄いですねリーフお嬢様。ケーキを作ってクッキーを焼いて、しかも昼食の手伝いまでしてくれましたよ」
料理長に言われてはリーフ様も頭から否定は出来なかったのでしょう、「そう」とだけ言ってクッキーを一つ召し上がりました。
「おいしい……」
「り、リーフお嬢様⁉ ほ、ほらケーキもありますよ?」
「いらないわ。スパシオが食べていいわよ」
「え、ええっと、はい、いただきます……」
と、なんとスパシオさんはリーフ様がいる前でケーキを一口食べてしまいました。
主の前、しかも王族と食卓を共にするなどあってはなりません。
きっと混乱していたのでしょうね。
「……スパシオ? 一体何のつもり?」
「え? ケーキを……はっ! も、申し訳ありません! 私は何と恐れ多い事を!!」
後ろに跳ねるように飛びのいて頭を下げます。
これはいけません、確かスパシオさんの家は男爵家、このままでは家にまで影響が出てしまいます。
「リーフ様、申し訳ございません。スパシオは私と共にケーキを作りましたので、きっと失敗に気づき、間違えてリーフ様が口にする事が無いように処分したかったのだと思います」
私はそっとケーキが乗った皿をテーブルからどかし、料理長に渡します。
料理長は皿を持ってバルコニーから去っていきました。
「まあいいわ。スパシオ、今回の事は特別に許します。ただし二回目はないわよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
その後スパシオさんは終始しゃべる事なく、リーフ様は一人でお茶を楽しみました。
私が話かけても不機嫌そうに返してくるだけでしたし。
翌日になり、私はいつものようにリーフ様の一日の予定を確認していると、スパシオさんの姿が見当たりません。
「あの、スパシオさんはお休みですか?」
「ああ、あの子ね、本人の意向で別の部署に移ったわよ」
「別の部署? 一体何が……」
そこまで言って口を閉ざします。
一体何が? 昨日の事に決まっているじゃない。
リーフ様はお許しになられた、だけど自身が主の信頼を裏切ったとなれば、それはメイド自身が進退を決めなくてはいけません。
……まぁ私が以前仕えていた元男爵家では、信頼なんてありませんでしたけど。
しかし居ないのなら仕方がありません。
私はリーフ様の予定を今まで通りに確認するだけです。
ふと、私は他の部署が目に入りました。
よく見るとおどおどしたメイド、明らかに仕事を割り振られていないメイド、よく分からない理由で叱られているメイドがいます。
これは一体? ああ、そういう事ですか、私が昨日感じた懐かしい感覚はこれだったんですね。
私がポルテ元男爵家で無理難題を言われ、食事もまともに与えられず、寝る時間を削って働いていました。
どこにでもあるんですね、イジメは。
少し仕事に慣れたので周囲が見えてきましたが、スパシオさんが私をイジメていた理由は何でしょうか。
王宮のメイドは貴族令嬢が多いので、メイド間には役職以外にも上下関係がありそうです。
まずはメイドとしての本分をしっかりこなして欲しいものです。
私はもう一人のメイドとリーフ様の自室へ向かい、着替えのお手伝いをします。
そういえば私がリーフ様付きになってから、あまりリーフ様から文句を言われていませんね。
昨日もスパシオさんの言葉を信じていましたが、私を罵倒する事はありませんでした。
どんな心変わりかと思いましたが、リーフ様の着替えをお手伝いしていて理解出来ました。
今はあの頃のリーフ様ではない、もう大人なのだと。
あの頃から情報が更新されていないのは私の方だったかもしれない。
じっくりとリーフ様を観察し、私の中のリーフ様を書き換えていきます。
「シルビア」
「はい。なんでしょうか」
リーフ様の自室で夜の紅茶を淹れていると、珍しくリーフ様から声をかけてくださいました。
「最近のアナタ、随分と私を見ている様だけど?」
「はい。今のリーフ様をしっかり見ておこうと思いました」
少し怪訝そうな顔をして私を見ます。
「なにそれ。たった一年会わなかっただけで趣味が悪くなったわね」
「一年前、私がプレアデス教国へ行く前にお会いしましたが、会話をしておりません。なので私の中にはさらに前のリーフ様しかいないのです」
「ふぅん」
「私はあの時のリーフ様を想像して、リーフ様付きのメイドを命じられた時はとても苦労しそうだと考えました」
「実際に苦労してるんじゃない? スパシオには変な事されてたんでしょ?」
「あれはスパシオさんの独断です。リーフ様ではありません」
「どこでもいっしょよ」
「その通りだと思います。たとえ他の御方のメイドになったところで、同じ事が発生するでしょう」
「ふっふふふ、じゃあやめる?」
「いえ、陛下がどうして私を王宮で働かせようとしたのか、試験はどういう意味があったのか、その理由がわかりました」
「……理由?」
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