無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる

文字の大きさ
83 / 139

第八十三話

しおりを挟む
「この女を牢屋に入れておけ!!」

 イスト伯爵邸の居間に複数の兵士が入ってきます。
 や、やっぱりこうなるの⁉
 ジリジリと距離を詰めて来る兵士を相手に、私は窓際に移動します。
 どうしよう、一応準備はしてきましたが、上手く逃げ切れるでしょうか。

「逃げられると思っているのか! すでに門は閉じてある、どこにも逃げ場はないぞ!」

 そう、ですよね。
 しかし一つだけ逃げ道に心当たりがあるのです。
 私はニッコリと微笑んだのち、窓を開けて飛び出しました。

「はーっはっはっはっは! 浅はかな娘だ!」

 ここは一階なので特に問題はありませんが、この先で兵士に捕まっては意味がありません。
 なので私は一直線に外壁へと向かいます。

 壁に向かう途中で私はベルトを外し、金具の向きを変えてS字型にします。
 そしてベルトを引っ張ると長い長い革のベルトが出てきました。
 数メートルもある革のベルトの先を壁の上に放り投げ、引っ張っても戻って来ない事を確認すると、私は壁に足をかけ、両腕と足を使って壁を登ります。

「まさか……外壁修理と……道具屋さんで働いた経験が……こんな所で役に立つなんて……っ!」

 壁を登りきると、追いかけてきた兵士が口をあんぐりと開けて大声を出し、正門へ回ります。
 その鎧では登れないでしょうしね。
 私は金具の取り付け位置を変え、今度は反対側に降りました。
 その後は急いでお城に逃げ帰るだけです。

「ただいま戻りました」

「……なんでお前がここにいるんだ?」

 お茶をしていたのか、ミストラル様は私を呆然と見て驚いています。
 
「なぜ、とおっしゃられても、イスト伯爵邸から逃げて参りました」

「逃げ……た? というか逃げられたのか?」

「捕まるなとのお達しでしたので」

「まさか本当に捕まらないとは思っていなかった」

 どっちなんですか。
 これでも大変な目に合ったのですが。

「まあいい、戻ってきたのなら救出部隊は解散だ」

「私が捕まったのをいいことに、イスト伯爵邸へ乗り込むおつもりだったんですか?」

「それがメインだった。ダメなら次の手に移るからかまわない」

「あの、私の命の危険などは……」

「それはあり得んな。今すぐに王族と全面戦争をするつもりが無いのなら、お前の命を奪う事はしない。救出に行かなくとも、夜前には解放されただろう」

 ああ、論理的な考え方ならそうでしょう。
 しかし相手はそんなこと考えていないのではないでしょうか。
 ああでもそうか、殿下でんかの代理という立場が私を守るのか。
 あの場にいた兵のほとんどは私が代理で来たことを知ってるはずだもの。

 ミストラル様は……見た目と違って大胆で大味で、でも妙に計算高い。
 リーフ様と違ってそれを隠す事もしない。

「わかりました。次の手はいつになりますか?」

「今からだ。お前も付いてこい」

 馬車に放り込まれ、書簡を見たイスト伯爵の反応をお伝えすると「予想通り過ぎてつまらん」とおっしゃいました。
 書簡には何が書いてあったのでしょうか。
 単純な想像で言うなら、貴族連合を認めず解散の指示、場合によっては反逆罪に問うとかかしら。

 相手を怒らせて不手際を誘い、そこに付け入るのが簡単ですもの。
 でも他の貴族達はどうするのかしら。
 今イスト伯爵を捕えてしまうと隠ぺい工作や、場合によってはより強固なつながりになったりしないかしら。

「はっはっはっは! やるではないかイストきょう! 卿《けい》は面白い奴だな!」

 イスト伯爵邸に乗り込んだかと思うとミストラル様は居間で酒を飲み、イスト伯爵と談笑しています。
 ……すみません、思考が追いついていません。
 次の作戦って何!? 貴族連合をどうにかするのではないの⁉

 ほら、イスト伯爵も顔が引きつってるわ!
 もう滅茶苦茶めちゃくちゃ……破天荒を通り越して滅茶苦茶だわ。
 私はてっきりミストラル様の領分は「対貴族」だと思ってたけど、こんなの対貴族どころの行動じゃないわ。
 ああ、頭が痛くなってきた。

 ミストラル様が大声で笑い、イスト伯爵は終始引きつり笑顔、周囲のメイドや執事たちは目の前の事実が理解できていない。
 それはそうよね、てっきり私、メイドの件で問い詰めに来たかと思ったらこれだもの。

「今日はこんなものだろう。今週中に全て終わらせるから、お前はしばらく何もするな」

 イスト伯爵邸を出た馬車の中で、ミストラル様は私に命令した。
 動きたくても動けませんけどね! 

「かしこまりました。しかし今日の行動にはどのような意味……」

 ミストラル様は私の話など聞かず、ぼーっと馬車の外を眺めています。
 どうしましょうリーフ様、ミストラル様のお考えがわかりません。
 この御方の付き人になった意味があったのでしょうか。

 何もするなと言われましたので、メイドとしての通常業務をこなします。
 しかもミストラル様の身の回りのお世話から外され、フォローに回されました。
 それは構いません、そちらの仕事は覚えたので、空いた時間で勉強でもしておきましょう。

 そして週末。

「おい、今から行くぞ。逃げ出す手段を十は用意しておけ」

 そんなに沢山逃げ出す手段は持っておりませんが⁉
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

追放された無能才女の私、敵国最強と謳われた冷徹公爵に「お飾りの婚約者になれ」と命じられました ~彼の呪いを癒せるのは、世界で私だけみたい~

放浪人
恋愛
伯爵令嬢エリアーナは、治癒魔法が使えない『無能才女』として、家族からも婚約者の王子からも虐げられる日々を送っていた。 信じていたはずの妹の裏切りにより、謂れのない罪で婚約破棄され、雨の降る夜に家を追放されてしまう。 絶望の淵で倒れた彼女を拾ったのは、戦場で受けた呪いに蝕まれ、血も涙もないと噂される『冷徹公爵』クロード・フォン・ヴァレンシュタインだった。 「俺の“お飾り”の婚約者になれ。お前には拒否権はない」 ――それは、互いの利益のための、心のない契約のはずだった。 しかし、エリアーナには誰にも言えない秘密があった。彼女の持つ力は、ただの治癒魔法ではない。あらゆる呪いを浄化する、伝説の*『聖癒の力』*。 その力が、公爵の抱える深い闇を癒やし始めた時、偽りの関係は、甘く切ない本物の愛へと変わっていく。 これは、全てを失った令嬢が自らの真の価値に目覚め、唯一無二の愛を手に入れるまでの、奇跡の物語。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...