無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる

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第九十九話

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 大丈夫、大丈夫です。
 危険だと思ったら逃げれば良いんです。
 相手は私より体格の良い男性ですが、本気になれば逃げれるはずです。
 
 私はサファリ様の部屋の前に立っています。
 夕食が終わり随分と時間が経ち、夜のお勤めの説明があるからと言われ、こうやって馬鹿正直に部屋の前まで来ました。

 メイド根性が恨めしい!!
 だ、大丈夫よ、サファリ様も妃殿下ひでんかと仲が良いと評判だし、見た目と違って意外と女性関係はしっかり……側室が複数名いるんだった!!
 ああっ! つまりとてもお元気な方でいらっしゃるんだったわ!

「おい、いつまで扉の前にいるつもりだ、さっさと入ってこい」

 部屋の中からサファリ様の声がします、随分と長い間扉の前で考えていたみたい。
 すっかり居るのがバレているわ。
 一回深呼吸をし、一応ノックしてから扉を開けます。

「お待たせいたしました。シルビア、参りました」

「おう! 適当に座れ」

 サファリ様はすでにガウンを羽織っておいでで、しかもお酒を飲んで酔ってらっしゃるのか胸元がはだけている。
 とても引き締まった胸筋と腹筋……逃げられるでしょうか。
 そして隣には妃殿下ひでんかと側室の方々が……

「し、失礼いたします」

 サファリ様から一番遠い、扉の脇に置いてある椅子にちょこんと座ります。
 そんな私を見てサファリ様達は目を点にして、盛大に笑いだしました。

「ふはっはっはっは! どこに座っている! こっちだこっち、俺の前のソファーが開いているぜ!」

 妃殿下や側室の方々もクスクスと笑っています。
 ええ、ええ、笑いたければ笑ってください、今の私はそれどころではないのです。
 仕方なくサファリ様の前の長ソファーに座ると、サファリ様はずいっと身を乗り出しました。

「お前を呼んだのは他でもない、今から始まるパーティーに参加してもらうためだ」

 ぱっ、パーティ⁉ 一体どんなパーティーなんですか!!
 思わず体を縮こませソファーの隅に退避します。
 も、もう逃げた方がいいのかしら⁉

「あら逃げようとしても無駄よ。この人は元気があり過ぎて私達だけじゃ体が持たないのよ。ほら、あなたもきっと好きになるわ」

 妃殿下がソファーの手すりに足を組んで座り、私のアゴを人差し指で撫でます。
 ひ、ひぃ~~! 逃げます! 今すぐ逃げます!!

「さあ始めるぜ!!」

 サファリ様が勢いよく立ち上がり、ローテーブルに手を付いてこちらに……くる気配が……ありません。

「ん? これは何ですか?」

 ローテーブルに四角い大きな厚紙が置いてあり、そこには沢山のマス目とマスの中に文字が書かれています。
 厚紙の横にはサイコロとチェスのような七色の駒が置いてあります。

「さあ! ボードゲームを始めるぜ!!」

 ボード……ゲーム……とは?

「ほらアナタ、シルビアが戸惑っているわ。ちゃんと説明をしたの?」

「したとも! 夜の勤めがあるから部屋に来いと言ったぜ!」

 妃殿下と側室たちがため息をつきます。
 はい、私もため息をつきたいのを堪えています。

「んっとに、これだからサファリ様はダメダメだったら」

「ほんとだわ。直情タイプって舌足らずで困るわ」

「いつもの事。サファリにそういう事を期待するのが間違い」

「でも毎度毎度勘違いさせてるし~、いい加減に直してもらいたいわ~」

 側室の四人は随分と砕けていますね。
 確かサファリ様の側室は実務にも長けており、公私ともにサポートしているはず。
 まるで親友か兄妹みたいだわ。

「えっと、つまり私はボードゲーム? なる物の相手をしたらよろしいのですか?」

「そうよシルビア。あなた……凄いんですってね」

「妃殿下、私はボードゲームをやったことがありません」

「違う違う。シルビアって軍事に明るいんだろ? コレはそういうゲームなんだわ」

 軍事に明るい……剣の素振りすらままならない私に軍事?
 あ、ひょっとして戦記物語が好きな事を言っているのでしょうか。
 であればかなり軍事に明るいです。

「確かに多少は軍事の知識はありますが、やってみなければわかりません」

「よしっ! ではシルビア、サイコロを振れ!!」

 細かいルール説明はゲームをしながら教えられました。
 つまりはゲーム内通貨を沢山集め、いち早くゴールに到着した人の勝ち、という事の様です。
 おや? これは……楽しいですね!

 気が付けば夜が明けていました。
 小鳥のさえずる声が聞こえ、朝日が窓から差し込んできます。

「ふ、ふふふ……まさか……ここまでとは思わなかった……ぜ」

「し、シルビア凄い……私は……もうダメ……」

「こ、ここまでタフとは思わなかったわ……」

 皆さんソファーに倒れ込み、寝息を立てはじめました。
 何回やったでしょうか、五十回? は超えたと思います。

「でも勝てたのは半分ほどだから、もっと考えて行動しないといけないわね」

 私は寝息を立てる皆さんをベッドに運び、静かに部屋を後にしました。
 その日を境に、何故か私は『サファリ様を吸いつくした魔性の女』と呼ばれるようになりました。
 
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