フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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私の手は

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 298 私の手は
 
「フェルちゃん。急にどうしたの?」

 前を歩くサンドラが不意に振り向いて私に向かって言う。

 今日私はサンドラの物件を探すのに同行していた。

「その……話せば長くなってしまうのだが……実はサンドラにお願いしたいことがあるのだ」

「いいわ。今日は時間もあるし、焦らずゆっくり話して。領都でいろいろあったんでしょう?」

 サンドラといくつか物件を見ながら、領都であったことを順に話していった。
 自分でも気持ちの整理ができているわけじゃないのだ。私には起こった出来事を順番に話す以外になかった。

 南地区の開発が順調に進んだことで、これまで王都で店舗を構えていた人たちが移転を希望するようになった。
 その空く予定の店舗をサンドラと私は商業ギルドの職員と一緒に見て回っている。

 当然、営業している時間にお願いして見せてもらっているわけなのだが。

「ここに水道だなんて何年前の設計なのよ。水が出ればいいってわけじゃないんだから。これを動かせないとするなら内装は……、あーこの柱が邪魔。何処にいてももうイヤ。何をするんでももう邪魔」

 言いたい放題だ。

 その建物の根幹となる柱を殴りつけるように叩き、店のオーナーを心配させる。
 ギルド職員がなんとか間を取り持っているが、なんだか先ほどからずっと頭を下げ続けているな、この担当者は。

 商店だけではなくさまざまな施設が配置を変えることになるそうだ。
 ちなみに冒険者ギルドも移転が決まっている。
 新しく出来る南門のすぐそばにギルドの建物が建設中だ。
 今のギルド南支部には商業ギルドが入る。そこが新しい南地区の街の中心になるそうだ。

 冒険者ギルドは城門のそばに建てられることが多い。依頼で外に出ることが多い冒険者に都合が良いと言うのもあるが、有事の際は防衛の拠点として機能する役割を持っている。
 王都の場合、西には穀倉地帯が広がっているため、主に南側、東側、北側の三方の防衛を強化する必要がある。冒険者ギルドは南側と東側に配置され、北側には騎士団の宿舎や訓練場がある。

「ケイにしては珍しいと思ってたのよ。あの子、臆病って言うか、自分の身の丈以上のことなんてしたがらないでしょう?無理をしないって言うか、挑戦したがらないって言うか。やりたいことがあったとしてもそれに対して過剰に無理して行動したりしないのよね」

 サンドラにも物件のこだわりはあるようで、特に水回りの配置は念入りに確かめているようだ。少し改修しなければいけなくてもそこがしっかりと使いやすい配置になってなければならないそうだ。

「自分のことを諦めているって言うのかしら。望んでも本当に欲しいものが手に入らないってあらかじめ解っているような、そういう不思議なところがあるのよね、あの子」

「村ではいろいろなことを諦めていたと言っていた。今のように美味しい料理を村人に食べてもらおうとしたら村長の息子に鍋の中に毒を入れられたそうだ」

「何それ?酷いことする奴もいるものね。ケイがひねくれるのもわかる気がするわ。あの子自分で胡椒を作るくらい料理が好きなのよ。そんなことされたなら相当傷ついたでしょう」

 その毒の一件からケイは食堂で料理を振る舞うのをやめていたと言う。
 きっと楽しかったのだろうな。村を出て自由に料理を作るのが。

 目を輝かせて食事を作るケイの姿を見ているのがなんだか好きだった。
 訓練をしていても、つい目はそちらの方を向いてしまう。
 市場でこんなものを見つけたとか、今日はこれが安かったとか、楽しそうに話しながら囲む食卓は、幸せで安らげる空間だった。

「フェルのためにお弁当を作ってあげたいんだ」

 いつかケイがそう言っていたことがある。
 私のために頑張らなくて良いから、もっと自分のやりたいことを優先して良いのだと、私は強く言えなかった。
 もう少しこのまま……。
 優しさに甘えていたのだな、私は。

 一度、意を決してこの先も一緒に暮らしてくれと言ったことがある。

「私をはしたない女だと思うか?」

 そう尋ねたら優しくケイは私の頭を撫でて言ったのだ。

「そんなこと一度も思ったことないよ」

 その後のことはよく覚えていないが、その日から私の中に不安は無くなった。
 
 別々の仕事をしていたとしても、お互いすれ違ってしまったとしても。
 帰るところは同じ場所でいつもと変わらない食卓を、2人で他愛もない話をしながら……。

「つまり……帰る場所があるってことを改めて気付いたってことかしら?当たり前だと思っていたはずのことが自分の中でとても大切になっていたってことに気がついた。つまりはそう言うことかしら」

「そう……なのだが……、それだけではないと言うか……。そもそも離れていなければその……幸せな場所にいつもいられるわけであろう?わざわざ無理に離れる必要はないと思うのだ」

「それで冒険者を辞めようと思った」

「そ、それだけではないと……思うのだ。どういう風に言えばいいのかよくわからない。だが、ケイのそばにいたいと強く思った。ずっと一緒にいたい、その気持ちは……どうやらケイも一緒だったようで……」
 
「そんなに恥ずかしがることでもないじゃない。自然なことよ。遅すぎたくらいだわ」

 3件目に案内されたのは武器屋だ。立地は良いので改装すればとギルドの職員は言うが、サンドラは中を見もせず却下した。

「彼のそばで、共に同じものを見て、同じようなことで笑い、時には悲しんだりもする。そんな暮らしをしたいと思ってしまったのだ……」

 そうだ。私にとって一番大切なもの。
 失いたくないかけがえのないもの。

「戦いから、争いからは何も生まれない。戦士でありたいと思う私には、彼の優しさに報いることも、恩を返すこともできそうにないと思ってしまった……。私はケイの足手まといにはなりたくないのだ」

 これまで会ったどんな人とも違う。
 そんな価値観を持った青年に出会った。

 自信がないようなおどおどしたところもあれば、誰にも譲らない強く信念を感じる行動をとることもある。

 そしてその青年はいつでも私の気持ちを優先してくれた。
 
 食卓に今まで食べたことのないようなご馳走を並べて、それを自慢することもなく、粗末な食事ですまないといつも謝ってくる。

 へりくだることはせず、その上で謙虚な姿勢が良いのだろう。あっという間に冒険者たちの心を掴む。
 炊き出しを手伝う冒険者は大勢いた。

 領都でもそれは同じだった。
 皆のために役に立ちたい。そう言ってめざましい活躍をしたにも関わらず、それを誇ることもなく自分ひとりだけの活躍ではないと言う。

 屋台をやってみたいとケイが言い出した。
 偶然空いていた場所でひと月だけのお試しの営業だったが、そのうちに屋台の裏に冒険者たちが集まるようになった。

 ふと気がつけばその集まりは多種多様な人物の集まる不思議なものになっていた。
 生まれも、種族も、身分も超えて偶然集まった者たちが皆、ケイの作る料理を美味そうに食べ、酒を飲んで語らっている。

 この世界はけして優しくはない。

 私のいた隣国は酷いものだった。
 路地裏の死体を片付ける仕事は当時頻繁にあった。
 余計なことは考えず、効率的に作業をすることを心がけた。
 
 心を閉ざして、勤務が明ければ宿舎に帰り、ただ眠る。宿舎での食事のことなんて覚えていない。ただの栄養だと思っていた。
 歳の離れた兄が近衛として王宮で働いていたが、相談するようなこともなかった。
 話せば騎士団を辞めて実家に帰れと言われただろう。兄は私が騎士になることにあまり良い顔をしていなかった。

 王国の辺境の村で出会ったこの青年と過ごすにつれて、私は少しずつ人間らしい感覚を取り戻していくことができたのかもしれない。

 初めて炊き出しをした時のことは忘れられない。
 
 たとえ魔物と戦う力がなかったとしても、こんなにも大勢の人たちを笑顔にすることができる。その笑顔は私が護りたいと願った故郷の人たちのことを思い出させた。
 
 私は、私の手は、こんなにも多くの人々のことを笑顔にさせることが出来るのだろうか。
 あの時思った敗北感にも嫉妬にも似たこの感情を、私は彼にうまく伝えることができなかった。

 私は……。

「ねえ、フェルがケイの役に立ちたいから料理を覚えたいっていうのはわかったわ。でも良いの?冒険者でいた方がお金が稼げるし、結果的にケイのためになるかもしれないのよ?ちなみに宿の厨房で基本的なことを教わってたって言ってたけど、屋台ではどうしてたの?宿の厨房とは全く勝手が違うでしょう」

「屋台では、ケイが焼いたハンバーグをパンに挟めて仕上げのようなことをしていたな。盛り付けとはなかなか奥が深いものだ。見た目が美しく、美味しそうに見えるよう工夫していた。ケイにはよく誉められていたが、実際のところはよくわからないのだ」

「採用」

 サンドラが急に真剣な表情になる。

「1人で全部こなすのは難しいって思ってたのよねー。私は見た目もキレイで可愛い料理を出したいの。私が作ったものを仕上げて提供してくれるならこんな理想的なことはないわ。フェル。ぜひ一緒に働きましょう。とりあえず夕飯を食べながら詳しく話すわ。少し高いけど良いお店を知ってるの。もちろんお代は私が払うわ。あなたたちもよく知ってるスラムの顔役がオーナーをしている店よ。昔馴染みなの。さ、行きましょう」

 5件目の物件を酷評したサンドラは今日の物件探しはもう切り上げるそうだ。
 そしてそうサンドラに告げられたギルド職員はほっとした表情をする。

「ちょっとお高いけど美味しいお酒が揃ってるのよね」

 サンドラは今日のことを忘れてかなり上機嫌で私の前を歩いている。
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 


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