フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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 え、フェル、冒険者やめるの?

 ゼランドさん一家の到着を待つ間、テーブルで朝の残りの紅茶を2人で飲んでいたら唐突にフェルからその話を聞かされた。

 サンドラ姉さんの新しい店で働くことにしたらしい。

「別に何か嫌なことがあったと言うわけでは無いのだ。剣を振り魔物を倒すのはやり甲斐があり、自分に向いている仕事だと思っている。だが、私はもうこの剣で何かを成そうとは思わない」

「依頼で倒した魔物の話とかいつも楽しそうに話していたじゃない。良いの?しかもサンドラ姉さんの店って。大丈夫だろうって思うけど……思う……けど……」

 何だろう。少しだけ嫌な予感がするのは。変なことさせられないかな。あのお酌の仕組みを考えたのはサンドラ姉さんだし。

「サンドラが作った料理を私が盛り付けて配膳する。主な仕事はそれだけだ。コーヒーやお茶など飲み物中心の店にするらしい。料理はデザートやお菓子が中心となるようだ。酒目当てで来る冒険者は店から追い出すと言っていたぞ。静かに恋人たちが語らうような店にしたいと言っていた」

 カフェみたいなものかなぁ?喫茶店?
 そういえば前にサンドラ姉さんがそんなことを言っていたような気もする。

「その……だな……。いつかケイは領都で店を出すのだろう?私もそこで働きたいと思っている。だから……その時のために修行を、だな」

「修行?」

 そんな事しなくても……、違うな。フェルは本気みたいだ。

「フェルはあの屋台みたいなことをずっとやっていきたいってこと?」

「それだけではなくて、いつかは店を出すのだろう?小熊亭のような人気の店になるはずだ。ゆ、優秀な従業員はきっと必要になる」

「小熊亭じゃいけないの?厨房に入るようになれば僕もいろいろ教えてあげられると思うけど」

 僕がそう言うとフェルは困ったような顔になり、だけど優しく僕に微笑む。

「それもいいのだがな。そうすると私はケイにまた甘えてしまいそうだ。本当はケイの隣で一緒に修練できれば良いのだが、私はまだそこまでも至っておらん。サンドラの元でいろいろ教わりながらしばらくは実力をつけていくつもりだ。私も……この先のケイの助けになりたいのだ」

 そう言われると何も言えなかった。

 お互いのやりたいことを応援する。フェルがやりたいことが出来たならそれを応援するだけなんだけど……。良いのかな。本当にフェルはそれで。

 フェルは冒険者の仕事が好きだと思ってた。ランクアップした時は本当に嬉しそうな顔をしてた。その表情を見て僕も嬉しくなったし、応援してた。無理してなければ良いんだけど。

 だけどフェルが今までこんなに真剣に自分からやりたいことを話したことあったかな。

 あれこれ心配するよりもフェルの気持ちに素直に感謝するべきなんだろう。
 そしていつか2人で小さくても良いからお店を出すんだ。
 
 週末は忙しかったけど、特に問題もなく営業をこなす。土曜日の昼にはアランさんが来た。またお弁当を作って欲しいそうだ。お弁当箱は綺麗に洗ってあった。

「ホーンラビットを狩りに行く?ダメだ。お前たちだけでそんなことはさせられない。もし護衛なんか付けたりしたらこちらの動きが読まれるかもしれん。ダメだ」

「肉屋で買っても良いんだけど……どうしようかな」
  
「俺たちで狩りに行く。揺動としては良いかもしれん。それでスラムに動きがあれば狙いが俺たちだとわかるしな」

「ちゃんと血抜きしてきてよ。味が全然ちがうんだから」

「安心しろ。ベンにちゃんと言っておく」

 それは逆に不安だ。
 
 そして炊き出し当日の朝、アランさんは派手に南門から王都を出て行った。
 ベンが嬉しそうに革の鎧を着て歩いて行った。作ってもらえたんだ。しっかり血抜きしてこい。

 久しぶりの炊き出しだと市場の人が大騒ぎする。声をかけられていろんな食材を渡された。渡されすぎてどう使ったら良いかよくわからなくなってしまったから、もう雑炊にして煮込んでしまう事にする。
 とりあえず鍋に入れちゃえば何とかなるだろ。闇鍋みたいにならなければ。

 冒険者ギルドの食堂で食器と鍋を借りていたら黒狼の人たちに声をかけられる。
 ブルーノが何だかぎこちない。オイゲンが僕らの護衛のために雇われたのだとこっそり教えてくれる。
 ブルーノ演技下手すぎだよ。

 炊き出しを手伝ってくれる黒狼の牙の皆さんといつもの場所に向かう。
 倉庫から必要なテーブルとかを運んでもらうんだけど……。

 なんか変だな。僕たちのことを怪しんで見ている視線は感じるけど……、何だか様子がおかしい。
 人相は悪いけど、みんな痩せていて栄養が足りてない感じがする。力なく横たわっている人もいる。
 帯剣している人は少なく、装備もしっかりしているわけじゃない。
 怪しい集団がスラムに集まっているって話じゃなかったっけ?なんだか難民キャンプみたいだ。

「フェル。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。たぶん変なことにはならないと思う。みんなお腹がすいてるみたい。とりあえず準備をしよう」

 水場で大鍋に水を汲んできてもらい、昆布で出汁をとる。
 なるだけ滋養のつくものをと考えながらもらってきた食材を選ぶ。

「ところでフェル。今回のことよく許してくれたよね。アランさんにはフェルが納得しないと参加できないって言ったんだけど」

「アランはケイにはしっかりと許可をとると言われたぞ?私たちが王都でこれからも問題なく暮らしていけるように必要なのだと説明されたからケイが許すなら私は構わないと伝えたのだ」

 ん?なんかおかしいな。
 
 アランさんはフェルには許可をとったと言っていたはず。
 やられたな。あの人はやっぱり信用しちゃいけない人だ。

 鍋の支度ができたところでリサさんが走ってきて解体したホーンラビットのお肉を持ってきてくれた。

「肉がないと料理ができないだろうということで取り急ぎ解体したホーンラビットを持ってきました。アラン様はこちらに戻るまでもう少しかかるそうです。『滞在費が……』とかつぶやいて森の奥に入っていかれました。もちろん警備の人員はしっかり配置についてます。そのまま作業を続けてください」

 任務中だからか少し丁寧な口調でリサさんは報告してきた。
 お礼を言って作業に戻る。

 昆布出汁で柔らかく煮込んだ野菜。
 ホーンラビットの肉を小さく切ってそれに入れる。少し待ってアクを取り除いて弱火で煮込む。

 残ったお肉は唐揚げにする。
 始めたばかりの頃みたい。雑炊と唐揚げ。だけど今日はデザートもあるんだった。箱でもらってしまったリンゴは、傷がついてるのが多いからもらってくれとのことだった。普通に売り物が並んでいるところから持って来たようだったけど、あまり野暮ったいことは言わないようにした。残った食材は日持ちがするものが多いから来週使おう。

 いつもより長めに煮込んだ。
 素材の味を活かすならもう火をとめた方がいいけど、もっと食べやすい感じにしたい。
 一番最初にフェルに作ってあげたキノコのスープみたいに。

 ベースは味噌で味を整えるけれど、味が濃くなりすぎないように気をつける。
 わかりやすい味付けの料理もいいけれど、食べてると疲れちゃうこともある。
 雑炊は優しくじんわりと体にしみ込むようなものにしよう。
 炊いてあるご飯を少し冷まして、スープの中で優しく洗うように混ぜ合わせる。
 器によそったら鰹節を少し、そしてすりおろしたチーズをぱらぱらとかける。

 出来た。

 顔を上げると炊き出しに並ぶ人たちが見える。

「ケイ?大丈夫か?ずっと集中していたみたいだが……」

「あ、ごめんね。すぐ用意するよ」
 
 あの時と同じというわけじゃないけれど、込めた気持ちは変わらない。

「ケイ。少しわかった気がするぞ。村ではいつもこうして1人で料理を作っていたのだな。もう遠慮なんてする必要などないのだ。すごく楽しそうな顔をしているぞ」
 
 1人きりだと思っていた。
 誰もわかってくれないと思って周りに合わせようとしていた。
 だけどそうじゃないんだってわかったのは。

 いい出会いに恵まれて、いい経験を積んだから。

 そしていつでも僕に微笑んでくれるフェルがそばにいたからなんだ。
  
 
  

 
 




 



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