フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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落ち着いた夜

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 303 落ち着いた夜

 雑炊を作るのにかなり集中していたみたいだ。
 いつのまにか炊き出しには長い行列が出来ていて、横で配膳を手伝ってくれている冒険者たちはよだれでも垂らしそうな顔で僕を見ている。
 フェルは……。何だか複雑な表情してるな。どうしたんだろ。

「いつも田舎ではこうしてひとりで料理を作っていたのだろう?ひとりきりで辛くはなかったか?あの村長の息子に嫌がらせを受けた時はさぞかし辛かったであろう。自分の作った料理で誰かに迷惑をかけるなんて、ケイはそういう事が一番嫌だと感じるだろうからな」

 村での僕のことを心配してくれているんだろうな。

 言ってしまえば「ぼっち」だった僕。
 剣も魔法も、何の才能もなく、何も無かったど田舎で目立たないように息を殺して暮らしてた。

 ひとりで料理を作っている時は楽しかった。前世の記憶にある料理を、似たような食材を探してきて納得がいくまで工夫する。
 うまく出来たらじいちゃんに食べさせて褒めてもらう。
 じいちゃんは変わった料理を作る僕に何も言わなかった。一緒に試行錯誤して料理を作った時もあった。じいちゃんに言われた言葉は美味しいとか、頑張ったなとかそれくらい。
 
 さみしいとは思わなかったけど、僕の行動や発言は村人の常識とは少し外れたものだったから、僕は村の人からたまにおかしなことを言う不思議な子供として見られていた。
 僕だけならいいけれどじいちゃんまで変な目で見られるのは嫌だった。
 自然と僕は周囲の人を避けるようになっていた。

「ケイ、すまんな遅くなった」

 アランさんが来たのはもう暗くなってきた頃だった。森での狩りが上手く行ったんだろうか。機嫌が良さそうに見える。

「遅いよ。なんか目的忘れてない?あ、お肉ありがとう。ちゃんと血抜きもしてくれてたから問題なく美味しく作れたよ」

 炊き出しの雑炊はみんなに配り終えて今はフェルや手伝ってくれた人たちの分を新しく作っているところだ。
 おかわりする人が大勢いて最初に仕込んだ分は全部使い切ってしまった。

 人相の悪い奴ら、そう言われていた人たちともそこまで問題は発生していなかった。少し並ぶ順番で軽く諍いが起こったくらいで、冒険者たちにあらかじめ言っておいたからだろうか。喧嘩みたいなことは起こらなかった。

「少し顔が怖いだけだよ。あの人たちはスラムに集まってる人たちと変わらないんだ。みんな行くところがなくってお腹が空いてる。とにかくさ、ご飯を食べて落ち着いてもらおうよ。事情とか聞くのは後にしてさ」

 ブルーノは少し驚いていたけど、そのあと、にかって笑って「お前って意外と度胸が座ってんだな」そう言って他の冒険者たちにいろいろ言いふくめていた。

 アランさんの姿を見るとそのいかつい集団が急にザワザワしだす。
 パラパラとその集団が立ち上がりだして、僕たちが炊き出しの料理を作っているところに集まり出した。

 何?何が始まるの?

 物陰に隠れていたマリスさんが飛び出してくる。他の騎士たちも同じだ。
 ベンがアランさんの前に出る。いつもの朗らかな顔と違って真剣な表情だ。

 あたりに緊張が走る。
 
 炊き出しのためにいつも使っている広場。何かに取り憑かれたように群がる人相の悪い人たち。目標はアランさん?
 統率なんてされてない。死霊が魂を求め彷徨うような、そんな足取りでゆっくりと僕たちの方に歩いてくる。

 フェルが腰に下げた剣に手をかける。
 冒険者たちも警戒している。
 装備している鎧がガチャリと音を立てた。
 僕はそんなフェルや冒険者たちを静止する。大丈夫。……たぶん。
 ちょっと怖いけど……。

 僕たちの近くに来るにつれて、彼らの足取りがだんだんとしっかりとしたものに変わっていく。しっかりと自分の意思を持って歩いてくる。そんな感じだ。
 
 ブルーノさんが僕を見た。良いのか?そういう目線を僕に投げかける。少し緊張した顔で僕はブルーノさんに頷いた。
 やがて先頭の人から隊列を組むように僕らの前にきれいに整列し始める。
 
「アラン様!俺を、俺たちを領都に連れて行ってください!俺たちにはもう行くところが無いんです!どぶさらいでも、防壁の工事でも、皿洗いでもなんでもします。俺たちを領都で雇ってください!」

 そう言ってその人は頭を下げる。
 整列する皆がそれに続いてアランさんに深くお辞儀をした。

 皿洗いにはこんな人数必要ないと思うのだが。
 そりゃみんなでやれば早く終わると思うけどさ。

「ち、ちょっと待ってくれ、うちに来たいってことか?お前ら侯爵に何か言われて王都に来たんじゃないのか?ちょっと良いから、まずは頭を上げてくれ」

 統率の取れた動きで全員が頭を上げる。その姿はまるで騎士団みたいだ。
 アランさんはその動きに……少しビビってる。
 圧が強すぎる。さすがに誰でも動揺するだろう。

「オイゲン!いるんだろ?お前の言う通りだった。悪いがライアンを呼んでくれ!俺だけじゃ手に負えない」

 アランさんが叫ぶと物陰からオイゲンが出てくる。
 そこにいたんだ。慌てて振り向いた僕にオイゲンが軽くあいさつしてくれた。少し笑ってる。
 別の場所からローザさんも出てきた。僕に向かって手を振ってくれている。
 参加した目的が治療なのか殲滅なのかはわからないけど。

「うちのパーティからは私だけ。セシルはギルドで待機してるわ。何かあったら援軍を連れてくることになってるの」

 そうなんだ。かなり厳重に僕たち警護されていたんだな。
 援軍って。戦争でも始まると思っていたのか?

「あー、お前たち、あ、なんだフラフラしてる奴もいるじゃねーか。一回座れ、ちょっと楽にして待ってろ。冒険者たちの中で治癒できる奴はいるか?悪い、みんなも出てきてくれ。賭けなら俺の負けでいい。今度なんか奢るから少し手伝ってくれないか?」

 ローザさんが治療に呼ばれてアランさんのところに行った。
 そしてわらわらとあちこちから貸切の日に来てくれたあの時のお客さんたちが出て来る。

 一体何人集めたの?
 貸切の日に来てくれた人たちはみんな武装はしていなかった。

「リサ、ベン!悪いんだがさっきもらった報奨金で酒を買って来てくれ。残った奴はちょっとここに机を並べてくれないか?マリス!なんか書くもの持ってるか?みんなからとりあえず名前を聞いて名簿を作ってくれ」
 
 僕は筆記用具を持っていなかったマリスさんにまだ使っていないノートとペンを渡す。マリスさんはそれを持って座っている人たちに名前を聞いていく。

「ケイ。まだ食材は残ってるか?何か作れるなら簡単なものでいいからつまめるものを頼む。手伝いは必要か?何かあれば遠慮なく言ってくれ」

 準備が何も出来ていないんだけどな。
 とりあえずみんなにご飯を出そうか。

 みんなの分の雑炊は炊き出しを手伝ってくれた人たちに任せてまだ残ってる食材を鞄から取り出す。
 もう鍋にしちゃう?鍋って言ってもな。みんな締めの雑炊を食べた後だし、順番が逆になってしまう。

 お肉買って来ようかな。とりあえず簡単に何か作るなら焼くしか無いんだけど。

 食事の用意をしてくれている人に少し分量を少なめにして集まってくれた皆さんにも行き渡るように加減してもらう。
 後から何か作って配るからと言うとみんなが嬉しそうに笑う。

「お前の酒のつまみも久しぶりだな。楽しみにしてるぜ」

 あれ?山賊がいる。
 
 そう思うくらい人相の悪いあの髭もじゃの冒険者がそう言って来る。座り込んで待っているあの集団の人たちより、控えめに言ってその表情には迫力がある。

 焼肉?とか思ったけれど、アランさんだってあんまりお金は持っていないはず。
 野菜とかはいっぱいもらっているからそれをうまく使って……。
 そんなことを考えながら店が閉まる前に市場へ行く。ロバートさんの肉屋でお肉を買い足して、スラムに戻った。

 牛肉とピーマンの炒め物、ひき肉を使って青菜のような茎がしっかりしている野菜を炒めて、中華料理のような炒め物を作る。他にもいろいろ、天ぷらなど揚げ物を作り、その他は比較的軽めのものをいくつか作った。

 ライアンさんがテーブルに座って次々と集まった人たちの面接をしている。
 横にアランさんも座りどうやらこれからの暮らしのことを説明しているようだ。
 人手が足りないと普段から思っていても急にこんな人数を受け入れるなんてことを想像していなかったアランさんはとても困っているようだった。しばらくは衣食住の保証はするけれど、給料となると持ち帰って議会に掛け合わなくてはならず、はっきりしたことは言えないらしい。

 けれど結局集まった全ての人たちが領都に移住することになり、差し当たって毛布などを支給することにしたようだ。
 アランさんの指示で騎士団の人たちがいろいろ動いている。

「ウサギー。腹が減った。なんかまだ食えるもんは残ってるか?」

 ライアンさんが面接を終えてやってくる。残っている雑炊を温め直してあげた。

「なんかいろいろ入ってて美味いな。風邪とかひいたやつには良いだろう。こういう皆が喜ぶようなレシピはギルドに登録した方がいいんじゃねーのか?」

「そんな風に言われることも多くなって、そうした方がいいかなって思ってるんですけどどうしたらいいかよくわからなくって。この料理がすでに登録してあるものかもしれないし、特別難しい料理を作ってるわけじゃないんです。だってこれ野菜を煮込んでお米を入れただけなんですよ」
 
「この国では米を食う習慣がねーからな、既存のレシピにこういう料理はないだろう。お前がよく作る『おにぎり』って料理にしてもそうだろうな。お前はそういうところに漬け込んでレシピ登録することに抵抗があるんだろう?レシピ登録に関して少し学んでみてはどうだ?俺が手紙を書こう。レシピの管理の部署に知り合いがいる。うちの嫁の兄貴なんだが一度相談に行って……。ウサギちょっと悪い。話は後だ、時間がある時ギルドに来い」

 そう言ってライアンさんが急に立ち上がる。

「タカシっ!お前こんな所で何やってんだ。あ、逃げるな。ちょっと待て!」

 黒い外套を深く被った男がふらりと僕たちが炊き出しをしているところにやって来た。それをみたライアンさんが立ち去ろうとするその男を追いかける。

 ライアンさんは追いかける直前雑炊を掻き込み、律儀に全部完食して追いかけて行った。

 所々で焚き火を囲み、冒険者と引退したかつての英雄たちが酒を酌み交わす。
 オーリーさんなどは大人気だ。『早起き』オーリーの逸話には様々な物語があり、みんな駆け出しの頃に酒の席でそんな話を聞きながら育ったという。
 お酒が好きなスラムの人はその輪に入り、体調を悪くしていた人はスラムの顔役の案内で静かなところで休む。

 いつもは騒がしく賑やかにやっていたけれどなんとなく落ち着いた夜はそばで見ていて気持ちのいい雰囲気だった。
 
 

 
 

 
 

 

 

 

 
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