フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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森人の庭

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 305 森人の庭

 アランさんが領都に出発して1週間後、オイゲンとリックさんと一緒に僕は南の森に調査に来ていた。

 先週はリックさんの都合が合わなくて今日になってしまった。フェルはサンドラ姉さんと新しい店のことで出かけて行った。リンさんも「行ってくればー」と、特に何か文句は出なかったみたい。

 森の浅いところは採取の依頼を受ける人たちのために手を付けないことにした。
 僕たちは前にゴブリンが拠点を作った場所に向かって進んでいる。

「そりゃあ、『森人の庭』って奴だろうぜ」

「知ってるの?」

「詳しくは知らないが、そういう場所があるんだ。そこは現実と切り離されたような不思議な場所で、生えてる薬草なんかはそこら辺に生えてるようなやつとは比べ物にならない。輝いてるって言うのか、なんつーか、森の中に突然現れる楽園のようなとにかく不思議な場所なんだ」

 ラッセルさんにもらった見たこともないくらい鮮度がいい薬草。
 そんな薬草が生えているような場所に心当たりがないか聞いたらオイゲンがそんなことを言い出した。

 元はリックさんの息抜きのために企画した今回の調査だったけど、道中ずっとリックさんがリンさんの惚気話をしている。1時間も経たないうちに僕たちはもうその話を聞くのが辛くなっていた。
 愚痴の一つでも言うかと思っていたけれどそんな素振りは一切ない。リックさんのことを少し尊敬してしまう。

「『森人の庭』っつーのは誰かが付けた呼び方だな。ちゃんとした呼び方は知らねー。その場所はエルフが管理していて、うっかり踏み込んだら酷い目に遭う。そんな場所に生えてる薬草なんて勝手に採取したなら……きっと殺されるだろうな」

「何それ、怖いよ」

「エルフにとっては……なんだ?聖域って言うのか?とにかく大事な場所らしい」

「オイゲンは見たことあるの?」

「ああ。あるぜ。一度だけな」

「よく殺されなかったね」
 
「つーか、あん時はすでに死にかけてた。誰かが倒れてる俺を殴り起こして、この場所が穢れるから出て行けって。なんか変な薬を飲まされて気付いたら森の外で倒れてた。そのエルフのことはよく覚えてねーが、心底、迷惑そうな目をしていたことだけは覚えてる」

 あとで聞いた話だけど、この時オイゲンが所属していた4人組のパーティの2人が亡くなり、もう1人は引退して王都を去った。残ったオイゲンは黒狼の牙に入り今があるんだそうだ。

 しばらく進めばゴブリンの集落のあった場所に出た。砦のような建物は解体されて焼き払われていた。焼け残った木材を隠すように雑草が生い茂っている。

「こういうとこには薬草はしばらく生えねーんだ。やっぱり土地が穢れてしまうってことなんだろうな。南の森にはその『森人の庭』みたいなものは無いはずだぜ。あれはもっと深い森の中にある。人の手が入らないような土地にぽっかりと存在してるんだ」

「リンもそういう場所を見たことがあるって言ってたよ。なんかキラキラして綺麗だったけど誰かにずっと見られてたからすぐにその場所を離れたって」

「懸命だな。それに気付かずにその中に入って行ったら何をされるかわかんねーぞ。ケイもそういう場所には近寄るな。上質な薬草くらいで自分の命をかけるなんて馬鹿のやることだ」

 そんな場所から薬草を採って来れたラッセルさんはきっとエルフなんだと思う。エルフってもっと細身のさらっとした雰囲気の人たちばかりだと勝手に思っていた。
 そりゃいろんな人がいるのは当然だ。ラッセルさんみたいにいるだけで威圧感があるエルフがいたっておかしくない。

「ここで昼飯っていうのも悪くはないが、まだ時間が早いな。この辺りで採取しながら帰る予定だったが……。ケイ、お前領都で気配察知を教えてもらったんだろ?ちょっと辺りを探ってみろ。なんか面白そうな場所があればそこに行ってみるのも悪くねー」

 薄く魔力を伸ばしてあたりの気配を探る。加減が難しい。あまり広げすぎると入って来る情報量で頭が痛くなる。
 無理しない範囲に収めて積み上げていくようにその情報を整理する。
 薬草の群生地とかもわかるかな?そうか、地形を見ればいいんだ。じゃあ日当たりの悪いところを好むあのキノコは……。

「出来るなら立体的に感じられるようになれ。そうすれば木の高さや通りやすい道も見えてくる」

「立体的に感じることなら最初から出来てるよ。それより範囲の調整が大変。あんまり広げすぎると頭が痛くなるんだ。だいたい2キロが限界かな」

「2キロ?けっこう広い範囲で見れてると思うぜ。立体で見るのは領都のスカウトがお前に教えたのか?そこまで出来るやつなんて数人しかいねーぞ」

「オイゲン。森の中が透けて見えるみたいなことってある?気配察知で感じたことが実際見ている景色と重なるみたいな」

「調子が良ければたまにそんなことはあるな。今日はよく見える、みたいな時はある。立体で捉えるのをやめて範囲をできる限り広げてみろ。それでなんか開けたところがあるならそこに行ってみようぜ」

 かなり先の方に崩れた遺跡のような場所がある。そう伝えると腑抜けたリックにはちょうどいい運動だと言ってオイゲンが走りやすい道を選んで先導してくれる。
 領都でシドに言われた透視のようなスキルのことは黙っておいた。

「気配察知のスキルひとつにしても効果や範囲は人それぞれだ」

 1時間くらい移動して僕たちは小休止をとる。汗はかいているけれどリックさんはまだまだ大丈夫そうだ。さすがだな、軽装とは言え僕たちより重たい装備と盾まで担いで移動しているのに。
 僕はと言うと……けっこう疲れてる。
 
「リンは魔力の細かい制御が苦手でな、探知の範囲は広くても10メートルくらいだ。その代わり走りながらでも精度の高い気配察知が出来る。セシルは立体で捉えるのが面倒くさくて、性に合わなかったみたいだな。平面だがその範囲はかなり広い。戦場が広く見渡せるから赤い風は混戦になると強いんだ。人の獲物も構わずに横取りして荒らし回るから暴風ってあだ名が付いたんだがな」

 リックさんが笑ってる。

「あいつは本当は指揮に向いてるんだ。本人はやりたがらねーが、ライアンもその辺を期待してる。あのウサギ狩りの時もそうだったろ?森の中の状況がしっかり視えてるから突発的な状況にもすぐに対応出来るんだ。自分で何でもやりたがらずに人に任せることができればあいつもAランクになれるんだがな、いい加減そろそろ落ち着いてもいいだろ」
 
 森の中から不意にゴブリンが出て来た時もセシル姉さんの対応は素早かった。実際に指揮をとった時もみんなをうまく動かしてあっという間に討伐が終わってしまった。
 
 海賊の親分みたいな指揮だったけど。

 けっこう森の奥まで来たな。この辺りまで来ると誰かが採取している様子もない。
 小休止の間に少し薬草を探す。少し育ちすぎかな。人の手が入ってないからと言っても質がいいとは限らない。定期的に少し間引いてあげた方が日の当たりも良くなっていい薬草に育つんだ。

「質の良いのを探すなら、手取り早いのは群生地だがな、確か向かってる遺跡にも質のいい薬草が生えてた気がするぜ。だいぶ昔に行ったきりだから変わっちまってるかもしれねーが」

「リンはそういうの見つけるのが上手いんだ。気配察知のスキルを上手く使うみたいだよ。オイゲン知ってる?」

「薬草にもわずかだが魔力があるからな。その濃さみてーなもんを見分けてんのかもしれねーな。ケイわかるか?」

「オイゲンには違いがわからないってこと?」
 
「俺には全部が無機質な物にしか感じられん。その方がわかりやすいし実際それで慣れちまってるからな。いまさらそんな器用な真似は無理だ。お前なんか器用そうだからわかるんじゃねーか?」

 範囲を狭めてやってみたけれどいまいち違いがわからない。ひとつひとつは確かに違うように感じられるけどその良い悪いがよくわからない。

「難しいよ。でもリンさんにやり方を聞いたとしても結局よくわからないと思う」

「あいつ天才だからな。感覚だけであそこまで出来るって凄いと思うぜ」

 あとどれくらいで着くだろうかと魔力を伸ばして気配察知をした時だった。
 向かっている遺跡のような場所に人がいる。遠く離れているはずなのにその人が僕の方を見た気がする。

 気付かれた?

 いや、これは……。

 なんか手を振ってるし。
 




 
 

 
 
 




 
 
 
  
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