フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

文字の大きさ
306 / 318

後片付けは明日で良い

しおりを挟む
 308 後片付けは明日で良い

 急に抱きしめられても困る。
 油断していた。
 しかしエリママに聞いていた通りだ。

「どっしりと構えていればいいのよ。表情になんて出しちゃダメよ。普通な顔して出迎えなさい。きっと向こうからあなたのことをぎゅっと抱きしめてくれるだろうから」

 そうは言っても、玄関先でこんなに。
 平静を装うとか、そんな。

 少し顔に傷がついてるな。どこかで擦ってしまったか。そういえば怪我はしていないのか?どうなんだろう。
 私はそっと顔についた擦り傷を魔法で治してあげた。

 お茶の準備も出来ているんだけどな。
 何だか大きい子供みたいだ。
 話を聞くのは後にしよう。きっと面白い話が聞けるに違いない。

 ケイが帰り道でもらって来たという串焼きを温め直して食事にする。
 ケイが作った方が美味いと思うが頂いたものだし大事に食べなければ。

 一口食べたところでケイが台所に行く。マヨネーズに何か混ぜてるな。

「芥子マヨネーズだよ。ちょっと付けると美味しいと思うんだ」

 確かに。ほんのちょっと付けるだけで全く違う。酸味とこの少し後から来るほんのり辛いのがいいな。
 
 夕飯を食べながらケイは森であったことを話してくれる。
 リックにとっては確かに息抜きになったようだったが、ケイやオイゲンが想像していたような感じではなかったらしい。
 リンの可愛いところを100個も聞かされたそうだ。

 むむむ。

 リックもやるな。100個もさらっと言えてしまうのか。私はケイの可愛いところをいくつあげられるか考えてみる。
 50個くらいならばすぐに思いつくのだが、100個ともなると少し考える時間が必要だ。紙に書き出してみないと重複してしまいそうだし。

「気配察知もね。少し慣れたからかな。オイゲンにいろいろコツみたいなものを聞いたら少し楽に使えるようになったよ。スキルって人それぞれやり方や効果が違うものなんだね」

「うむ。私の剣術ように、誰かに教えられて修練を積むならばスキルはその師のものに似てくるのだと思うが、冒険者の戦い方は人それぞれだからな。ほとんどの者が独学で学んでいるし、スキルもまた人の数だけ様々な形に変化していくのだろう」

「料理の場合はどうなんだろうね」

「包丁の使い方などという単純なものではないからな。誰にでも慣れ親しんだ味というものもあるだろうし。故郷の味というのは死ぬまで覚えているもののようであるからな。簡単にスキルとしてまとめられるものでもあるまい」

 そう言うと少しケイは困った顔になる。
 あまり自分の故郷のことを話したくないのだろうか?
 ゼン殿との話ではなさそうに思える。
 話したいことがあるのに話すのを我慢している。出来るだけ表情に出さないように。
 最近ケイはそんな顔をすることが増えた気がする。
 
 もうそんなに無理をしなくていいのだ。

 人には言えない秘密があるのだとしても、それはいつか話せる時に話してくれればいい。
 しかし他人の目を気にして自分がやりたいと思うことを我慢する必要はもう無いのだ。
 誰かに見つからないよう怯える必要なんてない。堂々と自分のやりたいことをすればいい。
 周りに味方はすでに大勢いるのだから。

 ケイは知らないだろうがあの時ギルドには100人近く冒険者たちが集まったのだそうだ。よほどセシルの人望があるのかと思えば、炊き出しの小僧のためだとか言って、皆、勢い勇んで集まったらしい。
 
 貸切に来たお客たちは出される料理を絶賛していたぞ。いつかお城で会った庭師の老人もとても喜んでいた。
 クライブなどはすこぶる上機嫌だ。皆から弟子を褒められて、怒っているのかなんなのか難しい表情になっている。
 
 私は知ってる。クライブは嬉しい時にどんな表情をしていいのかわからないのだ。
 怖い顔が悩むとさらに怖くなる。
 それをいつもより多めに酒を飲んで誤魔化していた。

 もう遠慮なんてしなくて良いのだ。
 ケイのことを大切に思う人たちは存外に多いのだぞ。おかしな貴族に攫われたとしても奪還することなど容易いことだ。それだけの戦力がお前のために集まってくれるのだぞ。

 そう言いたかったけれど言い出せなかった。

 王都に着く前の日、テントの中でのこと。

「その時は王都を出よう。どこか田舎で2人で働きながらひっそりと暮らさない?」

 私の手配書の件が解決していなかったらそうしようとケイは言った。
 私がそばにいるならどこに住んでても幸せだと彼は言う。

 私は泣きそうになる顔を見られたくなくって寝たふりをした。
 
 確かに良いな。
 海が見える街で2人で定食屋を営むのだ。裕福でなくてもいい。いつか子供も生まれて家族になって、男の子と女の子、両方欲しいな。皆で一緒に食卓を囲むのだ。
 大皿で出された料理を皆で取り合いながら。

 幸せとは、そんな未来を想像することができる、今のこの瞬間のことなのかもしれない。
 夢があるとは、希望があるとはなんと幸せなことなのだろう。

 しかし、あのエルフとまた出会ったのには驚いた。予定を変えて王都に立ち寄ることにした?小熊亭にも来るのだろうか。
 見るからにそれなりの地位にある立場の人間だと思うが……。
 まあ特別、面倒なことにはならないだろう。
 クライブもいることだしな。

 今日はなんだか疲れたと言ってケイはシャワーを浴びにいく。
 干していた布団をベッドに敷いて、果実水を作ってみた。
 サンドラに今日教えてもらったレシピだ。初めて作ったからどうだろうか。保冷庫から氷を出してコップに入れておく。
 寝室の小さなテーブルにそれを置き、私はケイと入れ違いでシャワーを浴びた。

 シャワー浴びて戻って来たらケイは椅子に座ってうとうととしている。
 果実水は全部飲んだみたいだ。その手に持っているコップの中の氷が小さくカランと音を立てる。
 そのコップを受け取りテーブルに置いた。

 寝ぼけたケイの手を取りベッドに導いて、そして今夜もケイを抱きしめて眠る。
 
 後片付けは明日で良い。
 果実水のコップがテーブルの上でカランと音を立てた。




 










しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...