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王都での暮らし
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312 王都での暮らし
いつもより遅い時間にどちらからともなく、自然に2人、布団から出て顔を洗う。
並んで歯を磨いて身支度をすませたら、僕は朝食の支度をするために台所に立つ。
今日は走りに行くのをやめてゆっくり過ごそうと、昨日の夜フェルが言い出した。
だけどリビングに所在なく座っているフェルの姿を見ていたらいつもの朝の鍛錬くらいなら付き合ってあげたいと思ってしまった。
お米を磨いでガンツに作ってもらった炊飯器のスイッチを押したら2人で庭に出る。
フェルは素振りを始めて、僕は弓の練習を始めた。
魔力循環、さらに気配察知のスキルを使って弓を引くと、いつも以上に集中しなければ狙った場所に当てることができない。
あのオークの集落を討伐した時のようにうまく的に矢を当てることはできなかった。
何度か狙いを外して矢を痛めてしまう。
なんだか不満そうなライツの弓を見て、少し口元が緩む。
ごめんね。もう少し上手くなるように頑張るよ。もっと練習するね。
素振りを終えたフェルが僕のことを不思議な顔をして見ていた。
リビングのテーブルで僕はレシピ帳を眺める。フェルは僕にセーターを編んでくれている。背中合わせになるように座っていたのはフェルが時々僕の肩幅を合わせて確認しながら作業をしているからだ。
「お茶でも淹れようか。エリママにもらった良い茶葉がまだ残っているのだ」
王家御用達、産地は知らないけれど高級な茶葉には違いない。ほんとは特別な日に飲むものなのだろうけど、時間が経って風味が悪くなってしまうのも良くないだろう。
「あぁ、良いのだ。ケイは座っていろ。わ、私が飲みたいから入れるのだ。任せてくれ」
そう言って台所に立つフェル。その後ろ姿をそっと眺める。
リビングにあるテーブルに最初の頃は向かい合って座っていたけど、いつのまにか隣り合って座るようになった。なんだかこの方がしっくりくる。僕が右側でフェルが左側。街を歩くときなんとなくフェルと手を繋ぐのはいつも左手だった。
王室御用達の紅茶をゆっくり楽しんで、午前中はのんびり過ごした。
お昼ご飯は保冷庫にあるものと領都から送られてきた魚を使って作り、食べたら午後は家の掃除だ。
普段からフェルがこまめに掃除をしてくれているからそこまで手間がかからない。
布団を干して家中の床を拭き、台所を念入りに掃除する。
午前中は曇っていたけれど午後からは少し日が差してきた。
大掃除が終わって一息つこうかという話になる。
「ならば麦茶を淹れてくれ。……砂糖も少し入れて欲しい」
パーティの時ライツが適当に作ったテーブルは小さなものをひとつだけ残して庭に置いていた。
そこにフェルと向かい合って座り、砂糖入りの麦茶を飲む。
「日が出ているとまだ暖かいけど、だいぶ寒くなってきたね」
「そうだな。しかし去年はスラムでテントを張って暮らしていたのだ。何というか、今はかなり贅沢な暮らしをさせてもらっていると思う」
住むところを借りて暮らすことは普通のことだと思うけれど、フェルの気持ちはよくわかる。
だけど村に住んでいた頃よりも暮らしが豊かだ。
単純に都会だから良いってわけじゃない。だけどあの狭くて閉鎖的だったあの村での生活を思うと、この今の王都での暮らしがまるで天国みたいに感じられる。
でも天国だって思えるのはフェルがいるからか。大好きな人がそばにいてくれる。
それだけでどこでどんな暮らしをしていたとしても、きっとそこは幸せな場所だろう。
「たまにこうやって2人で飲むから良いのだな」
何気なくそう言って暖かい麦茶を大切そうに飲むフェル。
夕方になり少し肌寒くなって来るまでフェルと一緒に庭で静かにお茶を飲んだ。
暗くなる前に銭湯に行く。いつもの様に待ち合わせの時間を決めてフェルと別れる。
夜ご飯は何にしようかな?
湯船に浸かりながら夕食の献立を考えるのは楽しい。
溜まった洗濯物を銭湯にある洗濯機、みたいな魔道具に入れてフェルの髪を乾かす。
向かいあってベンチに座り、他愛もない話をしながら、そして僕は少しドキドキしながら、洗濯が終わるのを待つ。
乗り合い馬車には乗らずに少し長い帰り道を手を繋いで帰った。
すっかり肌寒くなった王都の道を手を繋いで歩く。
じいちゃん。王都に来て一年だったけど、いろんなことがあったよ。
こんな風になるなんて思いもしなかった。
じいちゃんへの手紙を書きたいとフェルに言うと、フェルは真剣な顔を出して言う。
「ならば私もゼン殿に一筆書かなくてはならないな。そ、その……。報告せねばならんこともあるしな。それはきちんと私から伝えたいのだ」
最後までフェルは僕に手紙を見せなかった。
フェルの手紙は便箋で2、3枚。
中身は気になるけれど、悪いことは書かれていないと思う。
じいちゃんの手紙には細かいことを長々と書くのはやめた。
「今が幸せです」そう言う気持ちを単純に伝えたいと思って書いたつもり。
何となくリビングで2人で過ごした後、何となく寝室に行きベッドに入る。
ゼランドさんたちは年越しそばを喜んでくれるかな?もっと気持ちの伝わる贈り物を用意したほうがよかったかな?
そんなことを考えて、その後の記憶はない。
隣で僕を抱きしめて寝るフェルの温もりが心地いい。
何か満たされているような感覚に包まれて眠りに落ちた。
いつもより遅い時間にどちらからともなく、自然に2人、布団から出て顔を洗う。
並んで歯を磨いて身支度をすませたら、僕は朝食の支度をするために台所に立つ。
今日は走りに行くのをやめてゆっくり過ごそうと、昨日の夜フェルが言い出した。
だけどリビングに所在なく座っているフェルの姿を見ていたらいつもの朝の鍛錬くらいなら付き合ってあげたいと思ってしまった。
お米を磨いでガンツに作ってもらった炊飯器のスイッチを押したら2人で庭に出る。
フェルは素振りを始めて、僕は弓の練習を始めた。
魔力循環、さらに気配察知のスキルを使って弓を引くと、いつも以上に集中しなければ狙った場所に当てることができない。
あのオークの集落を討伐した時のようにうまく的に矢を当てることはできなかった。
何度か狙いを外して矢を痛めてしまう。
なんだか不満そうなライツの弓を見て、少し口元が緩む。
ごめんね。もう少し上手くなるように頑張るよ。もっと練習するね。
素振りを終えたフェルが僕のことを不思議な顔をして見ていた。
リビングのテーブルで僕はレシピ帳を眺める。フェルは僕にセーターを編んでくれている。背中合わせになるように座っていたのはフェルが時々僕の肩幅を合わせて確認しながら作業をしているからだ。
「お茶でも淹れようか。エリママにもらった良い茶葉がまだ残っているのだ」
王家御用達、産地は知らないけれど高級な茶葉には違いない。ほんとは特別な日に飲むものなのだろうけど、時間が経って風味が悪くなってしまうのも良くないだろう。
「あぁ、良いのだ。ケイは座っていろ。わ、私が飲みたいから入れるのだ。任せてくれ」
そう言って台所に立つフェル。その後ろ姿をそっと眺める。
リビングにあるテーブルに最初の頃は向かい合って座っていたけど、いつのまにか隣り合って座るようになった。なんだかこの方がしっくりくる。僕が右側でフェルが左側。街を歩くときなんとなくフェルと手を繋ぐのはいつも左手だった。
王室御用達の紅茶をゆっくり楽しんで、午前中はのんびり過ごした。
お昼ご飯は保冷庫にあるものと領都から送られてきた魚を使って作り、食べたら午後は家の掃除だ。
普段からフェルがこまめに掃除をしてくれているからそこまで手間がかからない。
布団を干して家中の床を拭き、台所を念入りに掃除する。
午前中は曇っていたけれど午後からは少し日が差してきた。
大掃除が終わって一息つこうかという話になる。
「ならば麦茶を淹れてくれ。……砂糖も少し入れて欲しい」
パーティの時ライツが適当に作ったテーブルは小さなものをひとつだけ残して庭に置いていた。
そこにフェルと向かい合って座り、砂糖入りの麦茶を飲む。
「日が出ているとまだ暖かいけど、だいぶ寒くなってきたね」
「そうだな。しかし去年はスラムでテントを張って暮らしていたのだ。何というか、今はかなり贅沢な暮らしをさせてもらっていると思う」
住むところを借りて暮らすことは普通のことだと思うけれど、フェルの気持ちはよくわかる。
だけど村に住んでいた頃よりも暮らしが豊かだ。
単純に都会だから良いってわけじゃない。だけどあの狭くて閉鎖的だったあの村での生活を思うと、この今の王都での暮らしがまるで天国みたいに感じられる。
でも天国だって思えるのはフェルがいるからか。大好きな人がそばにいてくれる。
それだけでどこでどんな暮らしをしていたとしても、きっとそこは幸せな場所だろう。
「たまにこうやって2人で飲むから良いのだな」
何気なくそう言って暖かい麦茶を大切そうに飲むフェル。
夕方になり少し肌寒くなって来るまでフェルと一緒に庭で静かにお茶を飲んだ。
暗くなる前に銭湯に行く。いつもの様に待ち合わせの時間を決めてフェルと別れる。
夜ご飯は何にしようかな?
湯船に浸かりながら夕食の献立を考えるのは楽しい。
溜まった洗濯物を銭湯にある洗濯機、みたいな魔道具に入れてフェルの髪を乾かす。
向かいあってベンチに座り、他愛もない話をしながら、そして僕は少しドキドキしながら、洗濯が終わるのを待つ。
乗り合い馬車には乗らずに少し長い帰り道を手を繋いで帰った。
すっかり肌寒くなった王都の道を手を繋いで歩く。
じいちゃん。王都に来て一年だったけど、いろんなことがあったよ。
こんな風になるなんて思いもしなかった。
じいちゃんへの手紙を書きたいとフェルに言うと、フェルは真剣な顔を出して言う。
「ならば私もゼン殿に一筆書かなくてはならないな。そ、その……。報告せねばならんこともあるしな。それはきちんと私から伝えたいのだ」
最後までフェルは僕に手紙を見せなかった。
フェルの手紙は便箋で2、3枚。
中身は気になるけれど、悪いことは書かれていないと思う。
じいちゃんの手紙には細かいことを長々と書くのはやめた。
「今が幸せです」そう言う気持ちを単純に伝えたいと思って書いたつもり。
何となくリビングで2人で過ごした後、何となく寝室に行きベッドに入る。
ゼランドさんたちは年越しそばを喜んでくれるかな?もっと気持ちの伝わる贈り物を用意したほうがよかったかな?
そんなことを考えて、その後の記憶はない。
隣で僕を抱きしめて寝るフェルの温もりが心地いい。
何か満たされているような感覚に包まれて眠りに落ちた。
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