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しっかりしなくちゃ
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285 しっかりしなくちゃ
洗い物を済ませてフェルと店を出た。
まずは冒険者ギルドに行こう。ゼランドさんの商会にも行かなくちゃいけないけれど、エリママに先に会ってしまうと何だか長くなりそうな気がした。
隣国の調査の依頼を途中で引き返したとライアンさんは言っていた。赤い風のみんなは大丈夫なんだろうか。
冒険者ギルドは依頼の報告と素材の換金で混雑していた。顔見知りの冒険者たちが僕たちに気づいて挨拶をしてくる。
南支部に登録している冒険者の7割くらいは炊き出しを手伝ってくれたり、店にご飯を食べに来てくれたりしてすっかり顔馴染みになってしまっている。
もっと大騒ぎになるかと思ったけど不思議とそんなことはなかった。
みんなひと言ふた言言葉をかけて来てくれるだけで、肩を叩いていなくなるだけの人もいる。
ずいぶんあっさりしたものだ。
僕たちのことを考えてあえて目立たないように配慮してくれているんだろうか。
ひゃっはー、今日は飲むぞー。とか言われて囲まれるかと思った。
そんな冒険者たちの心遣いに大きな声でお礼を言いたい気持ちを堪えて訓練場に急ぐ。
遠くの方で赤い髪が揺れている。セシル姉さんだ。模擬戦の相手は……ドミニクさん?黒狼の牙のアタッカーだ。赤い風の他のメンバーはどうしたんだろう。訓練場を見渡したけれど他の3人の姿は無かった。
「セシル姉さん!他のみんなは?任務を途中で引き返したって聞いたけど大丈夫なの?ポーションなら持ってるよ。中級でダメなら薬師ギルドで作り方を聞いてくるから、そしたら上級のポーションだって作れるかもしれない」
僕が遠くから声をかけると2人とも手を止めて剣を納めた。
「ドミニク!今日はここまでにしよう!付き合ってくれてありがとな。また頼むよ」
セシル姉さんが模擬戦を中断して僕たちの方にやってくる。ドミニクさんは軽く僕たちに手を振って訓練場から出て行った。
「久しぶりだね。元気でやってたかい?ケイ、少し背が伸びたんじゃないか?フェルはなんだか少し雰囲気が変わったね」
「そんなことより姉さん。他の3人は?依頼を途中でやめて引き返してくるなんて何があったの?」
「そうだセシル。3人は無事なのか?何かあったら私は……」
「落ち着きなって、心配いらないよ。ライアンから一体どんな話を聞いたんだい?余計なことは言うなって釘を刺したつもりなんだけどね」
「ライアンさんからは……体調不良で引き返して来たって言われただけなんだけど……本当にみんな無事なの?」
「順を追って話すから、まぁ待ちなって。だけどまずは最初に謝らせてくれ。アンタたちのためにって張り切って依頼を受けたんだが、結局何もできずに帰ってきちまった。本当にすまない」
そしてセシル姉さんは隣国に調査に行った時のことを、ゆっくりと、そして詳細に話してくれた。
僕の故郷の村も隣国に接していたけれど、南側からではなく王国の西側、比較的に通りやすい整備された道から赤い風のみんなは隣国に入った。ところがそこからはかなり大変な思いをしたのだそうだ。
国境を超えて隣国に入るにあたり、まず国境の役人に賄賂を支払う必要があった。その後、野盗に襲われ、たどり着いた村では村ぐるみで追い剥ぎにあったり、そのため宿にも泊まれず、ずっと警戒しながら野営をして隣国の首都を目指したそうだ。
隣国は姉さんたちの想像以上に荒れていた。
途中補給で立ち寄った町では一部の裕福な人を除いてみんな貧しい身なりで怯えたように暮らしていたし、街道と言われる大きな道はろくな舗装もされておらず馬車の乗り心地は最悪だった。
話を聞いてフェルが唇を噛み締める。そんなフェルの姿を見ているのが辛かった。
「順調っていうわけじゃ無かったが、それでも何とか首都まであと2日あれば着くってところまでは行ったんだ。首都に着いた後はギルドが機能していればそこで依頼を受けながら情報を集めるつもりだった。ところがそんな時にリンが体調を崩してしまってね」
ポーションや回復魔法は病気にはあまり効果が無い。病気は医者や薬師が治すのが普通だ。だけど僕には医学の心得なんて無い。母さんなら知っていたかもしれないけれど詳しく教えてもらったことはないし、前世の記憶にもそんな医療の知識はなかった。
僕の落ち込んだ表情を見て姉さんが優しく声をかけてくる。
「そんな顔するんじゃないよ。そこまで心配することじゃないんだ。実はね。リンは妊娠してたんだよ」
「……え?……つまり……えっと、どういうこと?」
「相手はリックだ。リンの様子がおかしいから不思議に思ったローザが気づいて、よくよく話を聞いてみたらそういうことだった」
「あの……え?おめでとうって、言えば……いいのか……な……」
フェルの方を思わず見てしまう。完全に動揺している僕より、少し落ち着いて話を聞いているように見えた。……知ってた?僕だけが狼狽しているような感じだ。落ち着こう。……母子共に……違う……。え?なんて言えば……?
「アタシらはとりあえずリックをボコボコにした後で、王都に引き返すことに決めたんだ。とにかく医者も何もかもが信用できないようなところにとどまるわけにはいかなかったからね。それはアタシの判断だ。アンタたちが責めるならアタシだけにしておくれ他の奴らは関係ない。アタシが全部悪いんだ」
「や、そういうことじゃなくって、いや、ちょっとはビックリしたっていうか、あれ?」
大絶賛混乱中だ。リックさんは無事なのか?
「セシル。リンの容体を教えてくれ。依頼などどうでもいいのだ。私たちに謝る必要なんてない。今は安静にしているということなのか?」
「心配いらないよ。なんだかんだ家じゃ不満ばかり言ってるが、普段通りさ。リンがアンタたちによろしく言っておいてーだとさ。アイツどれだけ皆が心配したかわかってんのかね」
「無事ならば良いのだ。リンには後で見舞いに行くと伝えてくれ。それで……隣国の状況をもう少し詳しく教えていただけないだろうか。隣国全てが荒れ果ててしまっているということなのか?私の故郷は首都から馬車で2日ほど東に行ったところにあるのだ」
僕も詳しくは知らないけれど、セシル姉さんの通った街道から南に向かえば隣国の首都がある。首都を通り過ぎてさらに南に行き山を越えれば僕の村の近くに出る。フェルの故郷は少し王国寄りにあるようだ。
「広さだけで言うなら隣国は王国より広いからね。アタシらだって全部が見れたわけじゃない。アンタの故郷ってたぶん首都の方から回り込まないと道がないだろ。街道の南側は山だらけだったからね」
フェルが静かに頷いた。
「さすがにその辺りの様子まではわからないね。小さな村ではアタシらが食料を買うことができないくらい何もなくて貧しかった。比較的大きい町で食料を買ったんだけど、けっこう物価は高かったね。あれだと貧しい奴らは満足に食事も取れないだろう。それに雰囲気も悪かった。そこにいる誰もがお互いを疑って暮らしているような感じさ。王国とは全く違っていたよ」
フェルの表情が曇る。心配……だよね。こんな形で隣国の様子を聞くなんて思ってもいなかった。
「まあそんなに暗い顔すんなって。安易に楽観的なことを言うわけじゃないんだが、隣国では南側の方が作物の実りもいいと聞くし、比較的豊かだって言うじゃないか。街道沿いの町や村が荒れていたからって隣国の全部がダメだってことにはならないからね」
「しかし……、北の街道がそんな有様だとしたら……やはり中央は」
「そうだね。実際のところはよくわからない。よくわからないことだらけさ。だが、ライアンが言うにはこれ以上酷いことにはならないはずだそうだよ。アタシらが王都に着いた頃、ギルドに知らせが入ってね。中央の方で何かあったらしい。具体的には首都で何やら反乱みたいなことがあったらしいんだ」
そうだ。ライアンさんもそんなことを言っていた。姉さんはゆっくりとフェルを落ち着かせるように話を続けた。
「アタシらがギルドに報告に行ったらまず真っ先にライアンがアタシらを怒鳴りつけたんだ。一体何をしてきたってすごい剣幕だった。ところがアタシたちにはなんのことやらわからない。聞いてみたらアンタの手配書も取り下げられて、隣国の騎士団が解体したらしいじゃないか。隣国の騎士団の悪い噂は知ってたよ。決して逆らわず、やり過ごせって。よく遠出する連中なら皆知ってたさ。それがあっさり解体した。王国に救援を頼むって緊急の知らせがきたときにちょうどアタシらがギルドに帰ってきたもんだから仕方がないね。アタシらがなんかしたってライアンは真っ先に疑ってた。とにかく情報が足りなかったからね。まったくめんどくさかったったらありゃしない」
そうなんだ。ライアンさんも今は話せることがないって言って、何か知ってそうだけど具体的なことが何も言えなくて苦しそうだった。セシル姉さんと関係がないとしたなら今、隣国で何が起こっているんだろう。
「裏がとれてるわけじゃないから、よそでは言わないでおくれよ。隣国の反乱は一人の冒険者がやったことみたいだよ。たぶんライアンはそいつを知ってる。隣国の中枢をアリの巣を踏み潰すみたいにぶっ壊してさ、そいつは今ごろ王都に向かって来てるらしい。そしたら状況ももう少し正確にわかるはずさ。ライアンがなかなか口を割らないのはその冒険者が少し訳ありでね。そいつがあまり目立つといろいろ都合が悪いんだ。力になれなくて悪かった。だが全てが悪い方に向かってるわけじゃない。とにかくもう少し時間が必要さ。今はおとなしく待ってるしかない」
「隣国は……滅びてしまうのだろうか」
真剣な顔でフェルがセシル姉さんに尋ねる。そんなフェルを見てセシル姉さんは笑う。
「そんなことにはならないよ。少なくともレオナルド王はそんなこと望んでないさ。その昔、黒竜の一件で一番被害がひどかったのがこの王国だった。レオナルド王はそのことをとても悔やんでいるそうだ。討伐のためにやってはならない禁術にも手を出した。そのために巻き込んでしまった奴らの人生を狂わせちまったそうだよ。そんでその時王は誓ったそうだ。この国を他の周りの国よりずっと豊かな国にするって。そのことを神殿で誓いを立てたのは有名な話さ。あの王様が隣の国の不幸を喜ぶわけがない。きっと何か手を打って真っ当な国にするために何かするはずさ」
王様って意外と支持されてるんだ。王都が暮らしやすく工夫されているのも、王様のそういう想いが反映されているからかもしれない。
こんなもんでいいだろう。そんな感じで鯛めしのおにぎりを作ったことを少し反省した。だからといって素晴らしいご馳走になるわけじゃないんだけど。
丁寧に作ったし、何か妥協したわけでもないし。
だいたいあれは町の人のための料理だから。余計な飾りなんていらないし、特別高級に仕上げる必要はないんだ。そんなの食べたがる人が悪いと思う。
絶対そんなこと言えないけど。
複雑な顔をするフェルの肩のあたりにそっと手を添える。
それくらいしかできない自分自身が悔しい。だけどフェルとずっとそばにいたい。
しっかりしなくちゃ。周りの人たちに甘えてばかりじゃダメなんだ。
洗い物を済ませてフェルと店を出た。
まずは冒険者ギルドに行こう。ゼランドさんの商会にも行かなくちゃいけないけれど、エリママに先に会ってしまうと何だか長くなりそうな気がした。
隣国の調査の依頼を途中で引き返したとライアンさんは言っていた。赤い風のみんなは大丈夫なんだろうか。
冒険者ギルドは依頼の報告と素材の換金で混雑していた。顔見知りの冒険者たちが僕たちに気づいて挨拶をしてくる。
南支部に登録している冒険者の7割くらいは炊き出しを手伝ってくれたり、店にご飯を食べに来てくれたりしてすっかり顔馴染みになってしまっている。
もっと大騒ぎになるかと思ったけど不思議とそんなことはなかった。
みんなひと言ふた言言葉をかけて来てくれるだけで、肩を叩いていなくなるだけの人もいる。
ずいぶんあっさりしたものだ。
僕たちのことを考えてあえて目立たないように配慮してくれているんだろうか。
ひゃっはー、今日は飲むぞー。とか言われて囲まれるかと思った。
そんな冒険者たちの心遣いに大きな声でお礼を言いたい気持ちを堪えて訓練場に急ぐ。
遠くの方で赤い髪が揺れている。セシル姉さんだ。模擬戦の相手は……ドミニクさん?黒狼の牙のアタッカーだ。赤い風の他のメンバーはどうしたんだろう。訓練場を見渡したけれど他の3人の姿は無かった。
「セシル姉さん!他のみんなは?任務を途中で引き返したって聞いたけど大丈夫なの?ポーションなら持ってるよ。中級でダメなら薬師ギルドで作り方を聞いてくるから、そしたら上級のポーションだって作れるかもしれない」
僕が遠くから声をかけると2人とも手を止めて剣を納めた。
「ドミニク!今日はここまでにしよう!付き合ってくれてありがとな。また頼むよ」
セシル姉さんが模擬戦を中断して僕たちの方にやってくる。ドミニクさんは軽く僕たちに手を振って訓練場から出て行った。
「久しぶりだね。元気でやってたかい?ケイ、少し背が伸びたんじゃないか?フェルはなんだか少し雰囲気が変わったね」
「そんなことより姉さん。他の3人は?依頼を途中でやめて引き返してくるなんて何があったの?」
「そうだセシル。3人は無事なのか?何かあったら私は……」
「落ち着きなって、心配いらないよ。ライアンから一体どんな話を聞いたんだい?余計なことは言うなって釘を刺したつもりなんだけどね」
「ライアンさんからは……体調不良で引き返して来たって言われただけなんだけど……本当にみんな無事なの?」
「順を追って話すから、まぁ待ちなって。だけどまずは最初に謝らせてくれ。アンタたちのためにって張り切って依頼を受けたんだが、結局何もできずに帰ってきちまった。本当にすまない」
そしてセシル姉さんは隣国に調査に行った時のことを、ゆっくりと、そして詳細に話してくれた。
僕の故郷の村も隣国に接していたけれど、南側からではなく王国の西側、比較的に通りやすい整備された道から赤い風のみんなは隣国に入った。ところがそこからはかなり大変な思いをしたのだそうだ。
国境を超えて隣国に入るにあたり、まず国境の役人に賄賂を支払う必要があった。その後、野盗に襲われ、たどり着いた村では村ぐるみで追い剥ぎにあったり、そのため宿にも泊まれず、ずっと警戒しながら野営をして隣国の首都を目指したそうだ。
隣国は姉さんたちの想像以上に荒れていた。
途中補給で立ち寄った町では一部の裕福な人を除いてみんな貧しい身なりで怯えたように暮らしていたし、街道と言われる大きな道はろくな舗装もされておらず馬車の乗り心地は最悪だった。
話を聞いてフェルが唇を噛み締める。そんなフェルの姿を見ているのが辛かった。
「順調っていうわけじゃ無かったが、それでも何とか首都まであと2日あれば着くってところまでは行ったんだ。首都に着いた後はギルドが機能していればそこで依頼を受けながら情報を集めるつもりだった。ところがそんな時にリンが体調を崩してしまってね」
ポーションや回復魔法は病気にはあまり効果が無い。病気は医者や薬師が治すのが普通だ。だけど僕には医学の心得なんて無い。母さんなら知っていたかもしれないけれど詳しく教えてもらったことはないし、前世の記憶にもそんな医療の知識はなかった。
僕の落ち込んだ表情を見て姉さんが優しく声をかけてくる。
「そんな顔するんじゃないよ。そこまで心配することじゃないんだ。実はね。リンは妊娠してたんだよ」
「……え?……つまり……えっと、どういうこと?」
「相手はリックだ。リンの様子がおかしいから不思議に思ったローザが気づいて、よくよく話を聞いてみたらそういうことだった」
「あの……え?おめでとうって、言えば……いいのか……な……」
フェルの方を思わず見てしまう。完全に動揺している僕より、少し落ち着いて話を聞いているように見えた。……知ってた?僕だけが狼狽しているような感じだ。落ち着こう。……母子共に……違う……。え?なんて言えば……?
「アタシらはとりあえずリックをボコボコにした後で、王都に引き返すことに決めたんだ。とにかく医者も何もかもが信用できないようなところにとどまるわけにはいかなかったからね。それはアタシの判断だ。アンタたちが責めるならアタシだけにしておくれ他の奴らは関係ない。アタシが全部悪いんだ」
「や、そういうことじゃなくって、いや、ちょっとはビックリしたっていうか、あれ?」
大絶賛混乱中だ。リックさんは無事なのか?
「セシル。リンの容体を教えてくれ。依頼などどうでもいいのだ。私たちに謝る必要なんてない。今は安静にしているということなのか?」
「心配いらないよ。なんだかんだ家じゃ不満ばかり言ってるが、普段通りさ。リンがアンタたちによろしく言っておいてーだとさ。アイツどれだけ皆が心配したかわかってんのかね」
「無事ならば良いのだ。リンには後で見舞いに行くと伝えてくれ。それで……隣国の状況をもう少し詳しく教えていただけないだろうか。隣国全てが荒れ果ててしまっているということなのか?私の故郷は首都から馬車で2日ほど東に行ったところにあるのだ」
僕も詳しくは知らないけれど、セシル姉さんの通った街道から南に向かえば隣国の首都がある。首都を通り過ぎてさらに南に行き山を越えれば僕の村の近くに出る。フェルの故郷は少し王国寄りにあるようだ。
「広さだけで言うなら隣国は王国より広いからね。アタシらだって全部が見れたわけじゃない。アンタの故郷ってたぶん首都の方から回り込まないと道がないだろ。街道の南側は山だらけだったからね」
フェルが静かに頷いた。
「さすがにその辺りの様子まではわからないね。小さな村ではアタシらが食料を買うことができないくらい何もなくて貧しかった。比較的大きい町で食料を買ったんだけど、けっこう物価は高かったね。あれだと貧しい奴らは満足に食事も取れないだろう。それに雰囲気も悪かった。そこにいる誰もがお互いを疑って暮らしているような感じさ。王国とは全く違っていたよ」
フェルの表情が曇る。心配……だよね。こんな形で隣国の様子を聞くなんて思ってもいなかった。
「まあそんなに暗い顔すんなって。安易に楽観的なことを言うわけじゃないんだが、隣国では南側の方が作物の実りもいいと聞くし、比較的豊かだって言うじゃないか。街道沿いの町や村が荒れていたからって隣国の全部がダメだってことにはならないからね」
「しかし……、北の街道がそんな有様だとしたら……やはり中央は」
「そうだね。実際のところはよくわからない。よくわからないことだらけさ。だが、ライアンが言うにはこれ以上酷いことにはならないはずだそうだよ。アタシらが王都に着いた頃、ギルドに知らせが入ってね。中央の方で何かあったらしい。具体的には首都で何やら反乱みたいなことがあったらしいんだ」
そうだ。ライアンさんもそんなことを言っていた。姉さんはゆっくりとフェルを落ち着かせるように話を続けた。
「アタシらがギルドに報告に行ったらまず真っ先にライアンがアタシらを怒鳴りつけたんだ。一体何をしてきたってすごい剣幕だった。ところがアタシたちにはなんのことやらわからない。聞いてみたらアンタの手配書も取り下げられて、隣国の騎士団が解体したらしいじゃないか。隣国の騎士団の悪い噂は知ってたよ。決して逆らわず、やり過ごせって。よく遠出する連中なら皆知ってたさ。それがあっさり解体した。王国に救援を頼むって緊急の知らせがきたときにちょうどアタシらがギルドに帰ってきたもんだから仕方がないね。アタシらがなんかしたってライアンは真っ先に疑ってた。とにかく情報が足りなかったからね。まったくめんどくさかったったらありゃしない」
そうなんだ。ライアンさんも今は話せることがないって言って、何か知ってそうだけど具体的なことが何も言えなくて苦しそうだった。セシル姉さんと関係がないとしたなら今、隣国で何が起こっているんだろう。
「裏がとれてるわけじゃないから、よそでは言わないでおくれよ。隣国の反乱は一人の冒険者がやったことみたいだよ。たぶんライアンはそいつを知ってる。隣国の中枢をアリの巣を踏み潰すみたいにぶっ壊してさ、そいつは今ごろ王都に向かって来てるらしい。そしたら状況ももう少し正確にわかるはずさ。ライアンがなかなか口を割らないのはその冒険者が少し訳ありでね。そいつがあまり目立つといろいろ都合が悪いんだ。力になれなくて悪かった。だが全てが悪い方に向かってるわけじゃない。とにかくもう少し時間が必要さ。今はおとなしく待ってるしかない」
「隣国は……滅びてしまうのだろうか」
真剣な顔でフェルがセシル姉さんに尋ねる。そんなフェルを見てセシル姉さんは笑う。
「そんなことにはならないよ。少なくともレオナルド王はそんなこと望んでないさ。その昔、黒竜の一件で一番被害がひどかったのがこの王国だった。レオナルド王はそのことをとても悔やんでいるそうだ。討伐のためにやってはならない禁術にも手を出した。そのために巻き込んでしまった奴らの人生を狂わせちまったそうだよ。そんでその時王は誓ったそうだ。この国を他の周りの国よりずっと豊かな国にするって。そのことを神殿で誓いを立てたのは有名な話さ。あの王様が隣の国の不幸を喜ぶわけがない。きっと何か手を打って真っ当な国にするために何かするはずさ」
王様って意外と支持されてるんだ。王都が暮らしやすく工夫されているのも、王様のそういう想いが反映されているからかもしれない。
こんなもんでいいだろう。そんな感じで鯛めしのおにぎりを作ったことを少し反省した。だからといって素晴らしいご馳走になるわけじゃないんだけど。
丁寧に作ったし、何か妥協したわけでもないし。
だいたいあれは町の人のための料理だから。余計な飾りなんていらないし、特別高級に仕上げる必要はないんだ。そんなの食べたがる人が悪いと思う。
絶対そんなこと言えないけど。
複雑な顔をするフェルの肩のあたりにそっと手を添える。
それくらいしかできない自分自身が悔しい。だけどフェルとずっとそばにいたい。
しっかりしなくちゃ。周りの人たちに甘えてばかりじゃダメなんだ。
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