天使の声と魔女の呪い

狼蝶

文字の大きさ
7 / 60

しおりを挟む


「うう・・・・・・ん」

「やっと目覚めたようだね」

「はっっ!!申し訳ございません・・・・・・ええと・・・・・・」

「私はゼウ、第三王子のゼウタールだ」
「俺はゼヌタール。ゼウが兄で俺が真ん中、そしてゼノが一番下な」
「僕たち、三つ子なんです」


 ゼノ以外の二人をどう呼ぶべきか逡巡しているアランに、二人が自己紹介をする。
 世間では知られていないが、実は第三王子は三人いるのだ。
 リリーも最初はアランのようにポカンとして、頭がその情報に追いつかなかったのを覚えている。二人の兄は昔から王子たちとの交流が深く、婚約も交わしており必然的に自分も小さな頃から彼らに連れられて王宮へと頻繁に出入りしていた。これをブロッサム家に知られたら『贔屓だ!』と糾弾されかねないので、これは秘密なのだが。だが実際、昔からホワイトローズ家と王家とは深い繋がりがあったし、裏の話をする機会も必要だったため、元々表には出せない関係性である。
 しかし、ギムリィとハレムの婚約はちゃんと本人たちの恋愛のもと結ばれた婚約なので、それは恋愛結婚も大いに認められるこの国では誰も反対できないことだろう。

 話が逸れたが、第三王子は三つ子で、だが世間には一人の人間だと思われている。兄と第一・第二王子と話す機会が多くなってきたある日、紹介したい人物がいると言われ今リリーたちがいる部屋、王宮の隠し扉を通った先の奥まった一番日当たりの悪い部屋に連れられた。そこで紹介されたのはまだ社交界デビューをされていなかったゼノ、そしてゼウとゼヌと会った。同じ顔が三人・・・・・・と驚いたが、接してみると口調も性格も全く違う人間で、返る頃には一瞬で見分けがつくほど親しくなっていた。このときはまだ、赤ちゃん言葉で話しても違和感のない年だった。
 この国の王族には多胎児が生まれたことはなく古い慣習から縁起の悪いものだとされており、三つ子で生まれた彼らは王家で秘密とされていた。王家は“第三王子が誕生した”ということを彼らが三つ子であることを伏せた上で公表し、成長と共に優秀な者を正式な第三王子として世に出そうとしたのである。その話を第一王子のクォードから聞いたときはなんとも言えない怒りを覚えたが、一方で何ともないという様な平気な様子を見せる当事者たちに、同情することは彼らにとって失礼なことだと恥じた。
 そうして彼らはどうなったのかというと、なんと皆優劣なく優秀で王も誰を立てるか決めかねたのだという。そして三人の王子は王と交渉し、正式な第三王子の名としては“ゼノ”を立てるが、他の二人も“ゼノ”を装い三人で一人という存在として第三王子となった。だから彼らは、一日ごとに“ゼノ”を演じている。

 リリーはどうしてそんなことをするのかと三人に問うと、ゼウはふわりと、ゼヌはからっと、ゼノはにこりと笑って言った。

『将来王とその近き役職に就く兄たちを影ながらお護りしたいのです』
『第三王子となると、王位継承権はないのも同然だからな。皆表面上兄が王になることに賛成はしても、水面下ではどんな動きがあるかわからない』
『僕たちは三人いるので、一人という形を取りながら様々な場所で情報を得ることができるでしょう?』
『なんなら、同時に行われる多数の派閥の会合へも参加できますしね』

『全くこんな感じなんですよ、私の弟たちは。でも、私も兄上が王に相応しいと思うので、私自身彼らの意見に賛成なのですがね。私が祭り上げられても困るし。それに、王家に黙って悪の組織と繋がる貴族も多いので・・・・・・、一人なのに三人分動ける彼らは重宝すると思います』

『っとに、うちの弟たちは困ったモンだ。まぁ、心強いけどな。それに、確かに心配だが代わりに俺がこいつらを護るだけだからな!』

 幼いながらも自分たちの役目を見据えている彼らと、その荒唐無稽な考えを利益として考える第二王子のジルにも舌を巻いてしまったし、そんな彼らを笑って護ると言う第一王子も人間としてすごい、と思った。


「ということは、第三王子はゼノ様、ゼウ様そしてゼヌ様の三人いらっしゃるということなのですね・・・?」

「うん。このことバラしたら消すから」

「そんときゃ俺に任せろ!」

 ゼウが笑顔で物騒な言葉を放ち、それにゼヌが生き生きと力こぶを見せてくる。アランはただただ乾いた口で笑うしかなく、この秘密は死守しようと心に誓った。実際自分のためにも死守しなければならない。あとリリーのしゃべり方についても。
 第三王子は三つ子であったという話が終わると、本題と言うようにリリーの兄、ギムリィが眉を寄せてリリーのことについて話し始めた。

「それで、リリーのことなんだが・・・・・・
 君もリリーのあの天使かと思うくらい甘くてこれ以上ないほど可愛くて溜まらない声を聞いたと耳にして、正直怒りで手が出そうなんだが・・・・・・、リリーは、リリーはぁっ

 何故か喋ると赤ちゃん言葉になってしまうのだ!!!」

「にいしゃっ!しょんなおおごえでいわなぃれって!!」

「ほら!!!」

 くぅ~可愛いっ!と嘆いているギムリィの言葉に、アランは信じられない中はぁと返事をしかけたのだが、兄の興奮でおかしくなった声量に抗議したリリーの声は、確かに尖った空気だった部屋を一瞬で和ませるほどの威力を持っていた。思わずアランも今自分が置かれている状況を忘れてとろけてしまうほどだ。
 ギムリィが言うとおり、彼の一言があれば争いも一瞬で霧散するだろう。その力を考えると、本当に天使の声なのかもしれない。

 また意図せず口を開き赤ちゃん言葉を炸裂させてしまったことで顔を真っ赤にさせてぴゃぁあ~となっているリリーに、一同がとろけた顔をする。だが同じようにしていたアランは、皆から冷たい顔を向けられ、しょぼんと目を逸らすことにした。

「で、君にはこれから秘密を共有するものとして、彼の秘密が学園でバレないようにすることと、何故彼がこのようにしか話せないのか調べる手伝いをしてもらうことにする」

「言っておくが、君に拒否権はない」

「精一杯努めさせていただきます」

 長年様々な書物をもって調べたり地域の民への聞き取り調査を行ったりしているものの、リリーが普通に話せないこれといった原因はまだ見つかっていない。
 彼のことを憎らしいと思っていたアランはこの日、リリーを護り、リリーを愛でる、いわば“ファーストリリー”会へと籍を入れたのであった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

フードコートの天使

美浪
BL
西山暁には本気の片思いをして告白をする事も出来ずに音信不通になってしまった相手がいる。 あれから5年。 大手ファストフードチェーン店SSSバーガーに就職した。今は店長でブルーローズショッピングモール店に勤務中。 そんなある日・・・。あの日の君がフードコートに居た。 それは間違いなく俺の大好きで忘れられないジュンだった。 ・・・・・・・・・・・・ 大濠純、食品会社勤務。 5年前に犯した過ちから自ら疎遠にしてしまった片思いの相手。 ずっと忘れない人。アキラさん。 左遷先はブルーローズショッピングモール。そこに彼は居た。 まだ怒っているかもしれない彼に俺は意を決して挨拶をした・・・。 ・・・・・・・・・・・・ 両片思いを2人の視点でそれぞれ展開して行こうと思っています。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

処理中です...