9 / 60
9
しおりを挟む「本当にどうしちゃったのかしら。なんだか最近、アランらしくないわ」
「どうせ授業について行けなくて、これから先の行く末を憂いているのだろう」
「ふはっ、フラウはアランに厳しいな。お、お~い、アラン?」
「はっ!何だっ!?」
「口の端にソースが付いているわよ。もう、ぼうっとし過ぎよ。気をつけて!」
「あ、ああ・・・ごめん」
「はぁ・・・お前は一体何を見ているんだ?」
アランの並々でない様子に違和感を抱いたフラウは、怪訝な顔でアランが見ていた方向に目を向ける。アランは慌てて止めようと『あっ、ちょっと・・・』と言い募ったが、上手くいかずアランの視線の下が割れてしまうとフラウの機嫌が一気に悪くなったのがわかった。
アランが皆との食事の最中に盗み見ていたのは、あちらの方の木陰で静かに昼を食べているリリーの姿だった。その隣には王子がいて満面の笑みでリリーに構い、リリーはそれを好きにさせていた。学園にいる、リリーがいると知ったらきっと来ているだろうその兄たちは、生徒会の仕事で忙しいのか今はいない。また王子がいるというので周りが騒いでも良いのだが、なにしろ“あの”リリーが隣にいるので皆遠巻きに見ていたのだ。通りでフラウリーゼやリリーを敵視するその兄たちが今まで彼らに気づかなかったわけである。だから何も言われず見つめ続けることができたのだが。
「チッ・・・、あいつまた王子の近くにいやがって・・・・・・。見せびらかしているつもりか」
「兄さん、きっとそんなつもりはないと思うわ」
「あの隣にはリーゼが相応しいのに・・・!!」
「まぁまぁ落ち着きなってフラウ。せっかくのフラウリーゼの手料理が台無しだぞ」
「それもそうだな・・・・・・というか、お前はどっちの味方なんだ!?」
「もちろんブロッサム家に決まっているじゃないか。でも俺はフラウリーゼが好きだから、王子と婚約するのは嫌だなぁ」
「セイ・・・・・・!!」
「ふふふっ、ほら兄さんも口元に付いてるわ。アランと同じね」
「リーゼ!」
指摘され恥ずかしそうに顔を赤くし眉を下げたフラウに、アランは内心ほっとした。フラウのリリーを見るその目が険しかったからだ。そんな目であの人を見て欲しくない、と数ヶ月前までは将来の義兄になってもらうつもりだったフラウに思ってしまう。ここはいわばフラウリーゼを王子の花嫁に推す側の人間であり、フラウリーゼの兄や従兄弟といったブロッサム家の人間の前ではとてもじゃないがリリーの賞賛する言葉なんて言えない。それを表す言葉を口から出した時点でフラウの冷たく恐ろしい視線とセイの笑っていない笑顔を向けられるのである。
それを想像したアランはぶるるっと一つ身震いをした。
「あっ・・・・・・」
そうしながらも再びリリーの方へ顔を向けると、ゼノの兄たちが彼らの下へ来ておりなにやら呼び出されたのか、リリーに謝りながらその場を離れていった。突然の第一・第二王子の登場に、周りの生徒達はわっと声援を上げ、令嬢たちは口には出さなくとも王子への憧れが目に表れていた。
ゼノを見送り手元にある本に目線を落としたリリーのその静かな美しさにほぅっと息をついたが、またフラウに咎められると思い慌てて顔を皆の方に向けると、さっきまでフラウリーゼに口元を拭われて顔を赤くしていたフラウが今度は良いことでも思いついたかのように意地の悪い笑みを浮かべたのを見た。
そして次の瞬間フラウはその場から立ち上がり、リリーの方へと歩いて行った。その手には紅茶が波々と入ったカップを持って。
「ちょっと兄さん、どこに行くの!?」
「おいフラウ!」
フラウリーゼは突然の兄の奇行に驚き声をかけるが全くの無視で、見かねたセイがナプキンを膝から取り払ってフラウを追って行った。
78
あなたにおすすめの小説
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる
ユーリ
BL
魔法省に悪魔が降り立ったーー世話係に任命された花音は憂鬱だった。だって悪魔が胡散臭い。なのになぜか死神に狙われているからと一緒に住むことになり…しかも悪魔に甘やかされる!?
「お前みたいなドジでバカでかわいいやつが好きなんだよ」スパダリ悪魔×死神に狙われるドジっ子「なんか恋人みたい…」ーー死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる