天使の声と魔女の呪い

狼蝶

文字の大きさ
17 / 60

17

しおりを挟む

 *****

「ったく、フラウの奴・・・・・・」

 授業後、フラウの教室を尋ねるともうすでに彼はおらず、タイムと出ていったという情報をクラスメイトから得る。文句を口に出しながらも先ほど面と向かって言われた棘が、胸でチクチクと追撃をしてくる。
『お前はもう、ブロッサム家の人間じゃない』。フラウとは何度も意見をぶつけ合うことがあったが、そんなことを言われたのは初めてだった。彼の口から放たれた言葉に強制力などなく、ああ言われたからと言って実際にセイがブロッサム家を破門にされることはないだろう。そう思えるのに、長い間共に成長をしてきた彼に言われたということが、セイの胸を締め上げた。

「はぁ・・・・・・」

「セイ=ブロッサム、少し話しをしたいのだが」

 溜息を吐きながら歩いているとギムリィが前から来るのが目に入り、浅く会釈をして通り過ぎようとした時、突然目の前で足を止めてそう言ってきた。咄嗟に断りの文句も浮かばず黙っていたセイに承諾と取ったのかギムリィが踵を返して歩き出した。付いて行かなければ後々面倒なことになりそうだと思い、セイは黙って彼の後を歩き、生徒会室の扉を潜った。

「うわぁ・・・・・・生徒会室ってこんな感じなんだ」
「フラウも君も、成績優秀なのに生徒会に入らなかったからな。知らなかっただろう、生徒会室の豪華さを」

 一歩入るとそこは他の教室と違い、品の良い調度品ばかりが揃っていた。床も壁も貴重な石が使われており、シャンデリアも小ぶりながら職人の趣向が凝らしてある。想像になかった豪華さに思わず部屋の中を見回すと、ギムリィが苦笑いしながら当たり前だと言ってきた。
 ギムリィとはこうして面と向かって話すのは初めてだが、パーティーなどで見る冷たそうな雰囲気はなく、非常に穏やかそうに見える。彼が微笑むと周りの空気もさらに和らぎ、その空気にこちらも口を緩めてしまいそうになるほどだ。

「まぁきっと?僕たちホワイトローズ家が生徒会に入っていたからでしょうけど。はい、どうぞ」
「ありがとう・・・・・・。ああ、そうだな。せっかくなら生徒会に入れば良いのに、あいつはあなたたちのことを毛嫌いしているから。本当に、損な奴だよ。俺もあいつも」
「あなたはいつもフラウさんの言いなりだからね。そんなこと言っても仕方ないんじゃないですか?」

 ツンとした態度で紅茶を出してきたハレムに礼を言うが手厳しいことを言われ、気まずくなって貰った紅茶を一口含む。ギムリィも気まずそうにハレムに『こらこら』と言うが、ハレムはふんっと鼻を鳴らしてギムリィの隣へ腰を下ろした。
 紅茶のカップを静かにテーブルへ戻し一息吐くと、目の前のギムリィが姿勢を正してセイの目を見る。

「セイ、先ほどは疑ってしまってすまなかった」

 そう言って、頭を深く下げてきた。物腰は柔らかくともプライドは高そうな彼のその行動を意外に思い頭が真っ白になったが、ハレムに『早く頭を上げさせろ』という視線を送られセイは謝罪を受け入れることにした。

「リリーを庇ってくれたと聞いた。君はブロッサム家の人間だというのに、すごいな」
「いいえ、人として当然のことです。それに俺は、もうフラウからは見放されているので」
「え・・・?」

 言うつもりのなかった言葉にセイは一瞬しまったと思い口を閉ざしたが、眉を潜めたギムリィと声を上げたハレムに怪訝な態度を取られたため、観念して自分がフラウに言われたことを話すことにした。そして話しているとふつふつとタイムに対する怒りがこみ上げてきて、セイはほぼ初対面である二人に向かって半ば愚痴のようなものを零していた。

「ふむ、タイム侯爵家の三男か・・・・・・。あまり目にしたことはないですね」
「ああ・・・。それで、彼がフラウの側に現れたときからあいつの態度がおかしくなったと・・・・・・?」
「ええ、考えてみるとそうなんです。それまではいくらあななたちを敵視していたとしても、今日のようなことは決してしなかったでしょうから」
「では彼についても調べて見た方がいいですかね?兄さん」
「ああそうだな。セイ、有益な情報をありがとう」
「いいえ。よければ俺も協力させてください。なんだか最近あいつ、危なっかしいんです。この後も何も起きなければ良いんですが」
「助かる。ではフラウとタイムの動向を探ってみてもらえるだろうか。ブロッサム家の人間に頼むことではないが」
「いいんです。俺はどうせ仲間はずれですから」

 セイは吹っ切れたような、だが少し寂しいようなそんな表情をして立ち上がり、それではと二人にお辞儀をして部屋から出ていった。

「最近タイムがフラウに近づいている・・・か・・・・・・」
「怪しいですね」

「もう行ったか」
「・・・・・・」

 ギムリィがセイから聞いた話について顎に手を添えて考え込んでいると、会議用机の椅子の影から二人の男が姿を現した。一人はギムリィの婚約者のクォードで、もう一人はハレムの婚約者であるジルである。
 クォードは、愛する婚約者が敵対する家の者と部屋で話をすると聞いて、ギムリィの制止も聞かずにずっと部屋で隠れていたのであった。どうしてそんなことをする必要があるのかと聞けば、『俺のギムリィに手を出すかもしれないからな。いざという時は俺が成敗してくれるわ!』と元気よく意味のわからない答えが返ってきたものだ。それに便乗したジルも居残ることになったが、自分の婚約者に呆れるギムリィとは違い、ハレムは耳まで真っ赤にして嬉しそうな様子を見せた。

「お前がいる必要、なかっただろ?」
「いいや!あいつ、お前に見惚れてたぞ!?ったく、油断も隙もねぇな。美人な嫁を持つとこれだ」

 無意識に出たであろうその言葉に、今度はギムリィが耳を朱に染めたがすぐに咳払いで誤魔化しその熱を霧散させた。

「それで・・・、タイム家の三男坊についても調べる必要がありそうだな」
「そうですね」

 生徒会室では新たに出てきた怪しい人物に、不穏な空気が漂っていた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

フードコートの天使

美浪
BL
西山暁には本気の片思いをして告白をする事も出来ずに音信不通になってしまった相手がいる。 あれから5年。 大手ファストフードチェーン店SSSバーガーに就職した。今は店長でブルーローズショッピングモール店に勤務中。 そんなある日・・・。あの日の君がフードコートに居た。 それは間違いなく俺の大好きで忘れられないジュンだった。 ・・・・・・・・・・・・ 大濠純、食品会社勤務。 5年前に犯した過ちから自ら疎遠にしてしまった片思いの相手。 ずっと忘れない人。アキラさん。 左遷先はブルーローズショッピングモール。そこに彼は居た。 まだ怒っているかもしれない彼に俺は意を決して挨拶をした・・・。 ・・・・・・・・・・・・ 両片思いを2人の視点でそれぞれ展開して行こうと思っています。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる

ユーリ
BL
魔法省に悪魔が降り立ったーー世話係に任命された花音は憂鬱だった。だって悪魔が胡散臭い。なのになぜか死神に狙われているからと一緒に住むことになり…しかも悪魔に甘やかされる!? 「お前みたいなドジでバカでかわいいやつが好きなんだよ」スパダリ悪魔×死神に狙われるドジっ子「なんか恋人みたい…」ーー死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる??

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

処理中です...