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しおりを挟むクォードたちの両親、現国王と王妃は両方とも男性で、同性同士の婚約だった。その前の王と王妃も同性同士での婚約で、国民はもはや性別に対する批判はなく同性同士での妊娠や出産における身体への影響をただただ心配していた。
世間一般でも同性同士の恋愛や婚約が認められ、今では普通といってもよいくらい皆の意識に取り込まれている。
自分たちの異常な出生など意識せずに生きてきた王子たちだが、自分たちが誕生できたのはよりにもよって魔族たちの介入があったからだということに、少なからずショックを受けていた。
*****
あの後、リリーにかけられた呪いを解く方法はないという事実を突きつけられ、さらに王子たちも自分たちの出生の秘密を知ってしまったことによって、暗い空気が部屋を包んだ。
そしてそのまま解決策もなく解散し、各々が晴れない顔で戻っていった。慰めのためか、ギムリィが肩を抱き頭を撫でてくれたが、リリーには絶望しかなかった。
リリーは自室へと戻り、すぐにベッドの中へと潜り込む。今日はパーティーで恐怖を味わったがその分疲れもあってかすぐに寝付くことができた。
ギムリィはリリーを自室へと送った後、自室でハレムとリリーのことについて話し合うことにした。どうやったら気を持ち直してくれるのだろうかとか、今日のこともあったのでしばらくは外に出ない方がいいかもしれないということなど。そして話題が逸れ、なぜ父はあれだけ重要なことを黙っていたのかや、文献を隠したことに対してことなど父への批判も口にし出したが、やはり今一番大事なのはリリーであることには変わりないと思い直した。
治らないと聞いた時の、まるで今まで歩いてきた道が目の前で途切れてしまったかのような、やりどころがない顔。そして、悲しげに伏せられた目。そして長い睫が作る影も、悲しそうな色をより濃く見せた。
愛する弟に悲しい思いをしてほしくない。それが二人の総意だった。
*****
残りの夏休み、リリーは屋敷にこもって過ごした。食事と湯浴みのときしか部屋から出ない。最初は食事も自室で取っていたのだが、ギムリィとハレムが優しく優しくかき口説き、やっとのことで一緒に食卓につけるようになったのだ。
リリーはあの夜、あのパーティーで無理矢理謝らされそうになったことに対する恐怖に苛まれていた。
周りを取り囲む者たちに自分の味方は一人もいない。ざわざわと脳内がパニックを起こす五月蠅さで取り囲み、自分を責め立てる。目の前にいる絶対的な敵がリリーに向かって、口の端を引き上げながら一言『謝れ』と述べる。それに詰まる息。うまく声が喉から出せない。喉が引き絞られたかのように引きつる。手に汗が滲んでくる。背中にも、額にも。でも心の臓は凍っていて、汗が滲んでいるくせに手先も冷たくふるふると小刻みに震えている。
いくら頑張ってみても出せない声。出してしまったら自分が恥をかくだけでなく、兄や家の恥にもなってしまう。今まで自分のことを守り、どんなとときも優しくリリーの居場所になってくれていた兄たちに、この群衆の嫌な目線を浴びて欲しくなかった。そんな思いもあり、なかなか声が口の外から出てくれない。そんな僕に皆の、にやにやとした視線が突き刺さる。ぐさぐさと。
「っは!!」
リリーはあの日の悪夢に飛び起きた。自分を取り囲む集団。誰一人味方のいない場での発声の強要。
自分には兄や王子たちという味方がいる。それはわかっているのだが、あの場での恐怖の体験が頭から離れてくれないのだ。だから、こうやって時々夢に見ては飛び起きる。
ドクドクと早く脈打つ心臓に手を当てて、『はっ、はっ、はっ』と短く呼吸をする。しばらくすると落ち着いてきて、『ふ~~・・・・・・』と一息ついて汗を拭うのだ。
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