天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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 今日も、昼休みの少しの時間を使い昼食を食べているリリーの隣では欠伸を噛みしめ眠そうなフラウが一定の距離を保って座っている。リリーが教室を抜け出すのは大体昼休みで、その時間はいつもべったりな兄やゼノが大抵いなくなることから教室に一人でいることが耐えられなくなるからだった。リリーは人の多い場所でものを食べることが苦手だった。誰も自分のことなど見ていないのはわかっているが気がそぞろになってしまって、何を食べてもあまり美味しいと感じないのだ。だから、こうやって人が少なくかつ緑の多い静かな場所は、リリーにとって食事をするに適した場所なのだ。
 そして、こんな風に一人でいるのは危険だと今までリリーを虐めてきたフラウは、似合わない心配顔でリリーが昼食を取っている間は側で見守るということになってしまったのだった。今ではもう慣れたもので、至極静かな庭園の噴水の音を聞きながら、リリーは昼食のパイを囓って飲み込むのだった。
 昼食を食べ終わるとすぐに教室に戻るため、今のところは誰もリリーとフラウがこうして共に時間を過ごしていることは知らないだろう。今日も、リリーは食べ終わるとガサガサと片付けをし、フラウに小さく頭を下げてから教室へと戻っていった。フラウはベンチに寝転がり、リリーを見もせず手を振ってリリーを見送る。そんな、上級貴族の令息にあるまじき行為に、リリーは目を丸くするとともに少しだけ頬を緩めた。
 彼は以前まで自分の家柄に非常にこだわっていた気がする。だから、ホワイトローズ家への敵愾心が強かったのだろう。ホワイトローズ家の者が次々に王族の婚約者となっていき、自分の家が立たされている危機に気が焦って、常に余裕がないように見えていた。
 だが彼は、あのパーティーでリリーにしてしまったことを深く後悔しているという。きっと、それで考え方を変えたのだろう。今の彼は、今までで一番“彼自身”である気がした。

 こんなに毎日自分を守ってくれているのに、お礼の一つも言えていない・・・・・・。

 リリーは教室に戻りながら、頭の中でフラウのことを考える。彼にお礼を言いたい。普通に話してみたい。でも、それはできない。自分は普通に話せないから・・・・・・。


 これまでなかった程に兄やゼノたちと離れる時間は多く、そのことが以外にもリリーの中で大きな暗雲となっていたのだった。その餓えと寂しさという溝を埋めてくれたのは、他でもないフラウで、兄たちが聞けば激怒しブロッサム家に突撃しに行くかもしれない・・・。それほどブロッサム家とホワイトローズ家は仲が悪いのだ。パーティーで作られた傷は未だ癒えないし、フラウを見る度にあの夜のことを思い出してしまい人の視線も怖いままだが、嫌いな人を嫌い続けるエネルギーが、リリーには湧いてこなかった。


 あんなに自然と笑うのに・・・・・・わざとらしくなく、恩着せがましくなく助けてくれるのに、嫌いで居続けることの方が難しいだろう。

 リリーを狙う生徒を一掃してくれる、少し掠れた低い声。普段は眉間に皺を寄せ不機嫌な顔のことが多いのに、ふと笑ったときにできる口の横の笑窪。細められる目は、意地悪な顔をしているときはすごく怖いのに、笑っているときは優しげで、その笑顔を見るとドキドキと鼓動が激しくなる。

 彼のことが大事。だと、リリーは気づいた。

 彼のことが大事だから――彼がその顔に傷を受けたとき、リリーはその目から涙が出、胸はキリリと痛んだのだった。


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