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しおりを挟むある昼休み、最近の行動パターンに組み込まれた庭園での昼食のためリリーが外に続く廊下を歩いていると、後ろから複数の生徒たちが近づいてくるのに気がついた。最初はその足音の持ち主たちも目的地に向かって歩いているのかなと思っていたが、どうも彼らはリリーの後をついてきているらしい。嫌な予感に汗が流れた。
ここ最近は誰にも絡まれなかったし、あっても相手は一人や二人だったが今回は最低でも5人はいそうである。リリーは自然と早足になったが、その分彼らの歩く速度も上がった。まるで狩人に追いかけられる小動物の様な心地で、怖くて怖くて廊下を走る。するとリリーに気づかれたことを悟り、隠す様子もなく彼らはバタバタと追いかけてきた。
『庭園まで行けば、フラウがいる・・・・・・!!』
そう思い、全力でフラウの元へと走った。もうすぐそこに行けば庭園の入り口――というところで、いきなり後ろから腕をつかまれその拍子に後ろへと身体が傾く。受け身も取れず思いきり尻餅をつくかと思われたが、腕を引いた相手に抱き込まれてしまった。
「おっとっと・・・。つーかまーえた!」
「以外に足が速いんだな」
「でも必死に逃げる子ウサギみたいで可愛かったね」
そんなことを言っている者たちのことを振り返ることなどできず、捕まえられた両腕を震わせながら、地面に尻餅をついた状態でいた。
『捕まってしまった・・・・・・!!』
その恐怖で、身体を思うように動かすことができない。
「さぁ~て、みんなが失敗したリリーちゃんの貞・操・奪・取☆。やっちゃうぞ~」
「おい、ふざけてないで早くやれ」
何ともふざけた口調で後ろから強引にリリーの制服を脱がす者と、その横で立ち命令をする偉そうな男の声。『いやっ!いやっ!!』と身をよじって服を脱がしてくる手から逃げようとするが、側に控えていた生徒たちにそれぞれ手と足を固定され、何も抵抗できなくなる。片方の腕は先ほどいきなり引っ張られたことで関節が外れてしまったのか、とてつもない痛みが襲ってきていたが、今はそれよりもこれからされることへの恐怖で頭がいっぱいだった。
『いやだっ!!!』
「イテッ!このっ!」
「っっ!」
リリーは思いの限り力を振り絞り、痛みのない方の腕の拘束を振り切った。その拍子に手が生徒の顔に当たってしまったようで、逆上したらしく頬を平手で殴られる。殴られた頬は熱く、腕はひたすら痛み、心は恐怖で凍りついている。もう何もできなかったし、何もしようという気も起こらなかった。
「リリーっ!!」
「っ!チッ、邪魔者か」
「ライラック!!お前!!こんな時期にこんなことをやって、ただで済むと思ってるのか!?」
こちらの騒がしさに気づいてくれたのか角の向こうからフラウが現れ、その顔を見た瞬間リリーの強ばっていた身体の力が一気に抜けた。
リリーを拘束している一味の一人がフラウと顔見知りのようで、フラウが険しい顔をしてライラックと呼ばれた生徒を睨み付け、彼の胸ぐらを掴み上げた。
「っは!おいおいどうしたフラウ。お前、いつからホワイトローズの番犬になったんだ?」
ライラックが馬鹿にしたように笑った瞬間、彼の顔にフラウの拳がめり込み勢いよく後ろへ倒れた。リリーを含めその場にいた皆が固まったが、フラウの行動にリリーを押さえていた者たちが一斉にフラウに向かっていった。
気がついたら、乱闘になっていた。フラウ一人に大柄な生徒が5人。だが力の差は歴然としており、名前も知らない生徒たちが次第に圧倒されていく。だが一人を蹴りで気絶させたかと思ったら、フラウは背後にいた生徒に身体を拘束されてしまった。前方の生徒が嫌な笑みを浮かべながらフラウの横面を殴る。フラウは拘束を解こうと暴れるが背後の生徒は力が強く、何度も何度も腹や顔などを殴られてしまう。
『いやっ!!もうやめて!!!』
リリーは心の中で叫んだ。殴られる度に頭が反動で揺れ、頬が腫れ上がってくる。
「これで最後にしてやるよ」
「へへっ。おいどうしたさっきの威勢は――っぅわっ!」
一層大きく振りかぶった生徒に、リリーは溜まらず走り出していた。
思いっきりフラウを拘束している生徒に向かって体当たりをすると、彼のバランスが崩れ腕の力も弱くなった。その隙にフラウは怯んだ二人を殴り飛ばし、やっとのことで全員を倒した。
はぁ-・・・と大きな息をつき地面に座り込んだフラウに、リリーはふらふらと近寄っていった。
「無事だったか・・・・・・?」
「・・・・・・なさい。・・・・・・ごぇんなしゃい・・・・・・。ぼくの、せぃで・・・・・・」
「!!」
リリーはフラウの傷つき腫れ上がった頬に手を添え、涙を流した。口からは無意識に、謝罪の言葉が流れ出す。そんなリリーに、フラウは驚いた様な顔をしてじっと見つめていた。
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