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しおりを挟むリリーがゼノと共にパーティーに参加したならば、クォードとギムリィ、ジルとハレム、そしてゼノとリリーでダンスを踊ろうと約束をしていたのだが、この様な状況になってしまったことで、その約束は立ち消えになってしまった。それに今、ギムリィたちには踊ろうという気持ちも沸いていなかった。クォードとジルも、ゼノが落ち込んでいる中自分たちだけ恋人と楽しげにいることに罪悪感を感じていたのだ。
着飾った男女たちがダンスを終え、拍手を浴びながらそれぞれ中心から退いていく。ダンスタイムは終わったようで、演奏も華やかなものから静かなものへと変わっていた。
正面の舞台に生徒会の役員が上り、それに話をしていた生徒たちが揃って目を向けざわざわとし出す。その表情はわくわくしており、これから何が始まるのかわかっているような顔だった。
「さて皆様。お待ちかねでございます!修学祝賀パーティーの恒例となりました、“婚約宣言”でございます!!」
司会の生徒がそう言うと、一気に会場が色めきだつ。婚約を公表している生徒たちは数組いるものの大半はこの祝賀パーティーで発表を行い、突然行われるそれには皆が予想もしなかった関係も明らかになるからだ。口角を上げて噂話をし出す者たちとは対照的に、ギムリィは唇を噛んで硬い表情になる。
愛しのリリーに近づくフラウが憎々しくて仕方がない。しかし、リリーを幾度も助けてくれたことは事実であり、それは彼の今までのリリーへの態度を挽回するものにも相応しかった。彼への懐疑は収まらず、もう反省したのかもしれない彼にさらに汚いところがあるのではないかと疑う自分にも嫌気がさす。だが彼への疑いの心は、今でも変わらない。ふと思ってしまう、彼がリリーを助けていなかったら、今頃は自分たちで楽しくパーティーに参加できていたのかもしれないという存在しない空想に、自分自身に呆れを感じた。
婚約宣言。これは前回、前々回で当時一学年だったギムリィとハレムがそれぞれ王子たちとの婚約を貴族たちの前で宣言した場である。昔から続く歴史ある儀礼の一つの様なものとなっており、皆、この場で宣言をすることに憧れを持っているのである。大半の生徒たちがこの場で宣言を行うのは、そういった理由からだった。だがもう一つ理由があり、それは宣言前にいくら遊んでいようが、宣言をしてしまえばそれ以前の関係を打ち切れるという嫌な面での使い方もできるという点である。それほど、この“婚約宣言”は影響力の強いものだった。
ギムリィはぼぅっとしている間に、何組もの生徒たちが名を呼ばれ台に上がって宣言のために来ている牧師の前で宣言を行っていく。
婚約前の聖なる儀式。それを終えた、二人の仲睦まじい生徒たちを見つめ、自分たちのことを思い出していた。
「では最後の宣言者方でございます。ブロッサム家次期当主、フラウ=ブロッサム様。そしてホワイトローズ家三男、リリー=ホワイトローズ様」
「に・・・いさん。あれ・・・・・・。リリーじゃありませんか・・・・・・?」
司会が放った言葉に、一瞬耳を疑った。
『そんな、ありえない』と思ったのは、当然のことだった。隣にいるハレムが、顔色を悪くしてこギムリィの方を見る。ギムリィも、驚いた顔をして弟を振り向く。視線を今呼ばれ宣言をする場に向かっている二人に向けると、間違いなく自分たちの弟であるリリーだった。
会場全体がざわりと一層騒がしくなる。皆やはり、『ありえない』という心境なのだろう。あちらの方ではセイとアランも驚愕した表情を浮かべている。側に立つフラウリーゼも驚きを隠せない様子だった。
「う、そ・・・・・・。リリーが、フラウと・・・・・・?」
「ゼノ、しっかりしろ!!」
信じられない、いや信じたくない状況に、ゼノが震える声で呟いた。兄であるクォードが肩を掴み軽く揺さぶるがゼノは黙ったままで、司会に呼ばれて台へ上がったリリーたちをじっと見つめている。
「では、誓約の言葉を。フラウ=ブロッサム。貴殿は隣に立つリリー=ホワイトローズをいついかなる時も愛することをここに誓いますか。穏やかな空気が空を包む春の日も、灼熱の太陽が身を焦がす夏の日も、木の葉が散り生命の息音が潜まる秋の日も、そして、ただ凍えるほどに寒く、厳しい冬の日も、貴殿は婚約者となるリリー=ホワイトローズのことを愛し続けると誓いますか」
「誓います」
「リリー=ホワイトローズ。貴殿も、ここに立つフラウ=ブロッサムを愛し続けることを誓いますか」
「リリー目を覚ませ!!そいつはフラウだぞ!!?」
誓約の言葉にフラウは落ち着いた声ではっきりと答え、頷いた牧師が次にリリーへと訪ね答えを仰ぐ。リリーが隣に立つフラウをうっとりと見つめながら口を開こうとした瞬間、今まで呆然とその様子を見ていたゼノが突然立ち上がりリリーに向かって叫んだ。
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