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しおりを挟むリリーへの魔法は驚くほど上手くいった。
彼の過保護すぎる兄たちに驚愕の目を向けられながら、隣にペタリと座り屈託ない笑顔を向け礼を言ってきたリリーを可愛がるのが快感だった。
それからはギムリィたちにも頼まれたように、リリーと喉かな時間を過ごした。魔法をかけられてからのリリーは、可笑しいくらいフラウに夢中だった。フラウを見つめるその目は恋で蕩けきっており、フラウの動作一つ一つを不安げにも健気に目で追ってくる。まるで、フラウに離れて欲しくないかのようだった。昼の時間が終わり別れようとすると、遠慮深げな、だが僅かに涙を溜めた瞳で名残惜しそうに見てくる顔が、たまらなかった。
リリーは魔法によってフラウに対し恋心を抱いていたが、フラウは本気でリリーに惹かれていた。『リリーと婚約したい。どうか、宣言が上手くいきますように』。以前ならば考えもしなかった政敵への恋心。非常に憎んでいた相手に、今ではこんなに優しい気持ちを抱いている自分自身の矛盾に、フラウは苦笑いせずにいられなかった。
年度末の修学パーティーが近づいてきたある日、リリーは浮かない顔をしていつもの庭園へとやってきた。どうしたのかと聞くと、なにやらフラウのことを兄に話したら反対され、リリーが一方的に彼らを無視をしているのだとか。あのリリーを溺愛していた兄たちだ、きっとショックで何も身につかない様子でいるだろう・・・と、少々同情をする。
ぷんぷんと可愛らしい擬音が聞こえそうな様子で怒っているリリーに、ぼそりと『婚約宣言をしないか』と伝えると表情は一変し、花が綻ぶような笑顔になった。
元気よく『うん!』と頷くリリーの笑顔を目にすると、心臓に鋭い痛みが走った。
そしてパーティー当日、フラウとリリーという異色の二人組に周りの生徒たちは皆目を白黒とさせ、二人が宣言をするため壇上に上がったときなどは会場が困惑で満たされた。ギムリィたちは特段驚いており、その直後射殺すような怒りの混ざった目でフラウのことを睨んできた。
宣言が始まり、もう誰にも止めることができなくなる。それでも第三王子たちは魔法のかかったリリーに必死に話しかけ、『神父の言葉に答えるな』『婚約状に署名をするな』と人々をかき分けながら叫び、宣言を中止にさせようとフラウたちに向かってきた。そんな彼らの前にキャスティアが立ちはだかり、フラウに続けてくださいと目線を送ってきた。
フラウは早く宣言が終わって欲しい、と思っていた。リリーが『はい』と言えば、リリーが自身の名を婚約状に書けば、二人は婚約者となれる。フラウは心の中で、『早く、早く』と唱えていた。
だがフラウとリリーの婚約宣言を阻止しようとする彼らに“魔女”の存在を暴かれ、そしてリリーは魔女に操られていると主張し会場全体を困惑させられ、挙げ句の果てに以前まで自分の味方であったはずのセイやアラン、フラウリーゼまでが周りの生徒を振り切り壇の下でフラウに向かって必死に止めるよう叫んできたとき、フラウはそれまで頭を支配していた焦りの気持ちがすぅっとなくなっていくのを感じた。
「兄さんっっ!兄さん言っていたじゃない。私が幸せならそれで良いって・・・・・・。あれは、嘘だったの!?」
フラウリーゼが悲痛な顔でそう叫ぶ。
『止めろ!お前にそんな顔をさせたいんじゃないっ!!』そう、心の中で叫ぶ。
「嘘じゃないっ!!」
「じゃあ何故――っ?」
「俺は、リリーのことを心から愛している」
そう。自分はリリーを愛しているんだ。だから・・・・・・
いや待て。愛しているなら何故自分はこんなことをしている?何故、愛する者に本意でないことを強要しようとしている?それは、本当に、愛なのか・・・・・・?
どうしてフラウリーゼに声をかけられるまで気づかなかったのだろう。何故、自分は愛するリリーを魔女に操らせ、今まで酷いことばかりしてきた自分と婚約させようとしているのだろう。彼は、第三王子と恋仲であるはず。なのに・・・・・・
心の底から愛する妹であるフラウリーゼに声をかけられてから、今まで膨れ上がっていたホワイトローズ家への憎しみや、リリーへの愛に伴う邪な独占欲、支配欲が嘘のように溶けて消えていった。
そのとき、フラウは目が覚めたような心地だった。
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